Chuo Online

  • トップ
  • オピニオン
  • 研究
  • 教育
  • 人‐かお
  • RSS
  • ENGLISH

トップ>オピニオン>国際化対応教育の試み

オピニオン一覧

佐藤 文博

佐藤 文博 【略歴

国際化対応教育の試み

-経済学部におけるシンガポールとの連携授業

佐藤 文博/中央大学経済学部教授
専門分野 情報処理

はじめに

 経済学部では、本年4月より機関間協定校であるシンガポールの国立のシンガポール ポリテクニック(Singapore Polytechnic)のICT系学部(School of Digital Media and ICT)のIT & E-Commerce コースを少人数ながら多摩キャンパスの教室での受講を実現した。本コースは、学部卒業を前提としたSpecial Ddiploma コースの一ユニットである。内容は、いわゆる電子商取引発展の経緯と最新動向、技術的な仕組み、そして今後の課題について、通常はWEBにより15週にわたり学習し、随時課題を提出するプログラムとなっている。なお、その間3回はビデオ会議方式でリアルタイムで先方の教員と学生とのコミュニケーションを行う。

写真1 IT & E-Commerce の担当教員の講義 シンガポールポリテクニック

 経済学部におけるこの協定の目的は、国際的な環境のもと変化の速い情報系の分野の効果的な学習モデルの構築にある。アジア地域でICT分野で先進的な教育活動を実施している教育機関と連携することで、中期的には当該分野に有用な国際対応が可能な人材を育成する契機となることを目指している。

 この試みは、経済学部におけるインターンシップやゼミの海外実地調査さらにキャリアデザインなどと同様教室内での学習から世の中のベクトルに合わせて新しい世界を知り、諸課題を考察する機会を与える。そしてさらなる学習への動機付けを与えるものである。

 とりわけ進化の著しい情報通信技術の分野では英語での学習が重要で、このような学習を学生が積極的に取り組むことが今後の国際的な場面で活躍するための第一歩となると強く期待している。

写真2 IT & E-Commerce の受講風景 多摩キャンパス7号館の教室

 経済学部では、すでに1997年度よりシンガポール、フィリピン、ベトナムの大学等との遠隔授業や会議などを試行してきており、2006年度からの3年間にわたる本学の共同研究プロジェクトにより本格的な実施にむけて検討を重ねてきた。

なぜシンガポールか

 シンガポールは人口は約500万人で淡路島の面積しかない都市国家である。特徴的なのは、官民一体で推し進めるICT(情報通信技術)の活用である。高速で確実な情報通信を行う新技術を早く取り入れ、多くの外国の企業が参入するきっかけを作り、また、政府、民間企業、教育機関が連携して一元的に人材育成を推進してきている。

 さらに自由貿易協定(FTA)のもとアジア最大の貿易ネットワークの確立により、横浜港よりはるかに大きい港湾や成田空港をしのぐチャンギ空港の存在などが企業に多くのビジネスチャンスをもたらしてきた。

 何よりも特徴的なことは中国系、マレー系、インド系などの複数の民族から成り立ち、日常生活が国際社会であり、有能な人材が行う効率的なビジネスと相まって、世界に発信され、さらに海外からの人材とビジネスが参入するという好循環となっている。かつて水不足で隣国から購入していた状況からニューウオーターなるものを数年内には輸出するところまでになっている。常に国を挙げて新しい方向にチャレンジしている姿は、教育の分野でも参考になる。

なぜシンガポール・ポリテクニックか

 シンガポール ポリテクニック(新加坡理工學院) は、シンガポールでは最も伝統のある教育機関でかつ、同国の先進的なICT技術の高度な活用を最も早く教育に導入しており、本学経済学部およびITセンターと1997年以来、リアルタイムのビデオ会議を実施してきている友好関係にある。

写真3 シンガポールポリテクニック

 同校は1997年にはシンガポールで最も早くWBT(Web Based Training)を導入活用しており、家庭からも学ぶことができる「バーチャル・カレッジ」プロジェクトを同国の人材育成の政策を踏まえて推進してきた。教育にコンピュータ技術を如何に活用するかその課題解決に向けた教育方法はその模範例として同国でも有名であり、ICTの利用は、教員と学生とのface to faceの時間を増大させるための実現手段であるという同校のポリシーは高く評価できる。

今後の国際化対応教育の課題

 9月上旬の一般紙のニュースによると、日本の大手メーカーが2012年春以降に入社する大学卒以上の社員のうち、事務系については全員、海外赴任の可能性が将来あることを前提に採用する方針を明らかにした。同社は事業のグローバル展開を一層強める戦略を打ち出しており、語学力を必要とする業務で即戦力となる人材を早期に育てる態勢作りに、採用段階から取り組むというものである。事務系は全員を「グローバル要員」として採用し、以降、グループ各社でも順次、同様の採用方針をとりグローバル展開の即戦力となる人材育成を進めるとのことである。実際にこの報道どおりに実現されるかは不明ではあるが、これより先に本年、複数の企業で英語により業務を進める方向が公表されている。

 このように世界を市場とする企業では、人材を広く海外から確保していく方向にあり、その前提で日本人社員に要求される知識・技術・能力の要素として、国際化対応能力と外国語が必然的に含まれるものと思われる。

 ただし、国際化社会で主体性を持つためには日本と日本語をより深く学んでいることが不可欠であり、大学時代に学生たちは今まで以上に日本語について学ぶことが重要であり、これがなければ専門性も深められない。このため前述のIT & E-Commerce コースやインターンシップの履修者には、日本語学習への動機付けとして読売新聞社が特別協賛の日本語検定などの受験を強く推奨している。

 今後は、ICT分野以外においてもこれまで蓄積したe-learningならびに遠隔教育の方法論、手段を外国語等の科目や演習にも段階的に拡大し、経済学部における国際化教育の充実に向けた一方策としての発展が期待される。

佐藤 文博(さとう・ふみひろ)/中央大学経済学部教授
専門分野 情報処理
【略歴】
神奈川県出身。1950年生まれ。
1974年 早稲田大学教育学部卒業
1974年(財)日本情報処理開発協会、(1981年工業技術院出向)
1994年 中央大学経済学部専任講師、1995年 同助教授、1999年 同教授
2002年-2004年 スタンフォード大学Center for Design Research客員研究員
2006年-2008年 経済学部学部長補佐
現在に至る
研究課題:e-learning(遠隔授業)、東南アジアにおけるICT人材育成