2019年秋号

充実の夏、4度目の訪台

台北大生と法律討論会

法学部 新井誠ゼミ

2019autumn02

中央大学法学部新井誠ゼミ・法学研究科成年後見ゼミの学生・大学院生が8月19~22日、台湾を研修で訪れ、法律討論会などで台北大学の学生らと交流した。2016年度から続く"合同ゼミ"で法学への考察、知見を深めたほか、台湾の文化・生活に親しむ機会も設けた。学業の面も余暇も有意義となった夏の4日間を、ゼミ生の岡本紗喜子さんがリポートする。本学と台北大学は2017年5月に学術交流協定を締結している。

任意後見制度を考える ~台湾研修を通して~

新井誠ゼミ 法学部3年 岡本紗喜子

台北大生らと活発に法律討論

中央大、台北大の双方の学生が任意後見制度などについて活発に討論した

 8月20日、ゼミの学生11人と大学院生1人の計12人が新北市にある台北大学を訪問し、「任意後見制度」をテーマに法律討論会を行った。

 実はこの研修の前にも、中央大学に台北大学の先生方を招き、双方の後見制度の違いについて勉強会を行っていた。それを踏まえ、今回の台湾研修では、任意後見制度をめぐって起こる問題とこれからの展望について討論を行った。

 任意後見制度とは、自らの判断能力が衰える前に財産管理に関する事務を行ってくれる任意後見人を選任し、契約で代理権を付与する制度である。日本では1999年に「任意後見契約に関する法律」により法制化された。

 一方、台湾では今年6月、任意後見に関する法律が効力を生じたばかりである。すでに日本では当該制度について判例が出ており、いくつかの争点もある。それが台湾でも今後問題となるのか、また日本と台湾の制度の違いがどう関係するのかなどの論点が提示され、討論が進行した。

 論点の中に、任意後見契約の締結において必要とされる能力とは何か、というものがあった。例えば、日本でも台湾でも、任意後見から法定後見に移行することはあり得る。法定後見制度は「すでに判断能力が落ちたか、あるいは有していない人のために、家庭裁判所が後見人等を選任する」という制度であり、いまだ判断能力を有している人のための制度から、すでに失っている人のための制度に移行するのは、ある意味自然なことである。

 だが、逆のパターンもあり得るのかという疑問も出てくる。つまり、法定後見から任意後見に移行することはあるのかという疑問である。日本では法定後見は判断能力の程度により3段階に分かれており、契約能力があれば移行することは可能だということになっている。

研修でスライドを使って発表を行う学生たち

 一方、台湾ではその点が1つの論点となっている。判断能力がすでに低下していれば契約できないとするならば任意後見への移行はなされない。しかし契約できるとすると、台湾の法律には明文の規定がない。現状は、後見制度に対する台湾の法曹界や一般市民の受け止めといった今後の状況が注視されるという段階にあるということであった。

  将来自分が判断能力を落としたり、喪失したりするときのことなど、まだ先のことだと思っても、そのときが来れば自己決定と法的安定性という公益の狭間で難しい法律上の問題が生じるだろう。特に今の日本は超高齢化社会であり、その点について考察することはとても興味深いと感じた。中央大学に戻り、ゼミでさらに知識を深めたい。

 今回の研修では参加者全員で準備をし、発表を行った。討論会の最中や討論会後も質問をし合い、話し合った。台北大学の先生が熱心に教えてくださり、大変有意義な討論会になったと思う。

中大への留学生と再会、高等裁判所や老人ホームも訪問

 昨秋から今夏までの約1年間、台湾から中央大学への留学生3人が、新井ゼミでともに学んでいた。今回の訪台で彼らと再会し、法律討論会の席も共にすることができた。

 20日午後や21日は、彼らと台北大学の先生が高等裁判所や老人ホーム、観光名所を案内してくれた。台湾の学生、先生方はともに日本語が大変流暢で、参加学生のほとんどが日本語しかできない中で、申し訳なさは募るばかり...。交通手段の手配をしてもらうなど、本当に感謝しきりだった。

 21日に訪ねた新北市の老人ホーム「楽山療養院」では、スタッフの方に建物内を案内していただいた。ここはハンセン病の療養施設だった場所で、現在はお年寄りのほかに障がい者も入所している。障がい者の方たちの絵画のグループの部屋では、各自が思い思いに絵をかき、作品はスタッフの着るTシャツの絵柄にも採用されていた。

 年一度、日本で開かれる国際的な展覧会に入賞された方もいて、どの絵も本当に素晴らしく、皆さんの生き生きとした表情が印象的だった。台湾における障がい者と成年後見制度の関わり、支援のプロセスについても詳しく教えていただいた。

台湾の高等裁判所を訪問、傍聴したり法服を着たりと貴重な体験もした

台湾の美食も堪能

 私たちは夜市や、景色が有名な観光スポット・九份(キュウフン)、小籠包の名店・鼎泰豊(ディンタイフォン)などにも足を伸ばし、たくさんのおいしい食事を味わった。どこに行ってもタピオカが売っていて、しかも高くても200円程度。いろいろな店のタピオカを堪能した。私の中で台湾はタピオカの国である。

 台北市内は古さと新しさが入り交じった都市であった。バスから市街を見ていると、突然歴史を感じさせる城門が現れたと思えば、世界最速のエレベーターがある「台北101」の展望台からは絶景が楽しめたりする。都市としての発展、古来の歴史と文化の双方を感じられた意味でも、とても充実した研修旅行だった。

台湾研修スケジュール

2019年8月19日
成田空港発→
午後に桃園国際空港着、寧夏観光夜市で散策

20日
台北大学にて法律討論会
高等裁判所、中正紀念堂、台北101などを見学

21日
老人ホーム「楽山療養院」へ
午後は全員で九份(キュウフン)を散策

22日
桃園国際空港発→成田着

台湾研修参加者(教授1名、学生12名)

新井誠教授
村田 一馬(大学院生)
李 俊炯 (法学部3年)
奥田 良介 (法学部3年)
斎藤れみい (法学部3年)
坂上 真樹 (法学部3年)
坂本 美紅 (法学部3年)
西崎 淳也 (法学部3年)
薄 文 (法学部3年)
日野 聖也 (法学部3年)
益子 優輝 (法学部3年)
村田茉莉子 (法学部3年)
岡本紗喜子 (法学部3年)