中大チームの輪、中心にいるのが内田主将
2000年シドニー五輪から競泳はチームプレーと言われだした。エースの北島康介選手らが提唱したもので、レースは個人種目中心ながらもチーム一丸、スタッフを含めた総力で外国勢と戦う。その精神はリレーに強く表れる。2012年ロンドン五輪。バタフライの松田丈志選手は男子400mメドレーリレーで銀メダルを獲得した後のインタビューでこう言った。「北島さんを手ぶらで帰すわけにはいかなかった」。北島選手への思いが伝わってきた。五輪2大会連続2冠のビッグスイマーもロンドン大会では不調で、リレーが初めてのメダル獲得だった。
選手の気持ちを一つにして、激戦のインカレ水泳を制したのが中大だ。五輪や世界選手権に出場した石橋千彰、塩浦慎理両先輩が卒業し、戦力低下が危ぶまれたなかでの優勝は値千金と評された。
3日間の大会。中大は初日首位で2位日大に6点差をつけた。第2日に首位を奪われて3位に転落。首位日大に1 2 点離される大ピンチ。最終日。徐々に追い上げ、中大が6点差で逃げ切った。ロンドン五輪や世界選手権で表彰台に上がった萩野公介選手の東洋大、瀬戸大也選手の早大の最終順位は5位、6位だった。
中大のことしの強さは1年生、2年生がポイントゲッターになったこと。最終日最終種目の800mフリーリレー(4×2 0 0)でライバル中京大はB決勝へ回り、中大はA決勝に進出した。この時点で優勝は確実となったが、内田仁主将(法4)の思いは違った。
その前のレース、200m平泳ぎB決勝に金井佑馬(法3)、新谷一総(総政1)両選手がワンツーフィニッシュした、この時点で逆転。優勝奪回を確信したという。
「勝ったと思いました。もちろん800mリレーは残っていますが、後輩たちに勝たせてもらった優勝を感じました」。その後輩を強くしていったのはキャプテンほかの上級生である。
昨年10月、チームは新体制になった。部員の投票で選出された新主将は内田選手だ。「うれしいというより大丈夫かな」と不安のスタート。大目標は昨年2位に終わったインカレ優勝の奪回。主将に推されたのは部員が認める内田選手がもつキャプテンシーだ。
「レースで結果を出せないキャプテンは嫌だった。結果で引っ張る。中大の練習に間違いはない。それを後輩に伝えたかった」
熱い思いは自らを厳しくした。たぎる思いを同じ4年生に伝え、インカレで優勝するためにはどうしたらいいか。タイムをよくするためには何をしたらいいのか。高橋雄介監督、コーチ、スタッフらと話し合い、南平寮で生活する学生間ではとことん話し合った。ときには傷つきもしたが、33人の部員(女子3人を含む)は高校時代から、強い中大に入り優勝することを夢見てきた志の高い選手である。
内田主将が探した勝利への道は「心の融合」だ。水泳競技は、短距離選手と長距離選手とでは練習時間や練習内容が大きく異なる。競技に対する考え方も違ってくるという。縦割りだった従来構造をとことん話し合うことで横の構造に変えた。
「全員同じ寮にいて、全員同じプールで練習する。中大の良さがここにあります」
勝つために話し合うとチームのためにという気持ちが強くなる。他の部員が全体練習後も自主トレーニングに励んでいる姿を見ると、よし俺もやる、と練習量が増える。それは記録のために、自分の勝利のためにと泳ぐライバル校に差をつけるまでに成長した。
上級生がスカウト活動
中大は高校生をスカウトする際、上級生が面倒をみている。中大の環境を話し、中大ならではの良さをアピールする。「僕は砂間と高橋監督をつなぐ役目をしました。いろいろ説明して彼が入学を決めてくれたときはうれしかった」
高校生に夢を語った以上、責任がある。たまにはやんちゃもするが、基本は授業優先の真面目な水泳選手。スカウティングから始まる2人の小さな輪がチーム内各所にあって、心の融合により、大きな輪へとパワーアップする。こうしたことを昨年10月からコツコツと続けた。
インカレ優勝後のある日。チームはまた新しい体制となった。内田前主将はパソコンに向かい、高橋監督、コーチ、スタッフに改めてお礼と感謝のメールを送った。返信メールのなかに心に残る一文があった。
「僕、こんなに人を好きになったのは多分ないと思います。仁さんについてきてよかった。仁さんが大好きです。ありがとうございました」
スカウトし、寮では同じ部屋で過ごした砂間敬太選手(法1)だった。2段ベッドを除くと4畳ほどの共有スペースしか残らないが、やはり同室の手塚裕樹選手(総政2)とともに泣き笑った日々を思い出した。
砂間選手はインカレで個人2種目、リレー3種目に出場。表彰台に3度立った<100m背泳ぎ3位、200m背泳ぎ2位、400mリレー優勝>。実力派の1年生スイマー誕生である。1、2年生が存分に才能を発揮し、上級生が彼らには負けないとして力を振り絞る。
「スポーツは心技体と言いますが、心はやはり大事ですね。僕ら100%以上の力が出せます」
マスコミに大きく取り上げられるスターがいなくとも、「栄冠」は三本の矢を束ね、また束ねたチーム愛、中大スピリットに輝いた。
みんないい笑顔。優勝後の記念撮影(写真提供=中大水泳部)
B決勝・決勝進出者の総合順位
1500m自由形
④瀧口 陽平(法4) 15分23秒76
⑦佐藤 祐斗(法2) 15分27秒79
400m個人メドレー
女子 ⑨岩嵜有加里(総3) 4分49秒82
男子 ④堤 貴大(総4) 4分18秒70
⑦宇都宮壱基(法1) 4分20秒42
⑪手塚 祐樹(総2) 4分23秒40
100m自由形
⑦大本 鷹志(経2) 50秒69
⑧矢野 貴寛(総4) 50秒71
⑯小形 純平(法1) 51秒23
100m背泳ぎ
③砂間 敬太(法1) 54秒96
⑦岩田 哲也(総2) 55 秒78
200m平泳ぎ
⑨金井 佑馬(法3) 2分12秒53
⑩新谷 一総(総1) 2分12秒95
800mフリーリレー
⑤中大 7分24秒55
(一泳から内田主将、岡、佐藤祐、砂間)
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日本学生選手権水泳競技大会
部のマネージメントを担当した堀内綾子マネジャー
インカレ水泳の名で親しまれ、天皇杯が初めて授与された日本最古の水泳大会。実施種目は男女計13、リレー3。大学ごとのポイントで日本一を競う。
▽歴代の優勝校最近20年で中大は1994年からの11連覇を含む14度の優勝を遂げている。が、昨年までの直近10年となると、中大の優勝は4回。日大が優勝3回(3連覇)、中京大2回、法大1回。群雄割拠の時代に変わっていた。
▽中大部員 33人(女子3人)、女子マネジャーを含めたチームは総勢41人。