市の顔ともいわれる観光親善大使。神奈川県相模原市の第11代観光親善大使を委嘱されたのは、中央大学商学部4年の久保田ゆりさんだ。昨年4月1日から今年3月末までの任期中、数々の活動を通して「人間的に成長したのかなと思います」と照れながら話した。成長の1年間を追った。
相模原市は人口約72万2000人。2010年4月、政令指定都市にパワーアップした。
小惑星探査機「はやぶさ」を開発した宇宙航空研究開発機構(JAXA)があり、最新鋭の新幹線・リニアモーターカーが近い将来、橋本駅周辺を飛ぶように走る。
東京・八王子市方面へ連なる陣馬山(標高855㍍)はハイキングなどの名所として知られ、秋には見事な紅葉で市民らを楽しませている。ウイングの広い市といえるだろう。
市の顔として魅力を全国にPR
相模原市役所で昨年春にあった大使の委嘱式。「何にでも挑戦したい。学生でいる今しかできないと思いました」と応募した久保田さんが重厚な扉を開けると、そこは新しい世界だった。
市長表敬訪問では、同じ部屋に同市に由縁のある元F1レーサーの片山右京さんが、2017年度より終身名誉観光親善大使となってソファーに座っている。
新たな名誉観光親善大使は人気お笑いタレントで歌手のタブレット純さんだ。この日は欠席だったが、ワインの第一人者で料理評論家の田崎真也さんも新任の名誉観光親善大使だと聞いた。
これまで市役所に用事があっても窓口などで済んだ。これからは市の顔として各種イベントに参加。『未来へつながるまち「さがみはら」の魅力を全国にPR』する(募集告知文から)。
観光親善大使は3人。日程調整をして各種イベントで活動する。久保田さんの初仕事は4月の「第44回市民桜まつり」だった。
開会式のサポート、パレード参加、絵画コンテストの司会、お店大賞に投票、組みひもを編んでブレスレットをつくる、テレビ・ラジオのインタビューを受ける、最後はごみ拾い大行進。開催の2日間、大会の盛り上げ役は、ほぼ出ずっぱりだった。
夏の「第66回橋本七夕まつり」では、少年少女の鼓笛隊などが華やかに行進するパレード先導のオープンカーに1人で乗った。後部特設シートに腰掛け、沿道の人たちに笑顔で手を振る。かなり目立つ盛り上げ役だ。
「当日、突然いわれてびっくりしました。乗るのはもちろん、初めてでした」
相模原市は生まれ育ったところだ。「大好きな街を笑顔でいっぱいにしたい。お会いする方々に笑顔になっていただけますよう、私から笑顔でお声がけします」
慣れない乗車だったが、溢れる郷土愛で笑顔の輪を広げていった。
オープンカーに乗る人たちで見慣れているのは、プロ野球優勝チームの監督・選手や大相撲の優勝力士らだ。久保田さんは貴重な体験をした。
活動はこのほかにも「相模原納涼花火大会」、「おださがロードフェスタ」「横浜新都市プラザ観光キャンペーン」など年間8回務めた。
みんなの笑顔のために
毎回多くの人に注目される。身だしなみを整え、来場者に対する言葉遣いや立ち居振る舞いに心を配り、着席時も姿勢に注意を払った。
自らに目が注がれることは緊張するもので、見た目以上に骨の折れる活動に思われるが、かぶりを振った。
「大変なのは数多くのスタッフさんらで、イベントの運営準備に追われています。こんなにも多くの方々が関わっていらっしゃるのか。来場者の方々に楽しんでいただくのは大変なことなんだと知りました」
心のこもった仕事ぶりを見て、思ったという。「相模原市はあたたかい市です」
イベント主催者の願いは、来場者の安心・安全を守り、無事に終了すること。来場者に笑顔をもたらし、次回開催へつなげる。目標達成のために、多くの人がそれぞれの持ち場で汗をかいている。
「わたしたちが出番のときは、もっとしっかりしなくちゃ、と責任を感じます」
盛り上げ役が欠場ではスタッフらに顔向けできない。この1年間、体調にはこれまで以上に留意するようになった。
観光親善大使が市の顔といわれる一方で、同じくらいに重責を負っている人たちがいることを肌で感じた。
観光親善大使のツイッターやフェイスブックに投稿するときも姿勢を正す。情報は正確か、誤字脱字はないか。文章は分かりやすいか。
「観光親善大使となって変わりました。活動させていただいてよかったです。人生のなかで、いつまでも残る1年です」
私の失敗談
あがり症を克服
委嘱当初は極度の緊張感にあったという。「もともとあがり症でして、間違えたら大変だと思うと…」。ステージから会場の様子が見えなかった。トークではつい早口になってしまい、「噛んだこともありました」
『ゆっくり はっきり』を心がけると周囲が見えて、落ち着きが出てきた。表情も穏やかになった、といわれた。いまでも『ゆっくり はっきり』は心にとめている。
ゼミ紹介
国際経済学‐グローバル化を学ぶ
田中ゼミ(商学部・田中鮎夢准教授)の栄えある1期生。国際経済学‐グローバル化について学ぼうーをテーマに掲げ、自分たちで考え、自分たちで学ぶスタイル。
活動実績は外国へ進出した企業(運輸、食品など)の国内工場を見学し、考察を深めた。ゼミ生は各班に分かれ、独自に調査・研究した内容を発表する。「田中先生は、ゼミ生の意向を大事にしてくれます」と久保田さん。ゼミ生は8人だ(2017年度)。