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滝田 賢治

滝田 賢治 【略歴

アメリカ中間選挙の政治的意義

滝田 賢治/中央大学法学部教授
専門分野 国際政治・アメリカ外交

はじめに

 2010年11月2日に行われたアメリカ中間選挙でオバマ民主党は歴史的な惨敗を喫した。この惨敗はアメリカ国内政治ばかりか、日本・中国を含む国際情勢に大きな影響を与えることは必至であり、我々日本人としても無関心ではいられない。この中間選挙結果の影響を考える前に、アメリカの連邦議会と選挙の関係を少し確認しておこう。

連邦会議の会期と選挙

 アメリカ大統領の任期は4年(再選されれば最長2期8年まで)で、この任期の間に2つの議会が開かれ、それぞれの議会は第1会期と第2会期から成っている。中間選挙はいわば1つの議会の活動を国民が評価する「中間試験」のようなものである。2008年11月の大統領選挙と連邦議会選挙で圧勝したオバマ大統領と民主党は、第111議会で内政・外交に関する法案を強行していったが、この第111議会に対する国民の評価がオバマ民主党の歴史的敗北であったのである。

オバマ人気の失墜

 内政ではオバマ大統領が政治生命を掛けると言っていた医療保険改革法案の成立を強行していったが、特にこの政策は社会主義そのものであると反発した有権者が「ティーパーティー(茶会党)」を結成して反オバマ・反民主党を掲げて全国的な活動を展開したのである。「チェンジ!(変革を!)」をというオバマの主張に共鳴して、2008年選挙で活躍した草の根運動は影を潜めてしまった。

 民主党の歴史的敗北の原因は、オバマ大統領自身も認めているように、失業率9.6%(2010年9月)に象徴的に表れた景気回復の遅れであることは明らかである。失業率9.6%ということは約1500万人弱の失業者がいるということである。オバマ、オバマと熱狂した有権者、とりわけ無党派層の若者、アフリカ系、ヒスパニック系有権者が経済回復の遅れに失望してオバマ離れを起こしたことが最大の原因であろう。

 約20年前の冷戦終結を契機に始まったグローバリゼーションは、1990年代のクリントン民主党政権時代にはアメリカ経済を活況に導いた。しかし同時にグローバリゼーションは中国、インド、ロシアのいわゆるBRICsなど、人口が多かったり(ということは潜在的市場が大きい)、教育レヴェルが高かったり、天然資源が豊富にあるような国家も経済成長させる原動力となり、相対的にアメリカ経済が弱体化したのである。2008年選挙で共和党のマケインが大統領に当選していたとしても状況は変わらなかったであろう。

上下両院選挙と知事選挙の結果

 アメリカ上院は定数100で任期6年であり、50州から大小問わず各州2名が選出されるが、2年ごとに約3分の1が改選される。下院は定数435で任期は2年と短く、小選挙区制で選出されるので、地域密着型のドブ板活動が欠かせない。今回の中間選挙では上院で共和党の47議席(改選前41議席)に対し、民主党が辛うじて過半数の53議席(同59議席)を確保したが、大統領が対外的に署名してきた条約・協定を議会で批准するには3分の2の票が不可欠であり、オバマ大統領の外交政策は大きな制約を受ける可能性が高い。

 また下院で法案を通過させるには過半数の218票が不可欠であるが、11月4日現在、共和党239議席(改選前178議席)に対し、民主党184議席(同255議席)で過半数に遠く及ばず、両党の立場の異なる法案の通過が極めて困難になることは明らかである。第112議会は日本と同様に、「ねじれ議会」となる。

 また知事選挙でも共和党が3分の2以上を確保したため、2012年大統領選挙を戦う上で大きな基盤を築いたことになる。

オバマ政権後半の攻防

 次期下院議長になることが明らかなベイナー共和党下院院内総務は、「小さい政府」を基本原理としている共和党を代表して、「大きい政府」につながる医療保険制度改革は撤廃させると意気込んでおり、オバマ民主党が掲げるもう1つの大きな内政課題であるグリーン・ニューディール関連法案の成立には両党間で激しい攻防が予想される。また外交でも、オバマ民主党政権の多国間協調主義が軟弱であるとして共和党の攻撃を受けており、オバマの「核なき世界」実現のロードマップも中断しかねない。ポーランド、ルーマニアへのMD(ミサイル防衛)配備を見送ることによってロシアと新戦略兵器削減条約(新START)を締結したが、この妥協的結果に第112議会で共和党が抵抗することは明らかである。このロシアとの新条約を梃にCTBT(包括的核実験禁止条約)を批准し、さらにロシアとの核軍縮に進んで行こうとしているオバマ大統領の前に、共和党が立ちはだかることは確実である。イランや北朝鮮の核開発プログラムに対しても「対話と圧力」政策により解決への糸口を探ろうとしていることにも、国益を損ねると批判している。中国の人民元切り上げ問題や日本との普天間問題でも強硬姿勢をとるようオバマ政権に揺さぶりをかけるのはほぼ間違いなさそうである。

滝田 賢治(たきた・けんじ)/中央大学法学部教授
専門分野 国際政治・アメリカ外交
1946年8月横浜に生まれる
1970年3月東京外国語大学英米語学科卒業
1977年3月一橋大学大学院法学研究科博士後期課程修了
1987年4月中央大学法学部教授、現在に至る
1991年3月ジョージワシントン大学(ワシントンDC)客員研究員(~93年3月)
社会活動:国連大学グローバルセミナー委員・講師、東アジア共同体評議会有識者委員、神奈川国際交流財団インカレセミナー委員など
主要業績:『太平洋国家アメリカへの道』(有信堂、1996年)、『東アジア共同体への道』(編著:中大出版部、2006年)、『国際政治:150号――冷戦後世界とアメリカ外交』(責任編集:日本国際政治学会、2007年)、「グローバリゼーションと東アジアの経済リージョナリズム」内田孟男編『地球社会の変容とガバナンス』(中大出版部、2010年)など。