2019年春号

フェンシング女子サーブル 全日本選手権初優勝 強いヒロイン誕生

次は2020年東京五輪メダル獲得

江村美咲 選手(法学部3年)

 中央大学フェンシング部の江村美咲選手(法2、大会時)が昨年12月の全日本選手権個人戦女子サーブル決勝を制して初優勝。2020年東京五輪で金メダル獲得を目指す、ニューヒロインは「最強でありたい」と意気高らかだ。

決勝の試合会場となった東京グローブ座(代表撮影)

 2018年12月9日に行われた日本一を決める同大会、各種目個人戦決勝の舞台は「ロミオとジュリエット」などシェークスピア作品などを上演する東京グローブ座(東京・新宿区)。

 英国グローブ座を模した独特の円形劇場で、3層からなる観客席はステージを大きく包み込むようだ。

 場内照明を観劇同様に絞り込み、ピストと呼ばれる試合用コートだけをライトアップ。舞台奥の大型スクリーンには、激しく動く出場選手の心拍数を電子表示した。

 同競技日本初の五輪メダリスト(2008年北京大会・銀、2012年ロンドン大会・銀)で日本協会現会長・太田雄貴氏のアイデアだ。

 女子サーブル決勝は終盤に入っていた。江村選手は、次の1本を取れば初優勝、念願のタイトル獲得だ。チャンピオンポイントを迎え、秘めていた作戦を実践した。

 相手の攻撃をかわしながら、少しずつ前へ進む。長さ14メートルのピスト。一歩一歩前進、じわじわと距離を詰め、ピストの最後尾近くまで追い詰めた。

 有利な展開となって、江村選手の剣が初めて動いた。相手が避けようとして生じた一瞬のスキを逃さずに斬った。審判器にランプが点灯し、ポイント獲得。15-9(15点先取)。日本一と呼ばれるようになった。

女子サーブル決勝で攻める江村選手(左)(代表撮影)

 「打ちたくて、ずっと、我慢していました」

 渾身の一撃には、ためていたパワーがあった、磨いていたテクニックがあった。

 前年は準優勝。中学3年生から日本代表として注目されながら、手が届かなった栄冠を得た。

 「これで自信になりました」

 学業と両立させながら進めてきたフェンシングの道に間違いはなかった。

 相手選手は中大のチームメイト、向江彩伽選手(理工2、大会時)。中大勢による決勝だった。

 互いに頂点を目指した戦いは昨年3回あった。10月の関東学生選手権、11月の全日本学生選手権、12月の全日本選手権。江村選手の3戦3勝だった。

 「お互いによく知っています。(全日本選手権の)試合前にはどう戦うか迷っていましたが、いつものように全力でやろう、と」

 2人は住まいが近所だ。東京グローブ座へのアクセスでは、江村選手の家族が運転する車の後部座席に2人並んでいた。

 優勝と準優勝に色分けされた帰路の車内では、初の試みとなった東京グローブ座・決勝が話題となった。「あの舞台に立てて良かったね」「舞台感があったよね」

 江村選手によると、東京グローブ座は後方にいる観客の顔まではっきりと分かる、選手はすごく注目されていると感じる、これまでなかった環境。試合の模様はインターネットのライブ中継で国内外に伝わり、会場外からも大きな反響を呼んだ。

 「ライブ中継のおかげで、久しく会っていなかった中学時代の友達や懐かしい人たちからお祝いのメールをもらいました。びっくりして、うれしかったです」

 「スクリーンに表示された心拍数も観客の皆さんの目も気になっていましたが、頑張って見ないようにしていました」

 研ぎすまされた集中力も勝因のようだ。

 フェンシングを始めたのは、父が主宰するフェンシング教室へ通うようになってから。父・宏二さんは中大出身で1988年ソウル五輪代表選手。北京五輪では代表監督を務めた。

 兄の後について教室で遊んでいるうちに、マスクをつけ、剣を持つようになった。小学校2年生の頃だった。母・孝枝さんも元フェンシング選手。チャンピオンを決める決勝の観客席には家族がそろっていた。

 当初の種目はフルーレだった。サーブルへ転向したのは、サーブル大会優勝景品が大好きなキャラクターのパズルで、それが欲しくて出場した。見事に優勝。

 以来、攻撃にサーブル特有の「斬る」が加わり、「突き」と「斬る」を使い分ける。攻撃有効面はフルーレより広く、両腕、頭部を含む上半身だ。

 日本協会の強化選手に選出され、練習場は東京・北区のナショナルトレーニングセンター(NTC)へ移った。各競技のトップレベル選手が国際競技力向上を目指し、集中的・継続的に強化活動を行う場所である。2008年1月の設立以降、各競技において好成績を挙げ、その存在が際立っている。

 江村選手は中大、学内のスポーツ振興・強化推進事務室、フェンシング部などに感謝する。

 「事務室の方々や皆さんに私の練習環境を理解して頂き、すごく応援して頂いています」

 中大の中長期事業計画「Chuo Vision 2025」の冊子、スポーツ振興事業ページには期待のアスリートとしてカラー写真付きで紹介されている。

 登校時は物静かな法学部の3年生。学食棟「ヒルトップ」で友人とランチを楽しみ、広大なキャンパスを歩いては「空がきれい」と豊かな自然環境に癒される。

 目指す2020年東京五輪まではフェンシング中心の生活となりそうだ。

 2016年リオデジャネイロ五輪は代表選出に4ポイント足りず、バックアップメンバーに回った。先の全日本選手権では前年決勝の1点差敗北からジャンプアップした。

 「もっともっと、いいプレーができると思います。最強でありたい。東京オリンピックでは個人と団体で金メダルを獲りたい。そのためには、まず団体メンバーに入らないと。代表メンバーに入るのは簡単ではありません」

 団体戦は2017年・台北(台湾)ユニバーシアードで金メダル。2018年全日本選手権で優勝。関東学生選手権では中大チームで頂点に立ち、チームプレーの醍醐味に魅せられた。同僚・向江選手もユニバ、全日本、関東学生制覇のメンバーだ。

 国内ランキング1位(1月19日現在)の江村選手は、現在でも日本代表(8人)メンバーだ。それを過去のものとして、大願成就へ向けて、一つひとつ確実に、を心掛ける。

 キーワードは「一歩前へ進む」。フェンシングの公用語ともいわれるフランス語で「マルシェ」と言う。東京五輪の競技開始は2020年7月25日・土曜日。その日、その時刻まで、マルシェの毎日だ。