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三浦 俊彦

三浦 俊彦 【略歴

これからのマーケティング戦略:ニーズ対応からコンセプト提案へ

三浦 俊彦/中央大学商学部教授
専門分野 マーケティング論、消費者行動論

日本の消費者はタフな消費者か?

 日本の消費者は世界的に見て、満足させるのが非常にタフな消費者と言われる。実際、ハーバード・ビジネススクールのポーター教授が、かつてその著書の中で、「P&Gが紙オムツの新製品テストを日本で行うのは、日本のお母さんが世界で最も品質にうるさいからだ」と述べている。また、評論家の加藤周一氏が「日本文化の雑種性」と呼んでいるように、日本では、クリスマス・初詣・寺の法事を行い、家では、和・洋・中を食べ……などと一種無節操な風景が見られるが、小売店の品揃えも多種多様で広いほどよいと言われたりする(かつてシンガポールの高島屋の方は、そのような消費者に対処するために、百貨店での"悪しき"返品制があると言われた)。また、毎年日経のヒット商品番付が話題になるように、日本では、その集団主義の影響もあって、毎年多くの流行が生まれては消えている。これがまたタフな側面を助長している。

 さらに、近年の成熟社会の中では、高度成長期の中で消費経験を積み重ね、eの時代にネットから多くの情報を得た現代の消費者は、非常に高知識になり、企業と消費者の間の情報非対称性(情報格差)が大きく低下してきている。高知識になった彼らは、簡単には満足しない鑑識眼をもってきたのである。また、彼らはユビキタス消費も行なっていると言われる。ユビキタス・コンピューティングが「いつでもどこでコンピュータ」ということであるように、ユビキタス消費とは「いつでもどこでも消費」ということである。こうして、現代の消費者は、PC、携帯、フリマあらゆる場所で、四六時中、消費ができるようになっている。まさに捕捉さえ仕切れないタフな状況になっている。

コンセプト提案型マーケティング

 品質にうるさく、何でも購買対象にし、流行も頻繁に起こる日本の消費者。さらに、近年、情報武装し、いつでもどこでも消費するようになった彼らに、どのようなマーケティングをすればよいのだろうか。

 そこで提案されるのが、コンセプト提案型マーケティングである。

 マーケティングには、ニーズ対応とコンセプト提案があるが、ニーズ対応の成功例は、セブン・イレブンなどのCVSである。CVSではPOSレジを中心にお客のニーズを収集・分析し、欲しいものを、欲しい時に、欲しいだけ、欲しい価格で提供するシステムを作り上げ、大いに成長した。その対極にあるのが、コンセプト提案で、例えば、デザイナーの山本耀司氏は、朝日新聞のインタビューで「私は最高のファッションを創っているが、わかる人だけに買ってもらえればいい」というようなことを述べている。まさに彼なりの最高のファッションをコンセプト提案しているのである。花王の常盤文克氏はかつて「情報システムからの精緻な情報を分析すれば製品の改良・改善はできるが、画期的な新製品はそのような情報からは生まれない」と言われたことがある。つまり、収集情報からのニーズ対応を超えたところに画期的新製品があるのであり、コンセプト提案の重要性を指摘されていると捉えることができる。

どこからコンセプトを創造するか

 それではこのコンセプトをどこから創造すればよいのだろうか。

 その源泉としては、(1)企業(例えば、技術のプロからの発想:かつてインタビューした任天堂の方は「私たちは消費者調査をしない。なぜならばゲームのことは私たちが一番知っているからだ」と言われたように提供側のプロの発想・技術はまだまだ捨てたものではない)、(2)消費者(例えば、カスタマー・コンピタンスの活用:Windows2000試験版のβ版は、世界65万人のパソコンおたくに配布され、ユーザーのプロとしての彼らから多くの不具合や追加して欲しい機能を収集し、彼らの高知識を自らの競争力や新発想に生かした)、(3)他企業(例えば、異業種とのコラボ:安売りブランドに堕していた花王「エッセンシャル」は、雑誌『Cancam』とコラボして、TV広告と雑誌記事で同時にターゲットに訴求する新ブランド戦略を構築して成功した)、などが考えられる。

 以上、これまでおよび近年の日本の消費者の特徴とそれに対するマーケティング戦略の方向性について考えてみた。昔、ダイエーの中内社長は「日本人には、面白くてタメになるものが売れる」とよく言われていた。面白いだけでもダメで、タメになるだけでもダメで、両者が揃わないと日本の消費者は買ってくれない、というわけである。まさにここに日本の消費者の原点があるようで、品質がよく(タメになる)、イメージもよい(面白い)商品・サービスでないとタフな日本の消費者は買ってくれないのである。そのようなコンセプトを創造できたとき、新しいJapan as No.1の時代が到来するかもしれない。

三浦 俊彦(みうら・としひこ)/中央大学商学部教授
専門分野 マーケティング論、消費者行動論
京都市出身。1958年生まれ。1982年慶応義塾大学商学部卒業、1986年慶応義塾大学大学院商学研究科博士課程を中退し、中央大学商学部助手。同専任講師、助教授を経て、1999年より現職。その間、コロンビア大学ビジネススクール客員研究員、ESCP(パリ高等商科大学)客員教授、イリノイ州立大学客員教授。主要著書に、『マーケティング戦略[第3版]』(共著、有斐閣)、『グローバル・マーケティング入門』(共著、日本経済新聞出版社)、『ブランドデザイン戦略』(共編著、芙蓉書房)、『スロースタイル』(共編著、新評論)、『eマーケティングの戦略原理』(共編著、有斐閣)、など。