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2018年度入学式「歓迎の辞」
在校生代表 紅野良太さん(商学部4年)
目が合った新入生もいただろう。そのとき彼ら彼女らは、何を感じたのだろうか。4月3日、 中央大学多摩キャンパスで入学式(経済・商・総合政策各学部)が行われた。在校生代表として 「歓迎の辞」を述べたのは、商学部4年の紅野良太さんだ。
学生記者 片桐将吾(法学部4年)
ステージの床面をつかむように足を大きく開き、自身を見つめる期待と不安を秘めた目に向かって、ゆっくりと話しかけた。
「絶対に自分の可能性を信じてください。自分に自信を持ち、夢に向かい、仲間と共に努力してください。私も皆さんも、何者にでもなれる、可能性を秘めています」
8分間にわたるスピーチを終え歓迎の辞を閉じたとき、彼を見つめる多くの目には、確かな炎が宿っていたに違いない。
紅野良太さんはムキムキである。一見すると、体育会部員のようだ。しかし、特に部活動に所属しているわけではなく、スポーツジムで体を動かす程度らしい。
そんな彼を語る際に欠かせないのが、歓迎の辞でも紹介された「留学」だ。大学2年後期からの1年間、台湾の国立中山大学との交換留学生となった。
台湾には香港や中国、欧米諸国などから留学生が来ており、中国語と英語で語り合った。
それぞれが自分の夢を持っていることに驚いた。また、各人の個が確立している点に大きな刺激を受け、自身も「自分の価値を確立したい」と考えたそうだ。ここで30単位を履修した。夏休みには東南アジアや中国へ、香港出身の学生らとバックパック旅行。
3年次、留学からの帰国直後には、所属する木立真直ゼミナールの国外実態調査(現・グローバル・フィールド・スタディーズ)でオーストラリアに行き、現地企業や日系企業、大学を訪ねた。1週間で10ヵ所以上を訪問した。超活動的である。
圧倒的な経験値をもつ話は、聞いていてとても面白い。ちなみに、憧憬の念を抱いているのは、サッカー日本代表の長友佑都選手らしい。
紅野さんは高校時代にサッカー部に所属しており、ポジションは長友選手と同じサイドバック。突き抜けた技量を持ち、世界で活躍する長友選手には、共感できる点が多いという。
そうそう、スポーツの話題で言えば、世界最高峰の障害物レースといわれる「スパルタンレース」を台湾で体験した。興味のある人はぜひ調べてほしいが、参加すると泥だらけになるということは先に言っておく。
記者のような引きこもりからすると、気になるのは原体験である。いつ、海外に目覚めたのだろうか?
答えは、小学生の時だそうだ。叔父に会うため駐在先の米ニューヨークへ。漠然たる印象ながら、将来は海外で働きたいと憧れるようになった。
中学2年になると米国オレゴン州のサマーキャンプに約2週間参加。ここで海外の面白さ、外国語で話すことの面白さに目覚める。
以降、英会話の勉強にも力を入れ、高校時代に英国や韓国へ各2週間。もう既に行きまくりの感が漂うが、いま行ってみたいのは、アフリカと南米らしい。
「せっかく生きているからには、見たい」という彼の挑戦は、まだまだ続く。
著名な先輩たちもここでは、
皆さんと同じように
中央大学の学生だったのです
自らの可能性を信じ、
将来を考えた決断をして
頂きたい
自分に自信をもつ
台湾にてアメリカ、カナダ、シンガポールの留学生と世界一過酷と言われるスパルタンレースに参加した時のもの。就職活動でも使っている写真で、「泥にまみれてでも頑張る姿勢」が自分らしさです(笑)=本人提供
さて、「歓迎の辞」を受け、周囲はどう反応したのだろうか。
紅野さんによると、ゼミの木立教授は「中大生の高いブランド力を発信する役割を果たしてくれた」とおっしゃったそう。この記事を書くきっかけになったのは、入学式参列者から「良かった」という声が多く聞かれたから。「うらやましいな」とは友人の声。つまり、全方位から高評価を得たということだ。この事実は本当にすごい。
家族からのフィードバックはどうだったか。入学式に参加したのは、母親。動画を撮っていて、その後、何度も再生しているという。「親孝行ができたかな」とやや気恥ずかしそうに教えてくれた。
記者が印象的だと感じたのは、祖父母と父親の話だ。
母が撮影した動画を見て、祖母は「生きていて良かった」と感慨を抱いたそう。感動ぶりが強く伝わってくる。同時に、「わたしの言いたいことを全部言ってくれた」とも。
よく『親の心、子知らず』なんて言われるが、とんでもない。紅野家では『祖母の心、孫知る』である。
母親や祖父母の反応とやや異なるのが父親だ。スピーチの手本としていた人でもある。中学生の頃、大勢を前にした父のスピーチを聴いた。堂々たる姿を鮮明に覚えているという。
父親からのスピーチアドバイスは、「ゆっくり、区切って話す。聞き手が理解するスピードで」。息子は忠実に、その教えを実行した。
父の感想は「よく頑張ったな」。表情に変化は見られなかったというが、胸中はいかに。
父は仕事上、人前で話し、文字と関わってきた。祖父は国文学の教授。ここまで聞いて、彼が持つ信念は彼だけのものでないことに気付く。それはまさに、紅野家のDNAである。
文脈はやや異なるが、直木賞作家の色川武大氏は「人間はすくなくとも、三代か四代、そのくらいの長い時間をかけて造りあげるものだ、という気がしてならない」と述べる。彼の今は、過去の集積の結果でもあるのだ。
メルボルンの卸売市場、英語でインタビューする紅野さん(右端)=撮影・木立教授
最後にもう一つ。スピーチは今回が2回目だ。最初は出身高校の後輩らに向けた「大学生の生活」。2度目がここまで話題にしてきた、新入生に向けての「歓迎の辞」。いずれも自身の経験を語るものである。
2度あることは、そう、もう1度。「将来は日本と世界をつなぐビジネスパーソンになりたい」と述べる彼に、いずれは新社会人に向けた自身の経験を語る機会が訪れるに違いない。
加速度的に成長する。次は何を教えてくれるのだろうか。今から非常に楽しみである。
そして、そのスピーチを終えたとき、父親は彼になんと言うだろうか。こちらも大いに気になるところである。
主な渡航先
卒業式・入学式の記録映像は「白門ムービー」にてオンデマンド配信しています。
卒業式・入学式 → http://www.chuo-u.ac.jp/aboutus/communication/hmovie/ceremony/
紅野良太さんの「歓迎の辞」は、「2018 年度 中央大学入学式 多摩キャンパス午後の部」の37 分頃から視聴できます。 http://box.chuo-u.ac.jp/ml/p/#4007
紅野さんは、原稿をパソコンに向かって1日で書き上げた。
それまでが大変だった。何を伝えたいか。テーマアップにかなり時間をかけたという。「聞いてくださる人のことを考えて、つまらない式辞にはしたくない。登壇するのは特別なことではなく、身近な人と感じてほしい」
電車内でも考えていて、アイデアが浮かぶとメモに残した。「経験したことしか話せませんから、心掛けたのは自分の言葉で経験を伝える。テーマは3つ、最終的には2つにしました」
原稿ができあがると次はスピーチでのリズムを意識した。『新入生の皆さん』で息継ぎをして、「ご入学おめでとうございます」と続ける。1度に続けて言うより、分かりやすくなる。
準備がいかに大切かを伝えてくれるエピソードだ。
リハーサルで紅野さんは、本番同様にスピーチした。会場は入学式と同じ多摩キャンパス第一体育館。中大職員ら大勢のスタッフが設営準備などに忙しく動き回るなか、スピーチ「歓迎の辞」の番がきた。
「忙しい皆さんが手を止めて、聞いてもらえるようにしたい」。熱意が伝わって、終了後に「すごく良かった」と称賛の声。気合のリハーサルが入学式へとつながった。