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トップ>HAKUMON Chuo【2017年秋号】>陸上・日本選手権 女子400メートル優勝 日本チャンピオン

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表紙の人

陸上・日本選手権 女子400メートル優勝 日本チャンピオン

岩田 優奈さん(法2)

 陸上競技の日本選手権(6月・大阪市)女子400メートルで中央大学の岩田優奈選手(法2)=女子陸上競技部=が初優勝した。栄冠を自己ベストで飾る華々しいゴール。3度目の挑戦で日本一の座に就いた。日本学生対校選手権(インカレ)など学生主要大会3連勝を含め、今季は負け知らずの4連勝。夢を叶えるまでの足跡を追った。

日本選手権女子400メートル決勝、追いかけてくるライバルを引き離す岩田選手(写真撮影&提供=服部由美子氏・中央大学 女子陸上競技部OG会幹事)

 ストップウオッチを手に300メートル付近でタイム計測中の中大・髙橋賢作監督が、声を張り上げた。「行けえ~」

 女子400メートル決勝は6レーンを走る予選3着の岩田選手がぐいぐい前へ出た。曲走路をトップで通過して最後の直線へ。身長162センチの体が大きく見える。

 左隣5レーンの、武石この実選手(東邦銀行)が猛追してきた。予選タイム・トップの実力者だ

 岩田選手は「足音が聞こえてきて、“あ~来てる”と思っていました」。4レーンには前年覇者で予選タイム2着の青山聖佳選手(大阪成蹊大)。存在感を示した走りでひたひたと迫ってくる。

 決勝は午後7時すぎから行われた。スタジアムの照明は大一番を浮かび上がらせるスポットライトのようだ。

「ラストは自分の強みだと思っているので、“絶対勝つ”、“絶対勝つ”って言いきかせて」

 自己ベストとなる53秒65のタイムでゴールを駆け抜けた。3度目の正直だった。日々の努力が実った喜びの表現は、左手をほんの小さく握っただけの目立たないガッツポーズ。笑顔は見せなかったが、心奥よりの感激がこみ上げてきた。

「1位でゴールできて、うれしいし、タイムを見たらベストだったから、それもうれしかったです」

女子400メートル決勝結果
  名前 タイム
岩田優奈 (中大) 53秒65
武石この実 (東邦銀行) 53秒83
川田朱夏 (東大阪大敬愛高) 54秒18
※世界記録 コッホ (東ドイツ=当時) 47秒60
※日本記録 丹野麻美 (ナチュリル) 51秒75

今季4連勝

 決勝前の心境が、これまでとは違っていた。「今回は、絶対に、決勝に残って勝負したい」。関東学生対校(5月、横浜市)同種目を制して、中大入学以来2連覇を達成。悲願の日本選手権決勝進出へ実力を蓄えていた。

 同時に「出たかった舞台に、いま立てている。感謝の気持ちでいっぱいでした」と謙虚な気持ちも持ち合わせていた。

 髙橋監督からの「リラックスして走ろう。自分の力を出し切ること」といった直前のアドバイスも落ち着いて聞いていたという。

 自身初めての決勝進出。過去2度は予選で敗退し、決勝はスタンドで観戦した。高校3年次は陸上部顧問の先生と2人で見た。中大1年次はひとりで凝視した。「来年は私が出場する」。気持ちは毎年同じだった。

 思いをこめた試合を優勝で飾り、この日本選手権では出場した中大勢ただひとり、栄えあるチャンピオン、種目・日本一となった。

 出身校の群馬・新島学園高は400メートルを重視している。各大会で1600メートルリレー(4×400メートルリレー)の上位常連校だ。日本歴代10傑の10位に当時・高校3年の大木彩夏選手2013年記録、53秒17)が入っている。

 中大選手も学生10傑に名を連ね、8位に日本選手権1995年大会の覇者・柿沼和恵選手。タイムは優勝時の53秒56だ。1982年には吉田淳子選手が日本選手権を制した。

 岩田選手は9月の日本学生対校(インカレ、福井市)も制し、前年2位の雪辱を果たした。

 中大勢は関東学生対校、日本学生対校・同個人各選手権大会など主要大会の表彰台に最近10年間で延べ21人が立った。8位までの入賞者も同20人(2017年9月現在)。

 お家芸といっていい種目である。岩田選手もこうした伝統のもとで鍛錬を積んできた。

 陸上競技のスタートは、小学校高学年という。「2キロほどの距離から始めて、6年生の頃は短距離が好きでしたね」。中学に進むと200メートルで頭角を現し、3年次の2012年全国中学校体育大会(全中)同種目で4位につけた。

 高校入学から400メートルが練習メニューに加わる。「200メートルよりも400メートルの記録が伸びていって、メイン(種目)になりました。以来ずっと400メートルです」。高校総体では2年次・5位、3年次・2位と全国トップクラス。

 トラック1周をほぼ全速力で走る。「確かにきつい種目です。でも、結果が出るとうれしくて、きついのがどこかへ行ってしまいます」

 この種目のレース直後、よく見られるのは多くの選手がひざに手を置き、腹部を大きく波立たせて呼吸を整えるシーン。体に相当なダメージを受けるのだ。

 髙橋監督が言う。「400メートルはスタートからずっと目いっぱい行ったうえに、最後の直線で、また、もっと頑張るレース。スピードに持久力が求められます」

 同氏は十種競技の元選手。初日最終種目の400メートルを「一番嫌でしたね」と苦笑いする。「苦しさを何回も経験していて、それがいまから始まるかと思うと…。1500メートルのほうが良かったかもしれない」と続けた。

 岩田選手が日本チャンピオンになった直後、ガッツポーズを小さくとどめたのは、過酷なレースを共に戦ってきた仲間へのいたわりだったのだろう。

髙橋監督にも祝福の握手

 優勝を決めた直後から、お祝いメールが殺到した。自らは高校時代の陸上部顧問の先生へ、中学校の同顧問へ、小学校時代に通ったクラブチームのコーチへ御礼メールを送信した。

 友人、知人、家族らが日本一を喜んでくれる。両親は娘の競技を毎試合のように観戦してきた。父は動画撮影に忙しい。

 スタンドでは大学陸上界の監督らが自校選手の優勝のように歓喜して、中大・髙橋監督は握手攻めにあった。

 来年は連覇が期待される。全国のランナーの標的とされる。「私はタイムでは日本ランキング4位です。上位3人に負けないよう、チャレンジ精神で挑みます」と言い、こう付け加えた。

「400メートルを全力で1周ずっとは走れません。前半にスピードに乗らないと後半へつながらない。どうすれば自分の力を最大限に出せるか。追究すればするほど自分の走りが分かってきて、タイムが良くなっていきます。考える種目です」

 きっと、きょうも岩田選手は考えている。

練習中の冬空を俳句で表現

『風花舞う空が大きく遠くなる』。岩田さんの中学3年次作品で地元の上毛新聞ジュニア俳壇「若葉の部」にクラスメイトらと共に掲載された。国語教師の投稿だった。

 紙面には【評】として、舞い跳ぶ風花をじっと見つめていると、あらためて空の大きさと遠さが感じられたのです。その心の動きが誌的―とある。

「練習中のシーンでした。冬の空は遠く見えますよね。それを表現しました」。ジュニア俳壇のコピーを見て、「懐かしい~」と一言。その目も遠くを見ているようだった。

授業も練習も集中して

 授業と練習の両立がテーマだ。「女子陸上競技部は各自がそれぞれ授業のない時間帯に練習しています」と岩田さん。多摩キャンパス内の陸上競技場と教室を往復しながら、「授業も練習も目の前のことに集中しています」と続けた。

髙橋監督の目(中央大学女子陸上競技部)
精神面の強さが光る「トラックのエース」

 髙橋監督は、岩田選手の長所に「精神面の強さ」を挙げる。

 日本選手権で自己ベストを出したことに感嘆し、「大会が大きくなればなるほど緊張して硬くなるものです。勝てたのは精神的ストレスや圧迫感などを乗り越えられたから。彼女には自分をコントロールできる能力があります。練習中も妥協はしません」と高く評価する。

 今後に向けて、「当面は52秒台のタイムを出すこと。オリンピック出場は4×400メートルリレーを目標としたい」と2020年東京大会出場へ期待を寄せる。

 身体能力は高く、100メートルから800メートルまで自在に走り、リレーもこなすマルチプレーヤー。学生対校戦で得点を競うインカレや関東インカレでは「トラックのエースです」と頼もしく見つめている

中央大学女子陸上競技部・女子400メートル記録 最近10年間の成績
年 度 日本選手権 関東学生対校 日本学生対校 日本学生個人
2007 ②田子雅(法1)
⑦竹本香織(法4)
⑧利根川由佳(商1)
⑤田子
⑥利根川
2008 ④田子(法2)
⑦利根川(商2)
⑤田子
⑧利根川

2009 ②田子(法3)
⑦清水佳奈(文2)
⑧利根川(商3)
④田子 ①清水
②利根川
2010 ②田子(法4)
③清水(文3)
⑤利根川(商4)
③田子
⑥清水
②清水
⑥利根川
2011 ⑤清水(文4)
⑦矢野美幸(文4)
①矢野
③清水
②矢野
⑧清水
②清水
④矢野
2012
2013 ②吉良愛美(商4) ⑧新宅麻未(商2) ②新宅
2014 ⑥新宅(商3) ⑧新宅
2015 ⑥新宅(商4) ①新宅 ⑧新宅 ①新宅
2016 ①岩田優奈(法1) ②岩田
2017 ①岩田(法2) ①岩田 ①岩田 ①岩田 

(マル数字は順位)

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