小惑星探査機「はやぶさ2」の打ち上げを覚えているだろうか。昨年12月3日、鹿児島県の種子島宇宙センターから6年にわたる挑戦に旅立った。打ち上げに合わせて、宇宙航空研究開発機構(JAXA=ジャクサ)は中高生を対象にした体験プログラム「1日宇宙記者『はやぶさ2』」を開催。中央大学高校3年(当時)の篠原香里さんが全国8人の一人に選ばれた。
「はやぶさ2」の旅立ち(イラスト:池下章裕)=提供・JAXA
「宇宙記者」は種子島に滞在し、打ち上げの様子や打ち上げに携わる人々を取材する。実体験を記事にして、自らの言葉で発信していくプログラムである。
「はやぶさ2」が目指す小惑星への到着予定は2018年。到着後は人工的にクレーターを造り、微粒子などの試料採取を行う。地球への帰還予定は2020年だ。太陽系や生命誕生の秘密を解き明かすことが期待されている。
宇宙への思い
宇宙記者の心構えやスケジュールなどについてJAXA職員(背中)から説明を受ける参加者。篠原さんは後列女性4人の右端(写真提供:JAXA)
種子島への出発直前、篠原さんの元にJAXAから残念な知らせが届いた。天候不良のため打ち上げを延期する、宇宙記者プログラム期間内の打ち上げは「ない」という。メーンイベントが中止になった。参加するかどうかを再確認された。彼女の意思は固く、参加した。
「小学生のころ、はやぶさ初号機の着陸失敗のニュースを見てから、はやぶさのことが頭にありました」
初代「はやぶさ」の小惑星「イトカワ」への着陸失敗が、宇宙に関心を持つきっかけとなった。それ以来、宇宙への興味を深めてきた。宇宙や天文ニュースを配信する朝日新聞天文部のツイッターをよく見る。宇宙記者の情報もここで入手した。
未開拓であること。これが彼女にとって宇宙の最も魅力的な点であるという。宇宙はこれから発展していく分野である。
いつか人類が火星に移住するころには、今ある基本的な国際規約に加え、新たな法律が秩序維持のために必要となる。宇宙法を専攻できる大学院が国内にあることを知り、宇宙に関する法律を学びたいと思うようになった。
宇宙記者となるまで、宇宙に対して疑問があった。なぜ巨額の費用を使って衛星や探査機を飛ばすのか。宇宙記者に選ばれ、宇宙についてさらに調べるにつれ、奥深さを感じるようになった。
覚悟
記者に応募する前、悩みがあった。書類提出とプログラムが、高校の試験期間と重なっている。大学への推薦順位を左右する重要な時期だ。宇宙記者プログラムへ参加していいものか。彼女の背中を押してくれたのは地歴公民科の少人数指導を担当している先生の一言だった。
「本当にやりたいことがあるのなら、自分の持っている環境をすべて投げ出してやっていくぐらいの覚悟が必要だ」
高校生活の終盤、思い切って自分のやりたいことに向かって一歩を踏み出した。
次のステージへ
種子島では宇宙を目指す同年代の学生に出会い、多くの刺激を受けた。理系志望者が多く、彼らの知識の豊富さに驚かされた。プログラム後も頻繁に連絡を取り合っている。
4月から中大法学部に進学する。宇宙での倫理問題について、JAXA職員の話を聞くなどして、大学で学ぶ法律学、さらには大学院で専攻したいと考えている宇宙法への関心が強まっている。「はやぶさ2」が地球に帰還する2020年の自分像を尋ねると、大学院に進み、今回学んだことを生かしていたい、という。
多摩での学びから宇宙の法律へ。かばんから「宇宙法入門」の本を取りだすときの目の輝き、宇宙を語る言葉ににじみ出る高揚感。何より宇宙法を学びたいという熱意。これらを持って、宇宙と同じく「未開拓」な未来を力強く切り開いていってくれるに違いない。