2019年秋号

「ジョ リク」選手を撮影し続ける 後輩アスリートに熱い思い

7月に渋谷ヒカリエで初の写真展

女子陸上競技部OG 服部由美子さん(昭和60年卒)

関東インカレ200メートル決勝で1位となった菅原聡美さん(当時4年、2014年卒)の感極まった表情を写した作品。菅原さんは前年の同大会同種目で2位だった悔しさをバネに優勝した

 女子陸上競技部OG(昭和60年卒業)の服部由美子さんは、アマチュア写真家として、後輩のアスリートらの姿を十数年、撮り続けている。7月には初めてとなる写真展「ジョ リクの愛し方 ~麗しき女子陸上競技の世界 服部由美子作品展~」を東京都渋谷区の渋谷ヒカリエで開き、話題となった。「苦しみ、悩み、成長する4年間の選手の軌跡を記録し続けたい」 。後輩たちへの思いが撮影の原動力となっている。

 初の写真展は、「躍動感のある楽しい写真」「挫折や辛さに負けず、立ち上がる姿」 「力を存分に発揮できた喜び」の3つをテーマに展示を区切り、女子陸上競技部の選手をメーンの被写体とした数多くの作品の中から厳選した約50点を紹介した。

渋谷ヒカリエで初の写真展

「和」のイメージの装飾を施した展示会場

 「頑張っている姿を撮る。撮り続けたいと思わせる後輩が多いんです」

 例年、春から初夏に関東インカレ、日本選手権、秋から冬は日本インカレ、関東大学女子駅伝、全日本大学女子駅伝―などと、400ミリの望遠レンズなどを背負って各地を飛び回る。撮影機材は約13キロにも上る。女子陸上競技部OG会幹事も務め、日本インカレ前の陣中見舞いや冬季練習に駆けつけた際などには、撮影も欠かさない。

 十数年前、OG会の会報「うずみ火」の編集に携わるようになった。撮影にコンパクトなデジタルカメラを使っていたところ、学生時代に女子陸上競技部監督として指導を受けた竹内三郎さんから「おれのカメラをやるから、これで撮れ」と一眼レフを渡された。高性能・高精度のカメラのファインダーをのぞくと、「違う世界が見える」と目を見張った。

写真展会場で現役の女子陸上競技部員と記念撮影。左から主将の荒島夕理さん(文4)、主務の出水楓さん(商4)、服部さん、五島莉乃さん(経済4)、古川杏奈さん(文3)。後ろの展示作品は、豊田梓さん(当時4年で主将、2017年卒)が関東インカレの七種競技・砲丸投げで大幅に自己記録を更新した瞬間の表情をとらえた写真

陸上の師が"カメラの師"にも

和のイメージの風鈴による展示作品。短冊に写っているのは現役部員の木下友梨菜さん(経済4)

 監督時代の竹内さんは、多摩キャンパス陸上競技場で練習中も、合宿中でもカメラを肌身離さず、選手の姿を撮っていた。合宿後には、プリントアウトした何十枚もの写真を一人ひとりに手渡してくれた。服部さんも焼き付けた写真を記念アルバムにアレンジして、卒業する部員に贈るようになり、「写真という形に残してもらえてうれしいです」と感謝の言葉をかけてくれる卒業生も多いという。服部さんにとって、陸上の師が"カメラの師"にもなったといえる。

 4年生の最後のインカレが終わると寂しい半面、成長する姿を見届けられたうれしさも感じる。結果が出ても出なくても、苦しみ、もがいて頑張ったことに違いはない。「結果がすべてではない。それを写真として記録し残したい。被写体が素晴らしいので、バッグを背負えるうちは続けます」。後輩にカメラを向けるまなざしはどこまでも温かい。

「カメラは私になくてはならないもの」
現役時はやり投げ選手、日本インカレ6位、インターハイ5位

 服部さんは群馬県出身。現役時代はやり投げの選手だった。県立富岡東高校(現・富岡高校)の陸上部のときは、中大陸上競技部OBで後に中大女子陸上競技部監督となり、今年3月まで務めた高橋賢作さんの指導を受けた。

 富岡東高はやり投げの強豪選手を多数輩出することで知られ、 顧問の高橋さんが多くの部員にやり投げの試投を勧め、適性を確かめていたという。最初は走り幅跳びが専門だった服部さんだが、やり投げに向いていると見込まれ、転向する。高校3年時にはインターハイで5位に食い込むまで力をつけた。

 高校卒業後、中大文学部哲学科に進学した。やり投げは1年時に日本インカレ6位となった後は、伸び悩んだという。「長い時間、ただ練習していただけだった。空回りしてしまった」と振り返り、「練習で苦しみ、試合を楽しみ、力を出し切ってほしい。4年生は笑って(部活を)終えてほしい」と現役の部員にエールを送る。多摩キャンパスの陸上競技場を前にすると、「ここで悩みながら投げていたなあ」という思いが頭をよぎるという。

 大学卒業後、東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドに入社。役員秘書や園内のセキュリティー維持、キャスト採用などのさまざまな業務に携わるかたわら、「カメラは私になくてはならないもの。カメラがないと私じゃない」と話すほど、本業の仕事と同じくらい撮影に夢中になった。