会計士ボクサーは東大在学中に公認会計士の資格を取得し、卒業後プロボクサーを兼ねる柏野晃平選手(26)がいるが、女子でこのキャリアは初めて。
ダイエットや健康管理などでボクササイズに励む女性が多い一方、ボクサーとなると競技人口は極めて少ない。そのため女子の日本チャンピオンは存在しない。
高木さんがボクシングに興味を持ったのは兄が見ていたテレビアニメ『はじめの一歩』だった。番組HPによると「いじめられっ子だった幕之内一歩がボクシングとの出会いをきっかけに本当の『強さ』について考え始める」
主人公の一歩が日本チャンピオンになるまでのストーリーに「すっかり私、はまってしまって、ボクシング、やりたいって」。中学2年生だった。その後、スーパースター、WBC世界バンタム級で10連覇した長谷川穂積選手の試合を見てボクシングに魅せられた。KOボクサーと知られた男だ。
昨年10月に大学近くのボクシングジムの門をたたき、プロを意識したことし3月、世界チャンピオンが在籍する都内のジムへ移った。
プロテストはプロボクシングの聖地、後楽園ホールで行われた。基本的なルールを問う筆記試験と実技のスパーリング(2ラウンド=1R2分)。スパーリングはヘッドギアを付けて戦う。「手数が少なかったし、落ちたかな」と満足のいく内容ではなかった。
目標は高いところに置き、達成まで努力するのが自らのやり方だ。公認会計士試験もそうやってきた。
プロを目指し、大学周辺のアップダウンのある道を毎日10㎞走った。「筋力トレーニングが好き。足や背中を疲労骨折しちゃって。やり過ぎと言われました」。このため練習を3カ月休んだ。プロテスト受験時の不安は、自らが定めた練習量に達していない、そう思っていたからだ。
ついにプロボクサーになった。次は試合だ。試合ではヘッドギアは付けない。パンチを浴びれば顔のかたちが変わるかもしれない。現在は入門したてのC級選手で試合は4ラウンドまで。ここで4勝するとB級に昇格して6ラウンド。さらに4勝してA級の8ラウンドへと続く。女子の1ラウンドは2分だ。
目指すは東洋太平洋フライ級女王。「ジムの先輩にそのチャンピオンの江畑さんがいます。仕事を持ちながら懸命に練習する。人間として尊敬しています」
江畑佳代子選手(38)は広告代理店の営業職。2013年に東洋太平洋タイトルを獲得。世界戦に3度挑戦して、いずれも跳ね返されたが、あきらめない。ひたむきに練習を重ねる。「私の目標です」と高木さん。
公認会計士に合格すると大手監査法人で実務経験を積む。彼女もその道を歩いている。「在学中はボクシングをやりなさい、と言っていただきました」。理解ある職場のためにも勝ちたい。先生、友人らはいまや応援団と化した。
高木選手は身長158㎝、サウスポーのファイターだ。写真撮影時のファイティングポーズですら、別人と思える勝負師の顔に変わる。「たかぎぃー ちあーき」リングアナウンサーの紹介。ゴングが鳴ってコーナーを飛び出していく、彼女の勇姿に拍手喝さいだ。
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■女子ボクシング
1ラウンドは2分(男子3分)、インターバル1分(男子同じ)。東洋太平洋や世界戦は10回戦(同12回戦)
階級は男子同様に17階級。最軽量はアトム級(46.26㎏以下)、最重量はヘビー級(79.38㎏超無制限)。日本女子選手の多くはアトム級からスーパーフライ級(52.16㎏)の間で戦っている。
女子プロ選手は2009年時点で79人(A級15、B級7、C級57)=日本ボクシングコミッションHPより。