トップ>HAKUMON Chuo【2014年夏号】>【ニュース&中大ニュース】アカデミックガウンがきまってます 2人に中央大学名誉博士学位贈呈
2人に中央大学名誉博士学位贈呈
中央大学は3月24日、中大商学部卒業生でインドネシア日本友好協会理事長、パナソニック・ゴーベルグループ会長であるラフマット・ゴーベル氏(51)に名誉博士学位を贈呈した。5月8日にはドイツ法学界の重鎮、ディルク・エーラース氏(68)に名誉博士学位を贈呈した。贈呈対象者は、文化の創造・発展、社会・人類の福祉に多大な貢献をした者とされ、2003年にはセブン・イレブン・ジャパン代表取締役会長兼CEO、鈴木敏文氏が名を連ねている。名誉博士は18人となった。
東京・日比谷の帝国ホテルで行われた贈呈式には、中大関係者のほかゴーベル氏の母国インドネシアから30人超の支援者が祝福に駆け付けた。福原紀彦学長がアカデミックガウンをまとい、式辞を述べる。「ゴーベル氏は父子二代による母国発展への尽力、人材育成、福祉事業においても大きな力を発揮されました。栄えある名誉博士号を贈呈します」
その後、ゴーベル氏に学位記とアカデミックガウンが贈呈された。初めて袖を通す。福原学長が襟元をそっと直すと、本人は両胸に刺しゅうされた白い校章に手を置き、そっと目を閉じた。
水を一口飲んだ後の謝辞は流暢な日本語だった。世界経済とアジアの動き、インドネシアと日本の関係など国際間のテーマを展開しながら、「中央大学は心の中で特別な意味を持っています」と続けた。8分間のスピーチが終わると、その内容はインドネシア語に訳されて場内に流された。時差がややあって拍手で称えられた。
閉式後、母国関係者が望む記念撮影が相次ぎ、祝賀会がなかなか始まらない。壇上で恩師の鶴田満 彦名誉教授が苦笑いしている。その祝辞で会場が和んだ。
「先ほどは大変立派なスピーチでした。記念講演という気がしました。三十数年でこんなにも成長したのかと感服しました。入学時、彼の日本語はそれほど上手とは言えませんでした。ナショナルバラエティの観点からインドネシアやタイ、マレーシアからも人材を育成しようとしたのです」
「得意だったのはバドミントン、母国の国技であります。担当の先生より上手でした。さて、いまではお父様とともに現場とそこで働く人たちを大事にする事業家として母国の発展に寄与しています。私は尊敬の念を抱いています」
約10分間のスピーチに出席者は引き寄せられ、時々笑い声が起こった。その笑い声にインドネシア関係者も直後の母国語訳で内容を知ると同じように笑い声が起こった。
翌日、ゴーベル氏は多摩キャンパスの卒業式で学員代表祝辞を述べた。アカデミックガウンの着こなしは、すっかり板についていた。
あごひげを蓄えたエーラース氏はドイツのミュンスター大学法学博士であり、厳格なルールで知られるドイツ国法学協会元理事長。
エーラース氏を囲んで遠山総長職務代行(左)と福原学長(撮影・山下蛍)
1945年、ドイツ・フレンスブルクに生まれた。国法学、行政学、教会法の3分野で教授資格を取得し、ミュンスター大学正教授、同大経済公法研究所所長、同大法学部長などを歴任した。
ドイツでは留学生らに良好な研究環境を提供するなど、日独間の学術発展に重要な役割を果たした。
多摩キャンパスでの名誉博士学位贈呈式では、福原学長らによる式辞を始めとするセレモニーが粛々と執り行われた。学位記・記念品贈呈時には中大のアカデミックガウンを身にまとい、照れながらもたえず笑顔でいるエーラース氏が際立った。
同氏は「きょう名誉博士学位をいただきました。この経験は、私にとって、これまで以上に学ぶ上で、何よりの契機となりました。御礼を申し上げます」とドイツ語の謝辞があり、最後に「アリガトウゴザイマシタ」と日本語で締めた。
その後の祝賀会では厳格だった雰囲気が一変し、心温まるエピソードが披露された。ドイツには日本のような24時間営業のコンビニなどがない。同氏は、夜遅くドイツ入りした日本からの友人・知人のために、ゲストハウスの冷蔵庫にハムやチーズなどを用意、おいしいワインを冷やしておいたという。長旅の疲れをいやしてほしい、との思いが込められている。
この種のもてなしを最初に行ったのは中央大学側である。この点がドイツ側から好意的に評価され、相互主義というかたちで今日に至っている。隔年でミュンスターを訪れる中央大学派遣の客員教授は皆この恩恵を被っている。
学生記者 山下蛍(経済学部1年)
私は数年前からドイツに並々ならぬ憧れを抱いている。
本場のドイツ語を生で感じたいと思い、今回の取材を希望した。美しい自然、おいしい料理、魅力的な歴史、安定した経済、紳士的な国民性。ぜひ一度、ドイツに行ってみたい。
エーラース氏の出身地であるドイツは、人口約8000万人、国土面積約35万平方キロメートル。地形的には北部に平原、中央に高地、南部にアルプスと変化に富み、自然に恵まれている。
国民が自国の自然環境を大切にしており、エコ先進国としても有名である。日本からも毎年32万人もの観光客が訪れる人気の国だ。
経済は「EUの優等生」と称されるほど安定している。
ドイツと聞いて真っ先に思い浮かぶものは何だろう。ビールやジャガイモ、あるいはベルリンの壁などの歴史的事物だろうか。音楽経験者ならばバッハかベートベンかもしれない。
「ドイツの町並みはどこを切り取っても絵になる」。ドイツ旅行から帰ってきた人々が口をそろえて言う言葉だ。舗装された広い道路、重厚感のある石造りの建物、所々に植えられている木々…。これだけでも十分美しい。しかし、それだけでは皆が同じ意見になることはないだろう。
ドイツ景観の最大の特徴は、絵画のような美しい景色に加えて、電線や電柱といった類のものが一つも見当たらないところにある。
「無電柱化」という言葉をご存じだろうか。文字通り、街から電柱をなくしてしまおうとするものだ。
こうすると昔からの街並みの雰囲気を保ち続けることができるので、ドイツだけでなく観光大国のフランス、イギリスなどのヨーロッパ各国でも積極的に取り入れられている。
無電柱化は景観の美しさだけを生み出すのではない。地震や津波、台風などの災害による二次、三次被害を防ぐことにもなる。
例えば電線が地中に埋まっていれば、地震や津波のせいで倒れ、垂れ下がった電線類が消防車などの緊急車両の通行の邪魔をする危険性もなくなるだろう。台風による強風で停電が起こるということもなくなるだろう。
日本食ブームや東京オリンピック開催で再び世界の注目を集めている災害大国日本。古き良き景観の美しさ、万が一の災害対策のためにもさらに積極的なインフラ整備が必要ではないだろうか。
エーラース氏の顔を見て、そんなことを思った。
(山下蛍)