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トップ>HAKUMON Chuo【2014年秋号】>【表紙の人】学生剣道日本一は1年生 梅ケ谷翔さん

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表紙の人

学生剣道日本一は1年生

梅ケ谷 翔選手 小よく大を制す

 剣道の大学日本一を個人戦で争う第62回全日本学生剣道選手権大会は7月6日、東京・日本武道館で行われ、中央大学法学部1年の梅ケ谷翔(うめがたに・かける)選手が、史上3人目の連覇を目指した日体大3年の村瀬諒選手を延長の末に破って初優勝した。中大勢の優勝は10年ぶり。1年生王者は14年ぶり史上3人目だった。

 個人戦で争う試合時間は5分間3本勝負。決勝は延長に入り、4分を過ぎていた。梅ケ谷選手が一瞬のスキを突いて鋭く踏み込み、渾身のメンを放った。

 審判員が持つ赤旗が3本、一斉に上がった。勝負あった瞬間。白の村瀬諒選手が肩を落とした。目指した史上3人目の連覇がついえた。栄光に輝いたのは入学3カ月の新人。176人がエントリーしたなか、関東出場枠でただ一人の1年生だ。

 168㎝、68㎏。大型化される学生剣道では小柄ながらも、終始冷静に相手との距離をはかる目の動き、足さばきがよく、スピードにあふれる。勝負を決める一撃には「小よく大を制す」剣道の醍醐味を感じさせた。

「決勝まで上がって、先輩たちも自分に全部託してくださった。ここで緊張して硬くなってはいけない。相手は格が上なのですが、気持ちだけは負けないようにしていました。思い切っていこう、胸を借りようと」

 その気持ちはベスト8入りをかけた5回戦の試合前に強くなっていた。北原修監督のアドバイスによるものだ。「心が折れたら負ける。最後は気を切らしたほうが負ける。お前の実力なら、いける」

「その言葉で、絶対に勝つと思い続けて、(試合中)きついときは監督の言葉を思い出していました」

30分集中できる

左に梅ケ谷選手

 指導者がなぜ、太鼓判を押したのか。

「彼のよさはスタミナがあること。ものすごくあります。スタミナをつける持久走、5㎞を部員全員で走ると彼がダントツです。スタミナがあるから、一瞬たりともスキを見せない。20分でも30分でも集中してスキのない剣道をします。小さいころからよく走っていたようで、大 学から南 平 寮まで毎日走って通います。アップダウンのある道ですよ。さらにスタミナを補う筋力もある。1年生ながら驚異的です」

 初戦の2回戦から決勝を含めた8試合中5戦が延長戦。激励された5回戦では30分もの延長、つばぜり合いを制した。相手に一本も許すことのない完全優勝だった。

 剣道は父の影響で始めた。才能は両親の指導で伸びていった。「母がよく見てくれました。厳しかったです」。高校の稽古が終わって帰宅すると、自宅周辺をランニングで10周した。母が自転車で追走する。ときにはハッパもかけられた。10周してから素振りを始める。ここも母がじっと見ている。父は息子が出場した大会をビデオに撮り、のちにビデオで修正点を指摘した。

「彼はまた、間合いの取り方がうまい」と北原監督。「近くに入り過ぎてもいけないし、遠くてもいけない。つねに足を使って距離感をとる。剣道は体の大きい人がつねに勝つとは限らない。相撲と同じで醍醐味の一つです。間合いが大切。中大では宮本、榎本、兵藤(メンバー表参照)がうまいが、梅ケ谷はとくにうまい」

 学生日本一の座に就いた閉会式後。観戦していた母と少しだけ握手した。「喜んでくれました。少し恩返しができたのかなと思います」と言って照れた。祝福のメールは100本を超えたという。試合終了直後は「実感がなかった」そうだが、日本一で沸く周囲の反応に「凄いことをしたのだな」と感じ入った。

高校時代に逸話

「ありがとうございました」。北原監督(右)に優勝報告をする梅ケ谷選手

 若くして彼には伝説がある。高校3年で臨んだ昨夏の玉竜旗(福岡市)。大会は勝ち抜き勝負の5人制団体戦で行われ、高校剣道日本一のチームを決める。

 福岡大大濠の大将、梅ケ谷選手は決勝で自らが負ければ敗退という崖っぷちで、相手4人を抜く離れ技を演じ、2年ぶり7度目の優勝をもぎ取った。決勝の大将戦は延長5度、約30分の長丁場。優勝までの連続勝ち抜きは11戦を数えた。

 全日本学生選手権でも他大学からマークされていた逸材だ。「大学4年間のうちに取れたらいいなと思っていました」そのタイトルを早々と掌中にした。目指すは連覇である。周囲も期待する。

「体力とスピードには自信があります。負けず嫌いでもあります」。さらに強化しようと大学の稽古のほか、スポーツセンターで筋力トレーニングなどを黙々と続ける。

「これまで負けるときは慌てたりして冷静ではいられなかった。冷静さを失わないようにしています」

 既にある十分な「技」と「体」に、「心」が備わったとき、手に携えた竹刀は金棒に見えるだろう。

息詰まる決勝、右が梅ケ谷選手

[もっと知りたい]

■緊張のTBSラジオ出演
梅ケ谷選手はTBSラジオ『東京ポット許可局』(土曜午前4時~)に録音でゲスト出演した。お笑いタレントのマキタスポーツ、プチ鹿島、サンキュータツオ3氏によるトーク番組。剣道ファンというマキタスポーツさんに質問攻めにされた。高校3年の玉竜旗優勝。大会は勝ち抜きで行われ、決勝進出までに7人勝ち抜いていた。計11人勝ち抜いてつかんだ栄冠を動画ユーチューブで見たマキタさんは「胸がときめいた」と興奮気味に話し始め、「好青年、イケメン、スーパースター」と畳みかけた。果ては大学1年での剣道学生日本一を「神じゃないか」と表現するなど称賛の嵐。梅ケ谷選手は「ラジオ出演は初めてなので相当緊張して来ました」と打ち明けた。

写真撮影&提供=布施正義氏〈クラフト・コア(株)〉