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中央大学音楽研究会混声合唱団
年末が近づくにつれて、メディアを通して各合唱団の壮大で素晴らしい歌声が聞こえてくる。
中央大学音楽研究会混声合唱団は12月21日の演奏会ヘンデル『メサイア』(杉並公会堂大ホール)に向けて練習の日々だ。
80人を超える団員の歌声を一つにして、観衆を魅了するまでには幾つもの試練があった。
合唱団部長の湊和貴さん(総政3)が舞台裏を少し明かしてくれた。
報告/湊和貴部長
中大混声(通称)は主にバッハやモーツァルトといったバロック、古典派の作曲家の作品を取り上げている。年2回、定期演奏会を開き、ありがたいことに多くのお客さまに楽しんでいただいている。ことしは9月に東京・府中の森芸術劇場ウィーンホールで、ハイドン作曲「天地創造」を演奏した(第51回定期演奏会)。無から光が生まれ、天地が創造され、人間が誕生するまでを描く作品だ。
団員は80人超。全員に音楽経験があるわけではなく、高校時代に音楽関係の部活動を経験した者は全体の1/4程度。クラシック音楽に縁もゆかりもなかった新入生が、徐々に成長するのである。
中大混声の大きな魅力の一つが、プロフェッショナルの音楽家との共演である。中大混声を音楽監督として27年間指導する指揮者の白石卓也先生からは、音楽の枠を超えて、物事に取り組む姿勢、人間形成に至るまで、事あるごとに薫陶を受けている。
「去年と同じではいけない」「演奏会ではお金をいただく、同好会レベルではいけない」
練習の合間に飛び出してくる、ひと言ひと言に背筋がピーンとなる。
歌のテキスト
ソリストの方々の艶のある歌声を間近で聴いていると、自分もこうなっていきたいと向上心に燃え、どうやったらこのようになれるのだろうかという意欲が湧いてくる。共演の大きな魅力である。
夏合宿ではパートごとに歌曲指導を受ける。ヴォイストレーナーの先生による個別の発声レッスン。その指導から自分自身の新しい引き出しが得られるのがうれしい。
オペラレッスンでは登場人物の心情を表現する発声や、立ち稽古で道具をどうさばくかといった舞台人のノウハウを学ぶ。これが大きな経験になる。
音響が素晴らしい府中の森芸術劇場ウィーンホール
10月に入ると、バロック時代の作曲家、ヘンデルの「メサイア」への取り組みが本格化した。メサイアは、部のレパートリーの中で最も多く演奏してきた曲である。
3部構成の2部の終わりのハレルヤコーラスを聴いたことのある人も多いだろう。宗教的なテーマを独唱、合唱、管弦楽から構成されるスケールの大きな楽曲で、イタリア語で「オラトリオ」という。オペラと違って演技は伴わない。
舞台台本家ジェネンズが、旧約聖書の預言書から引用し、キリストの生涯を描いた台本を作成した。その台本にヘンデルが24日という短期間で曲をつけた。これがメサイアである。
現役部員の中では、4年生が3年前、モーツァルト編曲版(ドイツ語版)を歌ったことがあるだけだ。
曲目の多いメサイアは一曲一曲の音や、歌詞を覚えるだけでもひと苦労する。しかし、経験が浅いぶん、部員はメサイアに対して先入観がなく、アプローチできるプラス面もある。
新たに広がっているヘンデル、そしてメサイアの世界に心躍らせながら1カ月を過ごした。中大多摩キャンパスが白門祭で盛況を迎えたころ、私たちは白門祭前半3日間を「強化日程」と称し、一日中みっちり練習した。
この間に白石先生から言われた言葉が印象に残っている。
「熱のあるお客さんで会場を埋める」
これがキーワードだ。
「これまでの中大混声はただ満席のホールの中で歌いたいという気持ちばかりが先行していた。本当に中大混声の演奏を聴きにいきたいと思っているお客さんを目の前にして歌う。それを目指すことが中大混声としての新たなステップになる」
自身を振り返ると、各団員と本音で向き合うことが少なかったことに気付く。人の感情の機微を感じようとする力が、演奏会を成功させるためには必要だと思った。
中大混声で活動して3年。歌の技術が伸びた、学術的知識が増えたと思う。と同時に活動の中でずっと変わらない自分の精神感、弱さとも闘ってきた。
混声合唱団の活動に取り組む日々は、充実した時間でありながらも、演奏会を作り上げるための諸々の準備や、音楽家をはじめ写真家、デザイナーなど多くのプロと接する緊張感を厳しく受け止めている。
私たちを後押ししてくれる先輩たち、OBOG諸氏、家族がいる。感想や激励の言葉は大きな励みだ。また、指揮・音楽監督の白石先生をはじめ、多数のプロの方々にも支えられている。皆さまに感謝の気持ちをこめて、2014年、一度きりのメサイアを歌う。
広報担当/名波友里亜(文4)
混声合唱団員は、3年生になると団運営の執行部に入る。私は広報部部署長となった。
目標は演奏会の観客席を満席にする。昨年9月の第50回定期演奏会「マタイ受難曲」(東京・紀尾井ホール)では、おかげさまでチケットが早い段階で売り切れになった。
同年12月の第九演奏会、会場は八王子のオリンパスホール。収容人員約2000人の大ホールだ。前回よりも規模が大きいが、今回も満席にしようと奮闘した。
団員が家族や友人に懸命に声をかけて、お客さまを集めても満席には程遠い。私は必死になった。活動1年目に知り合った父母会や白門会各所に宣伝した。他団体の合唱団関係者にもPRに出掛けた。
大きな会場を埋め尽くしたい。でも残席がかなりある…。このままではガラガラな客席で演奏会を迎えることになってしまう。
焦りがあった。それとともに、ある矛 盾が頭から離れなくなった。
演奏会まで2カ月ほど前のある朝、仲間にメールを送った。
「しばらくの間、部署長としての役割を休ませてください」
休んでいる間、抱えている矛盾と向き合った。演奏会の感動を共有したいと始めた活動なのに、チケットの枚数ばかりに気を取られていた。自分はどのような気持ちで広報活動をしてきたのか。お客さまは自分たちを応援してくれている。恩返しはできているだろうか。お互いがウィンウィンの関係であれば最良だろう。
根本的な解決になっているのか分からなかったが、そう考えることで気持ちが落ち着いてきた。
この間、同期生たちがフォローに回ってくれた。復帰後、仲間に突然の離脱をわびた。
演奏会の前は最後の最後まで粘り続けた。当日の来場率は8割を超えた。私は2階席、3階席を埋め尽くしてくれたお客さまを一生忘れない。あの熱気も一生忘れない。
いままでが勘違いだった。混声合唱団の広報を「チケットを売る係」と錯覚した。広報である以上、自分たちの活動や音楽について誰よりも知っていなくてはならないのに、最も大切な「伝える活動」が抜け落ちていた。学生という立場を利用して、「がんばっているから来てください」としか言えなかった。
どうしたらクラシック音楽に興味を持っていただけるか、どうしたら演奏会で楽しんでいただけるか。アピールやアプローチの仕方について考え、動いていく広報に変わりたいと思うようになった。
ありがたいことに徐々に中大混声を心から応援してくださるお客さまが増えてきた。ことし9月の定期演奏会では、あるお客さまが、紙いっぱいに感想を書いて送ってくださった。ウィンウィンの関係の一つができたと思う瞬間だった。
合唱団も体力トレーニングをします
混声合唱団には各パートに1人ずつフィジカル隊長(団員)がいる。3人が1年生だ。
2年生の金山拓土バス・フィジカル隊長によると、フィジカルをするのは歌う人にとって体が楽器であるからだ。
4人の隊長が日々のトレーニングについて語った。
1951年設立。学友会文化連盟音楽研究会に所属。1988年から音楽監督として白石卓也氏を、1997年からヴォイストレーナーとして大森いちえい氏を迎えた。バッハ「マタイ受難曲」「ロ短調ミサ」、ハイドン「天地創造」「四季」、ベートーヴェン「荘厳ミサ曲」「交響曲第九番」、フォーレ「レクイエム」など主にバロック音楽、古典派・ロマン派音楽の宗教大曲を題材に、作曲家の意図を忠実に再現することを基本理念とした音楽活動に取り組んでいる。演奏形態も作曲家オリジナルの編成を基本とし、国内外で活躍中の独唱者やオーケストラを伴う定期演奏会を毎年主催する。その活動は国内アマチュア合唱団の中でも出色の存在と評価されている。
★部長/湊和貴 ★演奏会実行委員長/宮野郁 ★学生指揮者/鈴木雅人