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トップ>HAKUMON Chuo【2015年秋号】>【クローズアップ】最年少アマ竜王 全国初挑戦で偉業 吉本悠太さん(商4)

HAKUMON Chuo一覧

クローズアップ

最年少アマ竜王
全国初挑戦で偉業 吉本悠太さん(商4)

 将棋のアマチュア日本一を決める大会「アマチュア竜王戦」が6月20日、21日に東京都内で行われ、中央大学商学部4年の吉本悠太さん(21)=東京都代表=が全国大会初出場で初優勝、大会最年少優勝を果たした。
学生記者 西村卓真(経済学部3年)

第28回アマチュア竜王戦(協力:日本将棋連盟)、左が吉本さん

 アマ竜王戦は優勝者にアマ七段免状が授与されるアマ最高棋戦。主催は日本将棋連盟と読売新聞社。日本アマチュア将棋連盟が協力した。

 会場は港区のホテル。都道府県代表54人のほか前年優勝者、招待選手2人を加えた56人で争った。決勝(決勝トーナメント5戦目)の相手、神奈川県代表の渡辺誠さん(21)は専門学校生で学生・生徒同士による決勝は今回の第28回大会で初めてだ。8強に社会人が6人、そのなかで若い力が勝ち上がってきた。

 渡辺さんとはこれまで何度も対局し、その都度しのぎを削ってきた。「勝つ自信がなくて、自分らしい将棋を指せたらいいと思っていました」

 戦型は互いに玉を堅く囲う「相穴熊」。吉本さんは研ぎ澄まされた直感で次々に駒を指す。スーパースターの羽生善治さんによると「直感の7割は正しい」。

 吉本さんは『ここぞ』の局面で「深く読みを入れることがあり、具体的には10手以上先まで読むこともあります」。2時間8分を経過した186手。後手の吉本さんが終始リードを保ったまま押し切り、息をのむ大熱戦にケリをつけた。

 終局後、両者は無言だった。駆け付けた高校時代の同級生や中大の将棋部でともに戦う仲間など、多くの友人たちの弾ける笑顔を見て、アマ竜王が初めて白い歯を見せた。 

「優勝できたのが信じられません。最年少とは知りませんでしたね。17~18歳で優勝した人がいると思っていました」

 驚きのまま、その夜は友人らと祝いの席へ。会場に行けなかった両親は速報サイトにくぎ付けとなり、日本一になった息子と携帯電話で喜び合った。

落ち着きのない子供

 将棋を始めたのは小学3年だった。「落ち着きのない子供でした」。同級生の母親に将棋のルールを習った。居住まいを正して将棋盤に向かう。礼に始まり礼に終わる。敗れたときは相手に「負けました」と言う世界。

 才覚があった。みるみるうちに上達し、小学5~6年で棋士にあこがれた。中学1年でプロ棋士養成機関の「奨励会」入り。学校の友達がクラブ活動を始めるころ、将棋を職業とするプロフェッショナルを意識した。

 奨励会は厳しい競争社会だ。同じ志を持つ幾多のライバルたちと熾烈な争いをして、はい上がっていかねばならない。勝率は7割超が求められる。楽しかった将棋から勝つための将棋へと変貌する。

 今回のアマ竜王戦ベスト8のうち、元奨励会員は5人。奨励会のレベルの高さはここでも立証された。

 心身を削るような生活が続いた。将棋は頭脳スポーツとも評される。静寂のなか、棋士の思考回路はフル回転。プロが対局中に甘い物をよく口にするのは、疲れを感じた脳が新たなエネルギーを求めるからだろう。

 吉本さんは「集中するタイプなので」甘味はとらず、冷たいお茶を飲む程度。大会期間中は対局後も「緊張しているのか、あまりお腹がすきません」。奨励会時代は一日指すと1キロほど痩せたという。「将棋はダイエットにも有効だと広めておきたいです」。このときだけは少し笑った。

学生王将

 大学受験前に将来を決める選択を迫られる。このままプロを目指すか、大学へ進学するか。悩んだ末に奨励会を1級で退会した。同じ級に年下が増えたのも一因だった。

 中央大学商学部会計学科を受験した。会計学に興味があり、多摩キャンパスの雰囲気も好きだった。

 入学後、気軽に見学した学友会文化連盟所属のサークル「棋道会」(将棋部、囲碁部)で奨励会時代の先輩と再会した。琴線に触れるものがあった。封印していた将棋を再び指すようになっていく。

 昔取った杵柄である。大学2年、2013年12月には全日本学生十傑戦(学生王将戦)を制した。中大勢としては41年ぶりのタイトル奪還だった。

「棋道会」将棋部には約60人が集う。将棋好きはもちろん、イチから将棋を始める学生まで。初心者は2~3割いるという。なかには実力者の吉本さんに果敢に挑戦する人も。求められたとき、時間があれば対局するそうだ。

 アマ竜王の座に就いたとき仲間たちのツイートから日ごろの表情が伝わってくる。「彼が強いのは知っていましたが、まさか、ここまで強いとは思いませんでした」と心底驚いたようで、「同じ部にいて誇らしい気分です」と本人より胸を張る。

 吉本さんはこう話す。

「上から目線でアドバイスするのは好きじゃなくて、その人の考えをくみ取ったうえで的確なアドバイスをしたい。将棋部には真面目で素直な学生が多くいます」

「僕自身は熱中しすぎるのが短所でしょうか。もっと融通をきかせないと」

 大事な試合で集中力を一気に高め、大学の将棋部では多方面からレベルアップに尽力する。「落ち着きのなかった子供」は、硬軟両面を併せ持つ強くて優しい男になっている。