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トップ>HAKUMON Chuo【2015年夏号】>【Close up】どんとこい長距離通学

HAKUMON Chuo一覧

Close up

どんとこい長距離通学

渡邊大裕(だいすけ)さん/総合政策学部3年

長距離通学は時間に追われ、疲れるものといわれている。千葉県流山市の自宅から中央大学多摩キャンパスまで片道約2時間、毎日電車に揺られているのが総合政策学部3年の渡邊大裕さんだ。ハンディと言われがちな長距離通学を早寝早起き、しっかり朝食、車内で勉強とプラスに転化させている。

時間管理はお任せ

渡邊大裕さん

 渡邊さんのアクセスは、JR南流山(JR武蔵野線)→西国分寺→(乗換・JR中央線)立川、(乗換・多摩モノレール)立川南→中央大学・明星大学。この間1時間32分。自宅から南流山駅まで自転車で7分、雨天時は徒歩で13分。キャンパスに入って総合政策学部校舎まで約10分。約2時間の道のり。1年間の通学定期代は約25万円にもなる。

 1時限授業(午前9時20分開始)のある日の動きはこうだ。午前5時50分に起床。朝食6時10分、最寄り駅まで自転車か徒歩。南流山発7時31分乗車、中央大学明星大学着9時3分。9時10分過ぎに総政校舎に入る。

 サラリーマン川柳(第一生命)が長距離を含む通勤をこう詠んでいる。
『朝起きて 会社にいくのが ひと仕事』『通勤は 仕事するより 大仕事』。会社を中大と置き換えれば、渡邊さんの気持ちが少しはわかる。

「電車がトラブルや混雑による遅延か何かで遅れてもいいように、早め早めに動いています。15分遅刻したら入室できない授業があったときは、さらに早く準備をしていました」

混雑率184%

 長距離電車と聞けば、読書や居眠りができると思われそうだが、通勤電車の朝の武蔵野線はぎゅうぎゅう詰めだ。「絶対に座れません。座れるのは月に1回あるかないかです」

 国土交通省の最新データによると、武蔵野線の東浦和→南浦和間の混雑率は184%。200%が「体が触れ合い相当な圧迫感がある」とされる。数字と実体験にズレを感じるなか、渡邊さんは毎日“痛勤“ する。

 体と体が密着して流れる汗も、手が自由に動かせないから流れるままだ。女性のコートのフードに付けられた毛皮の先端が、後方に位置した自らの鼻に当たる。我慢せざるをえない。よけたため頭を後ろに倒して、後方の乗客とぶつかったことがある。

 北朝霞駅で東洋大の学生が混雑電車から開放される。新座駅では立教大生がすし詰め状態に別れを告げていく。

 電車内のどこに位置するか。どの車両に乗るか。ある日、いいアイデアが浮かび、自分専用のスペースを確保した。ドア近くの座席の仕切りに胸を付け、乗客の頭上空間で勉強のプリントを広げるのだ。「混雑してぐちゃぐちゃになってもいいようにコピーしています」

 こうすることで毎日1時間、乗換駅の西国分寺まで勉強できる。この場所を確保するため、利用区間内では乗客が超満員とはならない車両に乗る。「西国分寺でほぼ全乗客が降ります」。選んだ車両が、中央線への乗換に便利なホーム中央の乗降口には遠くても、大混雑の波が去った後に一息つける。

「親から、時間を有効利用しなさい、朝ごはんはしっかり食べなさい、と言われています。早寝早起きして電車の中で集中できるようにしています」

 2015年学生生活実態調査(東京地区私立大学教職員組合連合)によると、朝食を毎日取る学生の割合は、通学時間が1時間以内なら49.6%。だが、長くなる2時間以内では30.3%に減少する。睡眠時間を優先させると見られている。

「夜、もう少し何かしたいなと思っても、明日のことを考えて寝ます」。親の協力で朝食を毎日しっかり食べる。

 つらいのは持ち時間が2時間削られること。キャンパスで友人との楽しい語らいをほかの学生より早く切り上げなければならない。仕方がないこととはいえ、ときに後ろ髪を引かれる思いがする。

菜の花、夕日

 そんなときや勉強に疲れたとき、癒してくれるのは車窓から見える風景。帰りには大きな夕日が素晴らしい。朝は菜の花畑に見入る。「南流山から三郷までがとくにきれいです」。冬は多摩モノレールから見える富士山の雄大さに勇気づけられる。

「ビル街から田んぼに移るシーンもいいですよ。学校の校舎や体育祭の賑やかさも見ています」

 自然の美しさや都市部、農耕地の違いを知る。帰路も大混雑で座れないが、3年目ともなれば、こうした楽しみも増えてきた。

 時間に縛られているとは思わず、時間を管理することで主導権を握る。いまは何が優先事項か。考えて行動するようになったという。

「こういう経験も捉え方一つで変わると思います。これから先、何があっても大丈夫だと思います」

 長距離通学は自らを強くする。いまは、どんとこい長距離通学とそう言える。

うまく使えば時間はいつも十分ある(ゲーテ、ドイツの作家)

■流山市(ながれやまし)
 千葉県北西部に位置して江戸川に接する人口約17万人都市。中大流山白門会の高橋洋支部長(1967年法学部卒)によると「都心に近くて緑豊かということで住みたい街として脚光を浴びています。白みりん200年の歴史があり、近藤勇と土方歳三の別れの地としても知られています」
(中央大学学員時報第488号より)
■混雑率の目安
▽100%:定員乗車(座席につくか、吊革につかまるか、ドア付近の柱につかまることができる)。
▽150%:広げて楽に新聞を読める。
▽180%:折りたたむなど無理をすれば新聞を読める。
▽200%:体が触れ合い、相当な圧迫感があるが、週刊誌程度なら何とか読める。
▽250%:電車が揺れるたびに体が斜めになって身動きができず、手も動かせない。
(国土交通省調べ)
■通学時間と朝食
通学時間
1時間以内 55.3
2時間以内 25.5
3時間以内 7.9
朝食 3時間以内 2時間以内
毎日とる 49.6 30.3
時々とる 63.3 19.1
食べない 69.8 15.4

(私大連調べ、数字は%)