中大英語学会中央大学英語学会(ESS)の活動に「ガイド」がある。東京の明治神宮、皇居東御苑、浅草、神奈川県鎌倉市などの観光拠点で外国人にアポなしで声を掛け、観光ガイドを申し出る。
皇居東御苑大手門(正門)の前に立ち、歩行中の外国人をじっと見ている。この日は中大ESS部員15人が集まり、4班に分かれて行動した。
皇居周辺はマラソン練習の聖地のような場所となり、ランナーがひっきりなしに走っていく。まさに老若男女…。パンダの被りものをして走る人もいた。
皇居東御苑 オーストラリア人をガイド
1班4人が観光客らしい外国人女性3人に声をかけた。2人は若い。1人は母親世代か。
突然目の前に現れた学生に、びっくりしている。立ち止まって話を聞き、趣旨を理解すると、回答は笑顔とともに返ってきた。
首尾よく承諾を得て、一緒に散策することになった。数分間で、世界が劇的に変わった。
ESSはここまでを「アプローチ」とする。
相手に言うべきことがある。(1)英語を話せるかどうかの確認(2)自分たちが英語を勉強している大学生であること(3)ガイドをしたい(4)目的は英語の上達と会話を楽しむこと(5)費用はかからない。
英語で言うと、
Excuse me.
Do you speak English?
We are college students learning English.
We would like to guide you around here to improve our
English skill and enjoy talking with you.
Of course its free of charge.
Can We join you?
と、こうである(ESS資料より)。
歩きながら自己紹介
鈴木奥登ESS会長(経3)が歩きながら自己紹介する。名前の「おくと」をオクトーバー(10月)に重ねて相手に印象付ける。女性3人はオーストラリア人と分かった。
いずれも皇居東御苑
管理事務所で入園票をもらい、右に「三の丸尚蔵館」を見て直進する。右前方に最初のガイドポイントとなる「同心番所」が見える。江戸城を守る警備詰所のことで、登城する大名の供の監視に当たっていた。短く言うとガードハウスだ。
歩道は曲がりくねった坂になっている。「攻めてきた馬を減速させるため」と説明する。女性3人は、なるほど、と合点がいったようだ。
左に「百人番所」、向かいに「大番所」。富士見櫓(やぐら)の下を通り、中雀門跡から「本丸広場」へ入っていくと芝生の庭園がパアーっと広がる。
皇居東御苑はガイドポイントが飛び石のようになっているため、ガイド以外の会話が求められる。フリートークの実践場でもある。
国籍を聞き、日本にはどこから来たのか、滞在目的と日数など基本的なことを尋ねていくと会話の糸口が見つかる。
「私の場合はラッキーでした。国を聞いたらオーストラリア! 都市は? えっブリスベーン。中学3年のとき、ホームステイをしていた街でした」と小宮真緒さん(法2)。会話が弾み、豪州のグルメや観光スポットなどで盛り上がると、ついつい相手は早口になる。「ネイディブなので聞き取れないところもありました。ゆっくり話してください、とお願いしたときも」と小宮さん。
「僕なんか英語を話せないドイツ人夫婦に身振り手振りでコミュニケーションをとったことがあります」(鈴木会長)。「何とか伝えようとする意欲が大事なんです。それがガイドの醍醐味です」(和田健太朗さん、経3=ガイド局チーフ)
小宮さんと同行の臼山桃香さん(商2)は新入生の時から数えて今回で6回目。「いつだってぶっつけ本番です。こちらから話しかけないと会話が弾みません」(臼山さん)「最初のころは先輩の後ろにいました」(小宮さん)。
皇居東御苑の撮影ポイントは天守台、オーストラリア人女性3人とともに笑顔をパチリ
オーストラリア人3人とともに、天守台に上がった。江戸城天守閣はその昔、高さ58mを誇り、異彩を放ったそうだが、城址は丘という感じ。周辺で林立する高層ビルのなかに、日本武道館の屋根と黄金色のシンボルが見えた。
「東京オリンピック1964年の柔道会場です。ザ・ビートルズが1966年に来日して、公演した場所です」。説明にうなずく人、無関心な人。世代によって反応が違うという。
ここで記念撮影。各人の愛用カメラやスマートフォンなどで交互に撮っていくと、さらに和やかになり、先ほどまで全く知らなかった人とは思えない。
「桃華堂」(音楽堂)、「宮内庁楽部庁舎」を左に見ながら「汐見坂」(Ocean Viewing Slope)にさしかかる。江戸時代はここから海が見えたそうだ。今昔の写真が分かりやすく、人気のスポットだ。
「都道府県の木」、「諏訪の茶屋」に続く「二の丸庭園」。小宮さんによると、「外国人の方は庭園や池の周りではゆっくり歩きます。これが日本文化と思うんでしょうね」。
日本独特のものを英語で説明するには事前の準備が必要だ。オーストラリア人と並んで歩き、来た道を戻って出口へ。ほぼ1時間のガイドが終わった。
お互いに感謝の言葉を口にして、人によってはFacebookのやりとりをしてお別れだ。
ESS部員はこの1時間のガイドを日に2~3度繰り返す。「日ごろ勉強していることが話題になると会話が盛り上がります」(土井香穂さん、文3=ガイド局サブチーフ)。「フリートークは得意です。出身地を聞いて僕が知っているところだったら、そこを話題にします。イギリス人ならハリー・ポッターは、凄い、僕も好きと話しかけます」(今水悠貴さん、法3)。
ケンタッキーからのカップル、聞きとりやすい発音でホッとした
和田チーフの経験談がユニークだ。サッカー・ワールドカップの話題をフランス人夫人に振ったところ、その返答に驚いた。
「僕は盛り上がっていいですねとあいさつ代わりに言ったのに、『テレビはサッカー一辺倒で私の見たい番組が休みになってしまう。街はうるさいし、嫌だわ、ほんとに』って」
世界は広い。
部員の体験もさまざまだ。
「英語で話しかけたらスパニッシュが返ってきた」「入口で、『ここには何度も来ている』とビジネスマンに言われて…」「カップルは邪魔されたくないのか、困ったような顔をします」
しかし、くじけず、何度でも、向かっていく。この経験が将来きっと役に立つ。
最初の一歩に気後れしても、徐々に英会話の実力がアップし、初対面の人とでも会話できるコミュニケーション能力が身につく。英語で表現するため、日本文化を再認識する。
こうしていると、いつしか積極的になっている自分に気づく。ESSガイドは、人間力向上カリキュラムといっていい。
アメリカ・ケンタッキーのカップル
2班は、米国ケンタッキーからの若いカップルとの組み合わせになった。「はっきりとした発音で聞き取りやすくて良かったです。こちらの反応も気にかけてくれて、『会話』をしようとしてくれました」と好印象を口にするのは原口ゆきなさん(法3=ガイド局渉外担当)。「難しかったのは、相手女性の職業が政治・政党に関わるものだったことで、話の深さの調節に困りました」とも。
イギリス人、後にコロンビア人
イギリス人と一緒
山本夏基さん(文3)の3班の相手はイギリス人に続いてコロンビア人、ともに一人でいたところをアタックした。「ソチ五輪を通じて、会話が弾みました」。ガイド当日は冬季五輪ソチ大会の期間中で、タイムリーな話題となった。会話のほか心も弾むことがあった。「ゼミで英国文学を学ぶ予定です。イギリスに興味をもっていたところ、実際にイギリスの方とお話をして、たくさん聞けました」とうれしそう。
コロンビア人とともに
同じ班の福田真由さん(商2)は「そのイギリス人は日本の証券会社に勤務していて、私が商学部であると話したら、それに関係するお話をしてくださった。息子さんが大学生で、イギリスの大学のことも話題になりました」と、こちらも笑顔だった。一方で、「コロンビア人は訛りがあって聞きとるのに苦労しました」「皇居について私がきちんと理解できていなくて、説明がスムーズにいきませんでした」との反省も。
(撮影者=ESS山本夏基さん、福田真由さん、臼山桃香さんら)
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