高座の古山樹里さん。
悋気の独楽のほか、宿屋の富、やかんなめといった噺が持ちネタだ
舞台は「道の駅」シーサイドスパと呼ばれるもので、都内にある大学落研数校と協力して、昨年9月から出前寄席を開いている。学生が前座を務め、プロの落語家へと流れをつくる。
中大への出演依頼は、突然メールでやってきた。
海上自衛隊出身の桂才賀師匠、大相撲出身の三遊亭歌武蔵師匠から指導を受け、今春には若手指導役の桂才紫師匠が「中大落研初の真打」を襲名するなど、その存在はよく知られていた。
学生も薫陶を受ける師匠らが出演する都内の寄席にはこぞって出掛け、勉強していた。
スパでは、落研前代表の古山(ふるやま)樹里さん(経3)と乙黒(おとぐろ)大樹さん(商1)の2人が高座に上がった。
古山さんは、伊東市の老舗旅館で年末年始にアルバイトをしていて、出演依頼は渡りに船だった。乙黒さんは「僕はあちこち出るほうなので」と、こちらもすんなり出演が決まった。
演目の「悋気(りんき)の独楽(こま)」<古山さん>、「転失気(てんしき)」<乙黒さん>は落語好きの観客を沸かせた。
平成生まれの2人が時代背景などを懸命に勉強して、落語の世界と“江戸の雰囲気”を醸し出した。
イケメンの乙黒大樹さん。
転失気のほか、ちりとてちん、天狗裁きを高座にかける
関西圏内出身の古山さんは子供のころから、テレビを通じてお笑いが好きになり、友達とのやりとりも漫才にしてしまう関西の土壌が気に入っていた。
「漫才が好きで、落研に入ったものの漫才をやろうかなと思っていました」
落研で本格的に落語と接するうちに転向した。人前で話をすることは、就職活動に役立ったそうだ。
企業などの面接者は履歴書やエントリーシートに書いた落語研究会に興味を持ち、よく話かけてきた。古山さんの落ち着いた応対ぶり、滑舌の良さに感心した。日ごろの稽古が、ここでも力を発揮した。
乙黒さんは中大杉並高から落研で活躍。全国大会で準グランプリを獲得した。
「笑点(日本テレビ)を見るくらいで、そんなに凝ってはいませんが、落語の世界が自分に合っていると思います。実はあがり症です。高座で扇子を持つ手がプルプル震えることがあります」と衝撃事実を口にした。それでも「大学に入って、知らない人のところへ行って噺をするのは、後学のためになるかと思いまして」
古山さんともども、笑う門には福来る。前途は明るいようで。
高座写真提供=中央大学落語研究会