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トップ>HAKUMON Chuo【2017年冬号】>訪れたからわかる。島根の今とこれから

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クローズアップ

訪れたからわかる。島根の今とこれから

松田ゼミ 取材合宿リポート

私たちジャーナリズムプログラム松田ゼミは、8月28~31日にかけて島根県で取材合宿を行いました。リポート第1弾では地域活性化に尽力する若者と、来年3月に廃止される、島根県と広島県の山間地域をつなぐ三江線について取り上げます。島根県の強みや課題を対処するために活動する人々を4日間追いました。


三江線から考える、地域における公共交通の在り方

大自然の中にある三江線

木田勇哉(法学部2年)

 なぜ、こんなところに鉄道が…?

 広島県の三次駅から島根県の宇都井駅までの路線を、車と鉄道で調査をした私の素直な感想がこれだった。

 多くの山々に囲まれ、美しい江の川に沿って線路がひかれている。沿線には、家は数えるほどしかない。このような環境の中を駆け抜けている鉄道が、2018年4月1日に廃止される三江線である。

「鉄道」といえば、首都圏に住む人々は山手線や埼京線などの満員電車や東海道新幹線のように速くて、本数もたくさん出ている鉄道を思い浮かべるかもしれない。しかし、三江線はすべて逆。車内はガラガラ、遅い上に、一日5本しか走っていない。

 島根県の江津市と、広島県の三次市を結ぶ三江線は、1975年に全線開通と比較的歴史は浅い。しかし開業した当初から江津と三次の間の移動は道路利用が多く、また江津と三次を遠回りでつないでいる点から、山陰地方と山陽地方を結ぶ架け橋としての役割を十分に果たせなかった。

バス転換される三江線

美しい江の川

「拠点間の大量輸送、これが鉄道の特性というふうに理解しているのですけれど、それが三江線では発揮できていない」

 山陰地域復興本部のJR社員、国森浩さんはデータを用いてこう主張する。

「旅客輸送密度」という概念がある。1㎞あたりで一日に乗車する乗客の数を表す数値だ。日本一の旅客輸送密度を誇る山手線は1㎞あたり100万人。それに対して三江線はたったの83人(2016年)。これは一本の列車に10人も乗っていない計算になる。(ちなみに旅客輸送密度が2000人で元が取れる)

 この数字からもわかるように、三江線は利用者が非常に少ない。三江線の利用者は少子高齢化に加え、三江線沿線の幹線道路の発展に伴うモータリゼーションの結果、JR発足当初から80%も減っている。また三江線は高校生や車がつかえない年配の人、いわゆる「交通弱者」の人が多く利用しており、三江線の利用区間も短い。以上の理由から、現在の利用状況に即した柔軟な運営ができるバスへ三江線は転換される。そしてバスは、JRではなく地元自治体によって経営されることになる。こうした状況を、自治体はどう受け止めているのか。三次市役所の定住対策・暮らし支援課の呑谷巧(のんたに・たくみ)さんはこう語った。

「三江線の代わりにバスを走らせれば、本数も増えて利用者には逆にいいことなのかもしれない。でも、地元自治体としての負担は大きい」

 三次市は三江線の代替交通としてバスを一日15便走らせる計画だ。

 私は14時11分、三次駅発口羽行きの普通列車に乗ってみたが、乗車人数は4人。しかもそのうち3人は生活利用者ではなく、廃止される三江線に乗ることを目的に乗車していた人々であった。唯一の生活利用者であったおばあさんは三次市の病院へ行った帰りであった。

 利用者の減少、幾度の自然災害…三江線に対して、ネットや島根大学教授たちの中では廃止に対して反対もあったが、今回の取材を通しては「廃止は仕方がない」という雰囲気が感じられた。大自然の中を走ってきた鉄道はバスに転換されるが、バス運営に関しては、三次市役所の呑谷さんが言っていた「地元自治体の金銭的な負担」の存在、それに加えてバス運行になったあとも経営赤字が継続すれば鉄道の代わりに地元住民の「足」となっていたバスですら、なくなる可能性もある。しかもバスは鉄道とは違い撤退が容易だ。

地方交通の在り方

一両編成で疾走する三江線

 このような話は三江線のみに当てはまるわけではない。北海道でもJR北海道が2016年11月に「単独では維持困難」な路線、つまり廃止を検討している路線を挙げている。具体的には、北海道の骨格路線である宗谷本線(名寄~稚内)や花咲線(釧路~根室)などを含めた8区間で、その総距離は北海道の鉄道路線のおよそ3分の1に達する。少子高齢化が日本全体で進行している中、廃線対象になる路線は今後増えていくことが予想される。

 地域社会に住む住民すべてが納得できる政策を行うことは難しい。しかし、「自分たちの地域における地域交通において、何が最善か」を議論することは、その地域住民も含めて、多くの時間をかけて話し合うことが必要であると考える。地元住民は、代替交通に「利用したいときに利用できるように、便数の増便」を望んでいる。

 残念ながら三江線は廃止されてしまうが、その代替交通となるバスは、地域住民の多くが利用したいと思える交通になることを祈っている。



ここが若者の出番

石田彩香(商学部4年)

 島根県には“天国に一番近い里”がある。県西部に位置する邑智郡邑南町(おおちぐんおおなんちょう)の川角(かいずみ)集落だ。8戸13人が暮らすこの集落は全員が60歳超え、平均年齢は80歳、高齢化率100%。標高も高いことから、住民自ら名乗り始めた。

 もう一つ、“天国に一番近い里”と言われる理由がある。それは、約2500本の花桃が広がる桃源郷があるからだ。見頃を迎える4月には美しい景色を求め、約8,000人もの人々がこの地を訪れる。

 現在、この川角集落は限界集落となり、空き家や耕作放棄地が目立つ状態だ。ここを島根県の新たな観光地として生き返らせた背景には、地域の人に寄り添い、地域活性化のため精力的にボランティア活動を行う若者たちの存在がある。

あくまで主役は地域住民

2017年度第7回花桃まつり

 “島大Spirits!”は、島根大学の学生がボランティア活動を通じて、地域とのコミュニティ創造を行う地域活性化サークルである。2017年4月に開催した花挑まつりでは 、資金集めのクラウドファウンディング、花挑まつりマップの作成 、限定グッズの販売、コーヒーブースの出店など、様々な形で関わった。

 代表を務める島根大学の伊藤黛さんに活動のきっかけを尋ねると、「島根に来て、いろんな人と関わることによって助けてもらっているので、なにか恩返しできることがないか、自分ができることはないかと考えていた」と語る。三重県出身の伊藤さんは、現在島根県で1人暮らしをしている。元々内向的だった性格は、温かな県民性に触れて外向的になり、今や多くの人々と信頼関係を築いている。

 花桃は、集落をこのまま衰退させてはいけないと思った住民が植え始めた。お祭りが大きくなり、訪れる人が増えるにつれて、住民だけでやっていくには限界があった。

 この状況を知った伊藤さんは、若者の得点や体力など、住民だけでは補えないととろに、あくまで地元の人のお手伝いとして力を貸している。住み慣れた、愛着のある場所を守りたいという住民の気持ちを尊重しているのだ。

若者と地域住民、大切なのはお互いのリスペクト

 学生は住民や社会人と活動していくことによって、自分たちだけでは空回りしてしまうととろを補ってもらい、様々な学びを得ている。地域のお年寄りは、慣れ親しんだ土地を失わずに済む安心感を得ると同時に「孫ができたみたいでうれしい」という素朴な喜びも感じている。

 伊藤さんは「知らないことがあって技術的に足りなくても、それでも一所懸命やること。中にはボランティア=無償の労働力って考える人もおられて。うちのサークルはそうじゃなくて、お互いにメリットがある。学生は本当ならその時聞をバイトにあてて、800円~900円もらえるところをわざわざボランティアできているのは、そこに何か学びたいことがあるから。誰でもできる交通整備とかはやらないようにしているし、お互いのリスペクトが大事」と、活動の意義を語る。

まずはしっかりとした受け皿をつくる

 ただ知名度を上げ、観光客を増やすことばかりを考えてはいられない。観光客が訪れ、地域にお金が落ちることは一部で喜ばれている。しかし、現状は、店や宿泊施設の少なさゆえに、大勢の観光客そ迎え入れるだけの受け皿がない。伊藤さんは、「来てもらって、やっぱり良くなかったわって帰られるのが一番怖い。僕らがいくら頑張っても、地域の人に迷惑がかかってしまってはダメなので」と、観光客や住民に悪い印象を与えてしまうことを懸念している。

ここが若者の出番

島大Spirits!代表の伊藤さん(左)とACTの田中さん

 島根県には、進行する高齢化や交通アクセスの悪さなど、若者のカではどうすることもできない問題がたくさんある。しかし、若者に求められていることはこれらを解決することだろうか。

 まずは自分の住む島根県に興味を持ち、好きになる。住民や社会人とのつながりを多く持ち、社会経験をしながら人々の温かさに触れる。そうすることによって自然と愛着が湧き、もっと多くの人々に知ってもらいたいと思うようになる。

 地域活性化の主役は、その地を愛し、暮らしてきた住民である。島大Spirits!の活動は、自分たちを温かく迎えてくれた川角集落の住民への思返し。学生ならではの目線で魁カを発信し、花挑まつりをよりー層盛り上げた。今後も、彼らのような優しい心を持った頼もしい若者の活躍から目が離せない。