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トップ>HAKUMON Chuo【2015年夏号】>【Close up】俳句漫才で 大ブレイク コンビ名「30度バンク」

HAKUMON Chuo一覧

Close up

人気上昇中の漫才「30度バンク」。左から井坂さん、西野さん〈写真撮影・提供=布施正義氏・中央大学生活協同組合コープスタジオ、クラフト・コア(株)

俳句漫才で 大ブレイク

コンビ名「30度バンク」

西野諒太郎さん&井坂航さん/中央大学落語研究会

漫才のネタに「俳句」を取り入れた2人が笑いの渦を巻き起こしている。中央大学落語研究会の西野諒太郎(商4)さんと井坂航(法4)さん。コンビ名は『30度バンク』だ。

 大ウケだった「新歓ライブ」(4月17日、多摩キャンパスCスクエア)の舞台を誌上再現する。

井坂(写真左)/最近ね 俺は俳句に はまってる

西野(同右)/俳句にはまってんの?

井坂/日ごろから 結構俳句 詠んでるよ

西野/だからずっと五・七・五でしゃべってるの?

井坂/日ごろから 体にリズム 刻んでいる

西野/刻んでいるんだ 刻めるの そんなんでさ なら ここで俳句詠んでみてよ

井坂/春の風が吹いてきて 花粉症の季節だけど 俺は花粉症じゃないから 関係ないんだよね

西野/字余りじゃねえかよ 何文字なんだよ その俳句

井坂/文字数は11・12・23

西野/何やってんだよ

 ネタを俳句にしたのは「舞台で彼女ができたとか彼女が欲しいとか話してもお客さんには関係ないですよね」と西野さんが話し始めた。お笑い番組でよく見る従来形のネタに疑問を感じていた。

 きっかけは地域のシニア世代がつくってくれた。介護施設を訪問した中大落研ライブで、川柳づくりを客席との掛け合いで演じたとき、「予期せぬ笑いがありました」

 日本人は俳句、短歌などを好む。言葉遊びも好きだ。川柳も俳句も五・七・五の17定型詩。耳に入る17文字は音感がよく、テンポの良さで優劣が決まる漫才には合っている、と分かった。西野さんには、祖母が短歌好きで同人誌を出版した血脈がある。

 ネタづくりは西野さんの担当だ。井坂さんが「陰」のボケ役として、もの静かな男を演じる。「陽」となった西野さんがツッコミを入れる。「もともとの僕のキャラを生かしてくれる」と井坂さん。

 入学当初からのコンビ。2人には阿吽(あうん)の呼吸もある。ともに練ったネタはテンポのいい、陰と陽のメリハリも効いた見応えのある舞台に仕上がった。ネタ披露の3分間はアッと言う間に終わってしまう。

 その本番3分のネタに、3時間も練習する。舞台にかけて、お客さんの反応を見て「ここがウケるのか」と再構成することもある。いま10本のネタを持つ。台本なしでもすぐできる。中大落研の4年生は腕が立つ。

暗いヤツだった !?

 落研に入ったのは、2人とも友人の後押しがあった。井坂さんは高校時代に『エンタの神様』などテレビのお笑い番組が好きだった。見ていくうちに、『おぎやはぎ』に魅了された。「自分でもやってみたい。でも、できるかな」と思案の日々。

 西野さんも高校時代から、ブレイクする前の『バナナマン』が好きだった。彼らの出演するラジオ番組を録音し、何度も聴いた。いつしか台本書きにも興味が出てきた。「僕はクラスの隅のほうにいて、あまりしゃべらないすごく暗いヤツでした。クラスにはもう一人の暗いヤツがいて...」。その彼に自作の漫才やコントの台本を見せた。「面白いよ、これ」。この一言で自信がついた。

 客席から舞台へ転じた2人。中大落研には白門祭のお笑い4時間ライブや開催100回を超える伝統の中大落語会などがある。一方で地域振興として慰問に出かける。

 ここには心優しい友人、知人がいない。面白いかつまらないか。他流試合の真剣勝負である。「僕らが演(や)っている間、ずっとかがみ込んでいて “具合悪いのかな ” と心配していたら、『お兄さんたち、面白かったよ』って言われ、びっくりするやらうれしいやら」(西野さん)。腹を抱えて笑っていたのだ。

「あの西野がお笑いをやっている !?」。インターネットの動画サイトで漫才を見た、かつてのクラスメートが仰天したという逸話がある。

 2人や落研は慰問を通して、老人介護の現状を知る。病を抱えるお年寄りを取り巻く諸問題。治療し、介護する側の実態と課題。高齢化社会の最前線に立ち、落研の活動はときにボランティアに姿を変える。関心は行政にまで及び、公務員志望者も少なくない。

 トークは暮らしの潤滑油である。『モノの言い方』『東西で違う言い方』などの刊行物が話題になる時代。

 西野さん、井坂さんはともにトークがうまく、聞き上手でもある。「普段でも相手の話が終わるまで待ちますね」(井坂さん)。聞く耳を持つ人は意外に少ないものだ。自分の話は簡潔に。できればウケたいから言葉遊びをする。2人のトークは社会へ出て、人付き合いできっと役に立つ。

 昭和の爆笑王、林家三平さん(先代)が残した言葉がある。『笑わせる 腕になるまで 泣く修業』。アッ、五・七・五になっている。

 西野さんと井坂さんが選んだ俳句漫才は、偉大なる先人につながる道である。

■公演予定

▽8月9日(日)BWO落語会
八王子東急スクエア12階 
開場:午後1時
開演:1時半

▽9月6日(日)納涼寄席
立川女性総合センター
アイム1階
開場:午後1時半
開演:1時45分

■コンビ名『30度バンク』
笑い界に売れるコンビ名があるという。「ン」が2つ入るとイイそうだ。ダウンタウン、ウッチャンナンチャン 、サンドウイッチマンなど 。中大の2人のコンビ名には「サン」と「バン」と2つ入っている。由来は2人が好きなゲーム・自動車レース、富士スピードウェイの30度バンクにヒントを得た。
■中央大学落語研究会
「おちけん」と言わず、「らっけん」と称する。「落ちを研究するのではなく、落語を研究するからだ」とのこと。「おちけん」と呼ばれても寛容でいるが 、部内では厳しく「らっけん」と統一している。部員には高座名があり、井坂さんは「三優亭可不可」(さんゆうてい かふか)。西野さんは「ふられ亭粋雀」(ふられてい すいじゃく)。