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トップ>HAKUMON Chuo【2015年秋号】>【クローズアップ】THE SPRINTER 中大 谷口&諏訪両選手 突っ走る

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クローズアップ

THE SPRINTER 中大 谷口&諏訪両選手 突っ走る

 疾風(はやて)のように駆け抜ける。中央大学陸上競技部の谷口耕太郎(商3)、諏訪達郎(法3)両選手は名うてのスプリンターだ。競技は単純に見えるものほど奥が深いという。コンマ1秒の世界に生きる2人の素顔に迫った。(学生記者取材班)

個人種目で世界と戦える

谷口耕太郎選手

谷口耕太郎選手/神奈川・弥栄高出身 184センチ・79キロ

4×100メートルリレー
☆世界リレー・銅メダル、アンカー
☆韓国ユニバ・金メダル、アンカー
☆インカレ・中大3連覇、第2走者

入学式で新入生代表あいさつ

2013年入学式で新入生代表として、あいさつする谷口選手。右は福原総長・学長(当時)

 2013年4月の入学式。多摩キャンパス第一体育館は超満員だった。学生や保護者らが見つめるなか、谷口選手は居並ぶ新入生の代表として登壇し、福原紀彦総長・学長(当時)に向けて、「入学の辞」を述べた。あのシーンをいまでは笑みを浮かべながら振り返る。

「入学式は世界リレーの決勝より緊張しました」

 ことし5月、バハマの首都ナッソーで陸上競技の新設競技大会、国・地域別対抗戦「世界リレー」が開催された。

 大会前、日本チームは代表選考から難問が続出した。主力選手がけがで欠場し、現地入りしてからも故障者が出た。選手選考は混沌としていた。

 伸び盛りの選手にチャンスが巡ってきた。中大のスプリンター、谷口選手が4×100メートルリレー代表に選出され、しかも浮沈にかかわるアンカーに。国際舞台は2014年にコンチネンタルカップ(大陸選手権)で経験している。

 日本チームは予選を2着で通過し、迎えた決勝。ジャマイカとほぼ同時にバトンを受けた。相手は世界記録保持者のウサイン・ボルト選手。「彼は人間じゃないですね(笑)」。人類最速男の印象を率直に語った。

 規格外を目の当たりにしても、大舞台でも物怖じせず、自分の走りに集中できるのが持ち味。メダルの懸かったレースでも伸び伸びと走り、3位でゴールした。2008年北京五輪以来の銅メダルをたぐり寄せた。

 この結果によって、8位以内に与えられる2016年リオデジャネイロ五輪出場権を獲得した。優勝は米国で、ジャマイカが2位だった。

 7月は韓国・光州(クアンジュ)にいた。大学生世代の国際総合大会、ユニバーシアード競技夏季大会。今シーズンの好調を維持し、個人とリレーの2種目でユニバ代表に選出された。

 日本のお家芸、4×100メートルリレーは狙い通りに金メダルを獲得した。

「このメンバーで走れたことがうれしかった」。中大勢は谷口、諏訪両選手。法政大からも2選手。全員が同学年だ。気心が知れていて、チームの雰囲気は良かった。

 決勝は、アンカーの位置からレース展開を冷静に見ることができた。第1走者の大瀬戸一馬選手(法大)は他チームとほぼ横一線。第2走者・長田拓也選手(法大)で一歩抜け出し、第3走者の諏訪選手(中大)でぐんと加速がついた。

「これはいける」。チームメートの走りを見て確信した。あとはリードを守る、いやもっと差を広げてやる。前へ前への気持ち。1位でフィニッシュラインを駆け抜けた。

 全員が完璧な走りだった。「自分たちの最大のパフォーマンスを発揮すれば結果がついてくると思っていた」。金メダル獲得は自然の流れのようだった。

やさしい心遣い

 谷口選手が試合後、SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)で発信したコメントが大きな話題となった。

「5人で勝ち取ることができました」

 リレー種目の出場選手は4人なのに…。代表選手はもう一人いて、予選でけがをした小池祐貴選手(慶大)を含めて「5人のレース」と位置付けた。

 決勝進出には小池選手の存在があった。表彰台に上がれないチームメートを思いやる優しさが、中大のスプリンンターをさらに大きくした。

 SNSの評判のよさを問われると、はにかみながらこう言った。「(彼も)喜んでくれたと思います」

野球少年から転身

 陸上競技を始めたのは中学2年。陸上部の先生に声をかけられた。エースで4番の野球少年。運動神経は群を抜いていた。

 入部して陸上競技に慣れてくると、メキメキ力をつけた。中3のジュニアオリンピック(主催・日本陸連ほか)や全国規模の大会の200メートル決勝に進出。諏訪選手と初めて顔を合わせたのも、このジュニアオリンピックだった。

 高校は陸上の強豪・弥栄高へ。1年次の国体で諏訪選手が先に全国区となった。千葉国体少年B(中3~高1)100メートルで2位に入り、“新星誕生”と関係者の耳目を集めた。

「当時、諏訪くんは高校陸上界の『BIG4』と呼ばれる選手で、本当にすごかった」 自身の飛躍のきっかけは3年の高校総体(インターハイ)だ。200メートル3位。全国で戦える意識を持ったのも、このころと振り返る。

 大学入学後の活躍が目覚ましい。1年で日本学生個人選手権2位。昨年は200メートルで20秒45 の好タイム。4×100メートルリレーでは大学日本一になった。

 男子短距離陣の選手層は厚い。1学年下に桐生祥秀選手(東洋大)。さらに、ことしの世界ユース選手権(コロンビア・カリ)で短距離2冠を達成した16歳のサニブラウン・ハキーム選手(東京・城西高2年)がいる。年上世代も含め、代表争いは激しい。しかし、谷口選手は周りのことをあまり意識しない。

「自分も個人種目で世界大会の決勝までいける自信がある」「いずれは対等に戦える」と力強く語った。

 9月のインカレ(大阪)同種目、中大3連覇は通過点だろう。第2走者としてレースに勢いをつけた。ゴール後、Cマーク入りの中大旗を掲げた表情からは、喜びよりも落ち着いた雰囲気が感じられる(次ページに写真)。諏訪選手(第1走者)、猶木雅文選手(第3走者=法4)、女部田祐選手(アンカー=法4)と中大短距離陣はレベルが高い。

 来年はリオ五輪のシーズンだ。専門の200メートルで個人出場を目指し、日々練習に励んでいる。「コーナーを抜けてからの直線の走りに注目してほしい」とアピールする。

 184センチ、79キロ。恵まれた体格を生かしたダイナミックな走りに、つい引き込まれてしまう。今後も出場するレースが楽しみだ。

学生記者 西村卓真(経済学部3年)

自分の最高パフォーマンスができれば結果はついてくる

諏訪達郎選手

諏訪達郎選手/三重・四日市工高出身 177センチ・70キロ

4×100メートルリレー
☆韓国ユニバ・金メダル、第3走者
☆インカレ・中大3連覇、第1走者

男子4×100メートルリレー、中大インカレ3連覇のヒーローたち。左から諏訪、谷口、猶木、女部田各選手=大阪・ヤンマースタジアム長居

 諏訪選手は韓国ユニバ4×100メートルリレー第3走者として出場し、見事に金メダルを獲得した。大会についてはもちろん、インタビューの中で垣間見ることができたスプリンターの人柄にも触れていきたい。

 陸上競技との出会いは小学3年。友達に誘われて始めたのがきっかけである。小学校時代は地元のクラブチームに在籍。中学、高校、大学と陸上競技一筋。短距離を専門とし、これまで12年間努力し続け、ジュニアオリンピック、インターハイ、国体などで結果を残してきた。

 2010年千葉国体では2位に入った。「自分でも驚く大(だい)自己ベストが出ました」。以来、日本陸上界で最も注目を浴びているトップ選手のうちの一人だ。

 私たち学生記者は「日本代表として走るときにプレッシャーは感じますか」という質問をしてみた。

「自分の最高のパフォーマンスができれば、結果は自ずとついてきます。日本の代表であることを特別意識することなく走っていました」

 胸を張ってこのように語る諏訪選手の表情には自信が満ち溢れていた。誰もがプレッシャーに押しつぶされてもおかしくない大きな大会で結果を残してきた。その裏には、自分に克つという考え方があった。日ごろから質の高い練習を続け、そこでつかんだ自信も大きいのだろう。

スタートに注目

 世界大会になれば世界記録保持者であるウサイン・ボルト選手のような金メダリストと同じレースで競技することもある。だからと言って、スター選手を特別に意識することはない。目指すのは常に自分のベストの走りだという。

 こうして聞いていると常に陸上のことを考えながら生活しているように思えるが、必ずしもそういうわけではない。練習が終われば、仲間の部員と「たわいもない話」をする。試験の結果に一喜一憂したり、テレビの話題で盛り上がったりする普通の学生だ。

「試合前にルーティンなど心がけていることはありますか」。この質問に対しては、「これと言って自分の中で決めていることはありません。ルーティンなどを作るとそれにとらわれてしまいますので。むしろルーティンを作らないようにしています」と述べた。感性を大事にして、思いのままに走ることが諏訪選手の強さの秘訣かもしれない。

 韓国ユニバ個人100メートルでは、あまり経験のないフライングで失格となってしまった。彼の強みは目の覚めるようなスタートである。スタートには自信を持っていたのだが、まさかの失格に「頭が真っ白になって」と苦笑いを浮かべた。が、「世界規模の大会で、してしまったことをプラスにしよう」と頭の切り替えも早い。

 第3走者で臨んだリレーでのスタートは、個人種目で失敗したにもかかわらず、少し早いタイミングでスタートを切ったという。「あがってしまい、早くに出てしまって…」と笑って答えた。

 百戦練磨のライバルと戦うため、武器であるスタートを磨いている最中だ。インカレ3連覇も第1走者はスタートのいい諏訪選手。海外のユニバは経験した。目指すは来年のリオ五輪。2020年には東京五輪。同じキャンパスで学生生活を送った彼が、金メダルを下げる姿をぜひとも目にしたい。

学生記者 山田俊輔(法学部3年)

谷口・諏訪 両選手と一問一答

――谷口さん、陸上競技は何の種目から始めたのですか。やはり短距離ですか

取材中の学生記者、左から野村、山田、西村

谷口 幅跳びです

――えっ

谷口  中学で幅跳びをやってみないかということで陸上を始めたわけなんですけど、結果が…(苦笑い)。途中から短距離に変えました

――お互いのことは

谷口 諏訪選手は有名だったので知ってはいました

諏訪 谷口選手のことは大学で一緒になる前から知っていましたね

――お互いの存在を意識することは

谷口  スタートに立てばお互いライバルだと思っています。普段はほとんど陸上の話はしませんし、大学での練習は本当に和やかな感じでやっています

――韓国ユニバから帰国後は

諏訪 母からは“おめでとう”というラインがきていました

谷口  周りの反応は…、とくにないですね。母からは“羽田に迎えに行く”という普通の連絡が来ていました(快活に笑う)

――大会前にいつも食べる“勝負飯”といったものはありますか

諏訪  自分は寮に入っているので、出していただいたものを食べています。勝負飯…。うーん、カレーですかね、好きなので(目元を細めて笑う)

谷口  食べたいものを食べます。これを食べなきゃとか、これは食べちゃいけない、とか嫌なので。さすがに食べ過ぎだけは、食べる量は気にしますけど(口角をあげてきゅっと笑った)

構成/学生記者 野村睦(法学部3年)

走れることに感謝しよう

 2人は「感謝」という言葉をインタビューでよく口にした。陸上競技部の野村修也部長(中大法科大学院教授)はミーティングや折りに触れて、「走れることに感謝しよう」と話している。リレー種目はサポート選手を含めた総合力で決まる。互いに感謝する気持ちはバトンパスなどに現れる。中大3連覇には「感謝の気持ち」が詰まっている。

 勝負はラスト5メートルでアンカー女部田選手が逆転した。優勝にわく中大応援席には野村部長の弾ける笑顔もあった。

「中学時代の写真を見てびっくりしました」。諏訪選手は自らの陸上競技大会のスナップ写真に谷口選手が写っていることに気が付いた。当時は三重と神奈川の陸上少年。交流はなかったが、好成績が2人を結び付けた。思い出の1枚は2人のスプリンターの歴史の始まりである。

 韓国ユニバの大会前、現地からMERS対策によりマスク着用との緊急連絡が入った。MERSとは中東呼吸器症候群、コロナウィルス感染拡大の懸念で、5月に最初の感染者が確認された。死者も多数出て、韓国内では重大危機ともいわれた。

「でもマスクしているのは日本選手団だけで、ほかの外国人選手は気にしている様子はなかった」(諏訪選手)。「選手食堂入り口に消毒液が置いてありましたね。僕ら普通に生活していました」(谷口選手)大事に至らずによかった。7月には韓国政府から事実上の終息宣言が出された。

ユニバーシアード競技大会

 大学生年代の国際総合大会が「ユニバーシアード」。ことし夏季大会の舞台は韓国・光州(クァンジュ)、7月3日開幕、14日閉幕の計12日間、光州市の人口は約145万人。2002年4月に仙台市と姉妹都市になった。