2019年秋号

打ちまくってチームを勝たせる!

日米大学野球「侍ジャパン」にも選出
「戦国東都」を熱くする
硬式野球部の牧秀悟選手(商3)森下翔太選手(商1)に聞く

学生記者
澤畠彩香(文2)/山口真歩(法2)

 硬式野球部が東都大学野球秋季リーグ戦(9月10日開幕)で、第1週の亜細亜大戦に連勝、好スタートを切った。昨年は春季、秋季ともにリーグ最下位となり入れ替え戦に臨んだが、今春は東洋大に次ぐ2位に躍進。今秋は2004年秋以来の優勝に期待が膨らむ。春に自身初の首位打者を獲得した牧秀悟内野手(商3)、ルーキーながらここぞという場面で本塁打やタイムリーを連発した森下翔太外野手(商1)が打線の軸。「チームの勝利が最高の喜び。秋季リーグでも僕が打って勝たせる」と力強く宣言する2人は、ともに春季ベストナイン、さらに7月の日米大学野球の日本代表「侍ジャパン」にも選ばれた。「戦国東都」制覇へ、打線のカギを握る2人に秋に向けた意気込みなどを聞いた。

(取材日=9月4日、文中呼称略)

牧「日米野球は良い経験になった」
森下「秋はベストナインと首位打者も取りたい」

-東都大学野球春季リーグで中央大は2位に躍進しましたが、自分自身はチームにどう貢献しましたか

牧「春季は2位という形になり、自分が4番として大事な場面で一本打てたことで貢献できたのではないかと思います」

森下「チャンスの場面で決勝打が打てたことや、守備の面でもチームに貢献できたと感じています」

-秋季リーグ戦のチームの目標、個人としての目標を教えてください

牧「春の2位という結果から、秋の目標は優勝しかないです。個人の目標としてはチームの勝利のために自分の仕事をしっかりこなしたい」

森下「同じくチームの目標は優勝です。個人としてはもう一度ベストナインになり、首位打者も取りたい。チームの勝利に貢献する打撃をすることです」

-現在のバッティングの調子はどうですか

牧「8月に入ってから少し調子が悪かったのですが、秋のリーグ戦に向けて、百パーセントではなくても徐々に良くなっています」

森下「打てない時期があったのですが、調子は上がってきたと思うので、秋季リーグ戦に入るときは絶好調にしておきたい」

-今年7月の日米大学野球のメンバーに選ばれたときはどう感じましたか

牧「正直、驚きました。本当なのかなという気持ちが第一でした」

森下「(日本代表の)代表合宿の成績などから選ばれないかなと思っていたので、聞いたときは驚いたのですが、その後うれしい気持ちだったり、日の丸を背負う責任を感じたりしました」

-日米大学野球でプレーして感じたことは

牧「日の丸を背負うことは滅多にないことで、野球人生の中で一番良い経験ができたと思っています」

森下「外国の選手との対戦も初めてだったので、日本人以外の投手の球を見るのは良い経験でした。もう一度日本代表になってチームのために貢献したいと思いました」

「チャンスでの勝負強さ」が強み

-ご自身のプレーヤーとしての強みを教えてください

牧「チャンスの場面で打てる勝負強さだと思います」

森下「自分もチャンスの場面で打てるところだと思います。また、(打線の)"つなぎ役"だとも思っています」

-野球人としての目標は何ですか。中大卒業後のキャリアをどう描いていますか

牧「これからはプロ野球選手を目指してやっていきたいというのが目標にありますね。一つの道かなと」

森下「自分もずっとプロを目指して野球をやってきたので、やっぱりプロ野球選手になりたい。そこで終わらずに、活躍できるような、そこからしっかり成長できるような選手になりたいです」

-プロ、アマを問わず対戦したい投手はいますか

牧「今ですか。えーと、一回だけ本当に打席に立てるというなら、(メジャーリーグ・エンゼルスの)大谷翔平さんと対戦したい気持ちがあります」

森下「東海大相模高の先輩というのもあるのですが、巨人の菅野智之投手です。同じ高校を出てすごい選手がいる。対戦したい投手です」

「プロ野球選手を目指す」

-野球を始めたきっかけは何ですか

牧「兄の影響です」

森下「最初は野球はあまり頭になかったんですけど、家の近くに野球をやっていた友達がいて、たまたま(少年野球のチームに)入っちゃったという感じです。最初にやりたかったのはサッカーなんですが、友達が入っているところ(少年サッカーチーム)が人数制限で無理と言われて、なら野球でいいやと思って野球を始めたんです(笑い)」

-野球で最も好きなところは

2人「チームが勝ったときです」

-部活動も授業もない日は何をして過ごしていますか

牧「基本は寮にいて、自分は(外に)出ない人なんで、ゆっくりしています。テレビを見たり、寝たり...」

森下「オフの日は野球をやらないと決めているので、ゆっくりしていますね。とくに何をすることもなく、ボーっとしていたら一日が終わってしまいます」

-趣味や気分転換にしていることはありますか

牧「音楽で心が和む曲を聴きます。最近だと何だろうな...。あいみょんさんの『マリーゴールド』とかRADWIMPSの『そっけない』とか。あとは寮にいる友達としゃべったりとか、そういうので自分は気分転換できるので」

森下「趣味がなくて困っているんです。気分転換は映画ですね。洋画の恋愛物みたいな。『アバウト・タイム』とか見たりしています」

-中大に入学した理由を教えてください

牧「高校の監督の勧めで進学しました」

森下「ずっとプロと大学で悩んでいて、大学という道を選んだときに(中大から)声をかけていただきました。大学に入って良かったと思っています」

-野球に詳しくない人にも向けて、野球の魅力を教えてください

牧「一球で流れが変わったりだとか、一球で勝負が決まったりという面白みがありますし、ほかのスポーツにないものにホームランがあって、大逆転できるのは野球にしかないのかなと思います。一球の面白さを分かってくれたら、野球を楽しめるんじゃないかな」

森下「野球は道具を使うスポーツで、一人ずば抜けた選手がいるだけでは勝てない。チームがまとまって勝てる。プレーだけでなく、声(を出すこと)だったり、一つ一つの動きだったり、そういうところを見ると、野球の見方も変わって面白いんじゃないでしょうか 」

牧選手「チームを引っ張る攻守の中心」
森下選手「群を抜くスイングの強さ」

 牧秀悟選手、森下翔太選手の打撃の特長や性格、チーム内での存在感などを清水達也監督に聞いた。

 まず、牧選手については「性格が明るい。4番を打ち、セカンドもショートも守 れる。攻守の中心」と、チームに欠かせない存在だと強調した。夏場は体重が減って調子を落としたり、けがをしたりする選手も少なくない中で、練習や試合に出続けても全く問題としない体の強さが身についているという。

 さらに「1年の頃から試合出場の経験があり、チームを引っ張る存在。責任感も強い」と信頼を寄せ、東都リーグでの初の首位打者獲得については「昨年の厳しい入れ替え戦や、きつい練習を乗り越えたことも大きい」と、努力の積み重ねも背景にあると指摘した。

 ルーキーの森下選手は初めて挑んだ春季リーグ戦で、1敗して後がなくなった亜大2回戦の延長10回に決勝二塁打、同4回戦ではチームを元気づけた逆転3ラン、国学院大1回戦の決勝本塁打など、勝負強いバッティングが随所で光った。

 清水監督は「思い切りよく、強くスイングできるのがいい。体が強いからこそ振れる。体の切れがいい」と長所を挙げ、中大硬式野球部OBでプロ野球巨人の亀井善行選手、千葉ロッテの井上晴哉選手にも勝るスイングの強さだと絶賛する。

 「牧、森下の2人ともプロに行ける素材。プロに入るだけでなく、活躍してチームの看板選手となってほしい」と将来性に期待を寄せている。

清水監督(右)に話を聞く学生記者の澤畠さん(中)と山口さん

2004年秋以来の優勝へ、「投打とも仕上がり順調」

 9月10日に開幕した秋季リーグ戦へ、清水達也監督は「投打ともに順調に仕上がりつつある」と手ごたえを感じていた。

 春季は、植田健人選手(経済2)、後藤茂基選手(商2)の2人が頭角を現し、大車輪の活躍で投手陣を引っ張った。投手陣のさらなる充実の条件として、監督はエースの畠中優大選手(経済3)と、皆川喬涼選手(法2)の復調を挙げる。さらに、右サイドスローの井平光紀(文1)、左腕の楢山魁聖(文1)のルーキーの名前も挙げ、駒はそろってきたと期待する。

 打線では、牧選手がマークされるだけに前後を打つ打者の好不調がチームの浮沈を左右するとみている。

 清水監督は「大学に4年間在籍している中で、選手たちに一度は優勝という成功体験を味わわせたい。彼らの喜ぶ姿を見たい」と話す。チームは、一丸となっての2004年秋季以来のV奪還に燃えている。

(取材日=9月4日)

牧 秀悟(まき・しゅうご)選手
長野県出身。松本第一高校卒業、商学部3年。178センチ、91キロ。右投げ右打ち。春季リーグでは広角に打ち分ける打法で安打を量産し、50打数20安打14打点の活躍。打率.400で自身初の首位打者を獲得した。日米大学野球では全5試合に出場し、16打数4安打5打点だった。

-副主将として春季リーグ戦を振り返り、 良かったところ、改善すべきと思ったところはありますか

「投手が安定しないときは野手が点を奪い、バッターがミスしたときは投手が補うなど、粘り強い試合ができたと思います。結果は2位だったので、勝てるところで勝てなかったという点は改善すべきだと思っています」

-具体的な改善法は

「春は初めの時点で、投手陣も打撃陣も調子が悪かった。(秋は) 初戦から全員が百パーセントの力を発揮できるよう準備をしておきたい」

-チームのモットーはありますか

「全力疾走。当たり前にできる事はしっかり怠らずにやるということです」

-1年の森下選手はチーム内でどのような存在ですか

「野球に関しては、自分にない力があるし、 バッティングにも長けている。1年生なのにノリが良く、上下関係もあまり気にしない物怖じしないタイプです。(動物に例えると?)やんちゃなので、大きめのサルです(笑い)。周りからは可愛いキャラと言われています」

森下 翔太(もりした・ょうた)選手
横浜市出身。東海大相模高校卒業、商学部1年。181センチ、85キロ。右投げ右打ち。春季リーグは1年生ながらレギュラー外野手として出場。クリーンアップも任され 、49打数15安打9打点、打率.306の数字を残した。高校時代からプロ注目のスラッガー。日米大学野球は4試合に出場したが残念ながら無安打だった。

-高校野球と違う木製バットや、大学野球に戸惑いはなかったでしょうか

「なくはなかったですが、高校時代から結構、 木のバットで練習をしていたので、 そこまで苦ではなかったです

-入学して5カ月、大学生活は楽しいですか。授業と部活の両立は大変ですか

「大学生活は楽しい面も、厳しい面もあります。しっかりと自主練習もできていますし、授業もしっかり出て、単位も取れたんで良かったかなと思っています」

-先輩の牧選手は森下選手にとってどのような存在ですか

「プレースタイルやバッティングも見習うところだらけで、目標にしているし、尊敬しています。しっかり見習っていきたい」

編集後記

野球と社会人に求められるスキルの関連性

 「一人ひとりの能力も大事だが、野球は一人ずば抜けた選手がいるだけでは勝てない」「スポーツは、思い通りにいかないことも多々ある。その中で対処法を試行錯誤し、心も鍛えられる」

 今回の取材を通して、野球の「社会性」を強く感じた。

 社会は、多様な価値観や考えを持つ人々で構成されており、そこで働けば自分の思い通りになることは少ないだろう。他者と協力して最高のパフォーマンスを提供し、社会貢献につなげる。単に個人の能力が高いだけでは、不十分である。これが、いわゆる一人で頑張る「勉強」とは異なる点だ。

 野球などのチームスポーツは、チームがまとまって一つの目標に向けて全力を尽くす。勝利を手にするまでには、個人やチームにさまざまな面で問題が発生するだろう。しかし、それらを乗り越え、心身共に成長しながら団結して高みを目指す姿は、社会人になって働くときに重要な要素であると、改めて気付かされた。

 知識として分かっているつもりだったが、小学生の頃から毎日、野球に向き合い続け、結果を出してきた牧、森下両選手から実際に話を聞くと、野球と社会人に求められるスキルとの関連性を強く感じたのだ。

 2人は「日の丸を背負う」ことの責任を何度か口にした。インタビューをする中で、野球に対する並々ならぬ思いも感じた。ここまで来る間に、多くの困難を乗り越えてきたのだろう。そして、大学生の今、すでに日本を代表し、プロ野球選手になった後の活躍を見据えている。学業と両立しながら、日々研鑽を積み、個人の力、チームの力の双方を高め、目標に向かって走る彼らの姿を見習いたい。

(山口 真歩)

当たり前のことをしっかりとやる

  大学というのはそれぞれ違う世界で活動する学生が集まる場所だと考えている。勉学に励む人や、サークル活動に全力を尽くす人もいれば、アルバイトに励む人もいる。今回取材した硬式野球部の牧選手と森下選手は、大学生活で野球に全力をささげていた。そこにはスポーツに打ち込む、すがすがしい姿勢を見ることができた。

 春季リーグ戦のベストナインに選ばれ、日米大学野球で代表選手(侍ジャパン)としてプレ ーした 彼らは、「日の丸を背負うことの責任感」という言葉を取材中、数多く口にした。とりわ けチームスポーツに「責任」はつきものかもしれない。中大で牧選手は副主将としての責任も背負い、森下選手も大学入学からわずかな期間でリーグ戦にレギュラーとして出 場、さらには日本代表と、2人ともそのプレッシャーは計り知れないだろう。

 しかし、次の試合やこれからのチームについて話す彼らの目に、不安の色はなく、重圧に打ち勝つ2人の精神力の強さも目の当たりにできた。「チームの勝利のために」と幾度も自然に発せられた言葉や、取材中に垣間見えた2人の仲の良さからは、チーム全体の雰囲気の良さも感じ取れた。

 「当たり前のことをしっかりとやる」。これがチームのモットーの1つだと2人は話してくれた。これは「打てるボールは逃さず打つ」といった基本の大切さを表しているそうだ。この言葉は野球だけでなく、すべての人に共通する課題だと思う。自分自身を顧みると、この言葉の実現というのは意外と難しい。彼らの野球への情熱や妥協しない姿勢は、こうした心構えに支えられているのだと思った。秋季リーグ戦でも2人の活躍に注目していきたい。

(澤畠 彩香)