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トップ>HAKUMON Chuo【2015年冬号】>【グローバル人材】プロ3戦目初勝利

HAKUMON Chuo一覧

グローバル人材

公認会計士女子ボクサー 高木千愛選手(商4)

プロ3戦目初勝利

 公認会計士女子ボクサーとして知られる中央大学商学部4年の高木千愛(ちあき)選手が11月9日夜、東京・後楽園ホールで行われたプロボクシング女子フライ級4回戦で、2回1分24秒TKO勝ちし、プロ3戦目で初勝利を挙げた。

 2回だった。得意の左ストレートがきれいに決まった。タイのペチャラット・シットサイトーン選手(23)=5戦3勝2敗=が、ぐらりと体勢を崩す。

コーナーに追い詰める高木選手

「行けっ! ちあき!」。リングサイドの声より先に高木選手が相手をコーナーに追い詰めて畳み掛ける。

 渾身の左ストレートが炸裂(さくれつ)した。手応えを感じ、続けざまに切れ味鋭い左のストレートを放つ。猛烈なラッシュだった。

 レフェリーが止めに入った。2回1分24秒、TKO勝ちだ。昨年11月18日のデビュー以来2戦ともTKOで敗れており、3戦目はそっくりお返し。敗戦時に出していた鼻血ともサヨナラだ。

渾身の「左」炸裂

 試合後のあいさつを丁寧に終えると満面に笑みを浮かべた。リング上の笑顔こそ、応援する人達が待っていたシーンである。

「ちあきっ! いいぞ!」

 所属するワタナベジム関係者、練習の行き帰りでよく会う人達、大学関係者、公認会計士受験で励まし合った友人、リングウエアなどのスポンサー、資格取得サポート「TAC株式会社」関係者、故郷の岐阜からやってきた友人・知人ら。リングサイドは歓喜の渦に包まれた。

 高木選手も試合用グローブのまま“グータッチ”やとびきりの笑顔でこたえ、目の前のスマホのカメラに何度も収まった。

 インタビューでは「ここしかないとスタミナを考えずに攻めました」と切り出し、「早く1勝2敗から勝ち越したい」と先を見据える。負けん気の強い選手である。

 ワタナベジムの渡辺均会長は、その気持ちを高く評価する。「きょうは目がいっそう輝いていた。獲物を狙うあの目がいい」と、こちらも笑顔で話した。

 岐阜から駆けつけた母・君子さんはハンカチで口元を覆い、興奮を抑えていたが、壁際でそっと打ち明けた。

「もう、バンザーイです。観戦3戦目でも慣れなくて、見るのが怖いです。きょうも不安でした。勝ってくれてホッとしました。応援してくださった皆さまや大学関係者の方々に感謝します。ありがとうございました」

 会う人、会う人に頭を下げ、お礼の言葉を述べていた。

まなじり決し...

左から母・君子さん、TAC(株)の福原克泰取締役、高木選手

 3戦目はなんとしても勝ちたい。大学卒業前の最後の試合になるかもしれない。高木選手はまなじりを決していた。

 難関の公認会計士試験合格後、「TAC」のスタッフとして働き始めた。仕事が終わった夜、約2時間の練習を週6日こなす。

 勤務後、そして練習後にホッとして空腹を覚えても、食事は体重維持や減量を意識して、サラダやフルーツ中心だ。文庫本の小説を読み、ストーリーに入り込むことで空腹を忘れようとした。過去2度の敗戦は自らをいっそう厳しく戒めた。その一方で、支援者に心を込めて手紙を書いた。

「いつも応援に来てくださり、ありがとうございます。今回は勝って卒業したいと思います。全力を尽くし、勝つだけではなく、楽しんでもらえるような試合にします」

 プロならではの、ファンを楽しませるファイトを考えていた。試合はその通り、ファンには実質KO勝ちの、胸のすくような戦いだった。

 大学2年の2013年11月15日、難関試験に合格した。家族の全面応援を受け、高校時代からの夢をかなえた。あれから2年後、同じ11月に今度はもう一つの夢、プロボクサーとしての勝利を現実のものとした。

 初勝利の試合後、祝いの席に集まったのは5人。パスタやピザが並んだテーブルには、初対面の人もいた。直前まで見知らぬ人が高木選手を介して友達になる。高木選手をきっかけにプロボクシングの試合を初観戦する人もいる。

 だれもが、彼女の頑張る姿に魅入られた人である。

深澤武久・中央大学理事長の話

「高木さん、プロ初勝利おめでとう!『2回TKO勝ち』。見事デビュー戦からの雪辱を果たしましたね。学業とボクシング、さらに勝ち星を重ねることを期待します。頑張れ!」

初勝利 高木千愛選手の自己分析

試合開始を待つ高木選手、緊張気味だ

 毎年毎年、イベントといいますか、何か一つ成し遂げようというのが、私の目標です。大学1年は公認会計士試験の短答式に合格。2年は論文式に合格。3年はプロボクシングのライセンス取得とプロデビュー。そして4年は?「初勝利を挙げる」と決めました。

 デビュー戦から2連敗でした。就職内定先でも研修などが始まり、「両立」が少しずつ問われ始めています。

 ありがたいことに、負けても応援してくださる方、支えてくださる方が大勢います。大学では多くの媒体で私を紹介していただき、今度こそ、なんとしてでも勝って、皆さまに喜んでもらいたい、期待に応えたい、絶対に勝って卒業する、と強く思っていました。

 胸中ではこんな気持ちもありました。減量や練習も乗り越え、こんなに頑張っているのだから、勝たなきゃ、今までが否定される...。

 これまでパンチを打つと体が流れ気味で、そこを攻撃されました。

 課題克服のため、バランスを崩さないように、体幹を意識してパンチを打つ。ディフェンス力が低かったので、防御の練習、フットワークを使う練習、相手との距離を取って攻防する練習などを重ねてきました。

 練習相手は格上の方でした。ジムの多くの方のご協力をいただきました。ありがとうございました。

 全体的に、少しずつですが、成長を感じていたので、自信が芽生えました。戦い方やラウンド(R)の組み立て方を研究。力むことなく冷静に試合するよう心掛けました。

 初勝利の試合では、こうしたことがうまく組み立てられたのか、1Rは相手の出方やスタイルを見るためにフットワークを意識。2Rでは攻める気持ちを強く。

 1R終盤、最後となったラッシュでは、バランスを崩すことなく力の入ったパンチを打って、まとめることができました。

課題

 距離を取る際に自分でも遠すぎたと感じています。攻めの姿勢をもう少しお見せしたかった。ボディーやアッパーなど「下からの攻撃」は、リスクを減らすため、あまりしてこなかったので、次は攻撃のバリエーションを増やしていきます。

パンフの広告にも登場

 この夜の試合パンフレットに、高木選手がモデルの1人となって、女子ボクシングをアピールする広告『WOMEN’S BOXER』が掲載された。制作は所属先のワタナベジム。高木さんはグローブを付けたファイティングポーズ。

 同ジムによると、国内女子のプロ認定は2008年。国内に世界王者7人、東洋王者8人が奮闘中だ(10月15日現在)。高木さんは、ジムの先輩、東洋太平洋女子フライ級王者、江畑佳代子選手に続くチャンピオンを目指している。

もっと知りたい ヘぇ~

試合時間&階級

  女子は1ラウンド2分(男子は3分)で行い、インターバルは1分(男子同じ)。階級は男子同様に17階級。最軽量はアトム級(46.26キロ)、最重量はヘビー級(79.38キロ)。日本女子の多くはアトム級からスーパーフライ級(52.16キロ)で戦っている。