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トップ>HAKUMON Chuo【2013年夏号】>【グローバル人材育成】簡単そうで難しい~ロンドンで日本語教授法を習得した留学生日記~

HAKUMON Chuo一覧

グローバル人材育成

簡単そうで難しい

~ロンドンで日本語教授法を習得した留学生日記~

文&写真 学生記者 佐武祥子(法学部4年)

 普段何気なく話している日本語を外国人に教える。『ロンドンで日本語教育を学び、世界で日本語を教える』-この惹句で2月に始まった中央大学SENDプログラム(日本語教育)は、グローバル人材育成推進事業の一環。第1期に参加した学生記者が日本語を教える難しさを実感した。外国人に助詞の「は」と「が」の違いをどう説明するの? 以下は波乱の留学生日記である。

これから約1カ月、このIIELで学びます

◆中大SENDプログラム

 春と夏の休み中に2度留学する。1回目は2~3月にロンドンで日本語教育を学び、2回目の夏には世界の協定校で日本語教師アシスタントとして日本語を教え、日本文化を紹介する。対象は全学部生。問い合わせは文学部事務室。

◆SENDとは

 文科省の「グローバル人材育成」の取り組みを表す用語で、「Student Exchange-Nippon Discovery」の略。日本人学生が留学先の現地言語や文化を学ぶとともに、現地の学校などで日本語指導支援や日本文化の紹介活動を通じて、学生自身の異文化理解を促す。将来的には日本と留学先の国との懸け橋となるエキスパート人材育成を目指す。

ダイアリー/ロンドンの1カ月

2月24日(日)
 9:30成田空港集合。英国のホームステイ先に着いたのは22:00頃。20時間を超えるフライトに疲れながらもステイ先で感激した。笑顔で迎えてくれたホストファザー、寝ていたのに起きてきてくれたホストマザーと子ども2人にあいさつした。
2月25日(月)
 10:00~18:00、IIEL(英国国際教育研究所)入学式とガイダンス。初日なので近くに住む4人で登校した。私の滞在先は幸いにも徒歩約10分の好立地。ステイ先がバスで30分の友達も。
2月26日(火)
 IIEL授業開始。10:45~16:15、授業は「言語学概論」「教えるための言語分析の視点」「日本語初級指導項目」の3コマだ。
2月28日(木)
 前日同様に放課後、課外授業の「ロンドンの中の日本」を探しに出る。トラファルガー広場、ピカデリーサーカスへ。ここはロンドンの最もにぎやかな場所の一つで、大きな電光掲示板に企業広告がある。目立つのは韓国企業。日本の広告はTDKひとつ。かつてはSANYO、SONYなど家電メーカーが多かったようだ。ステイ先のノースグリニッジ駅など市街地から少し離れるとNISSAN、NEC、SONYなどの広告があるが、やっぱり目立つ所に広告を出してほしい。
ロンドンの人は本をよく読む
3月1日(金)

マカロンの大きさにびっくり

 午前2コマの授業後、IIELによる地域交流のクラシックコンサートへ。私も中学の部活でハープを弾いており、思いがけずハープに再会できてうれしくなった。その後、セントポール大聖堂へ。中学の美術の資料集で見た憧れの場所の一つ。修復中ですべては見られなかったが、ここでしか味わえない空気感を満喫。帰りにマカロンを買った。直径5cmもある。大きさに苦戦しながら友人と2人かがりで食べた。
 ロンドンの人は地下鉄車内でよく本を読んでいる。ビジネスマンはもっぱら新聞だが、少しラフな格好の人はスマートフォンか読書。私のホストファミリーも毎晩、本の読み聞かせをして子どもを寝かせている。
3月4日(月)
 授業後に自習。帰路のスーパーに母の日のギフト、キャンドルなどが並ぶ。当地では3月10日が母の日。日本の母へ送るカードを買った。
3月5日(火)
 学校から帰ると、ホストファミリーと夕食を早くにすませた。今夜はフットボールの試合がある。マンチェスターユナイテッドとレアル・マドリードが激突する欧州チャンピオンズリーグ2回戦。テレビのある部屋に移動する。いつもは穏やかなファザーが真剣に応援している。イギリス人のサッカー愛を感じた。
3月7日(木)
 午前中授業の後、小学校で日本文化を紹介した。私たちの発表のあとは折り紙やお箸の体験学習。子どもたちには難しそうだったが、実際に触れてもらえたので良かった。
東日本大震災慰霊祭
3月9日(土)
 近くのシャーロックホームズ博物館へ。その後、高級住宅街メイフェアまで歩いてみた。きれいな家、ブランドショップを横目に私たちは日本食レストランでランチ。2週間ぶりに食べた日本食(すき焼き丼にギョーザとサラダ)は美味しかった。
3月10日(日)
 午後から教会へ。「3・11」東日本大震災のメモリアルだ。聖書を聴き、聖歌を合唱。日本からの感謝メッセージが紹介された。緑茶や日本酒の試飲、被災地でつくられた編み物の販売も。ロンドン在住の日本人が多かった。彼らは被災地のことを忘れていない。私も被災地へ思いをはせた。
わかってくれた
3月14日(木)

これは、サンドイッチ!

「学校行きの電車に乗ろう!」

 9:00~21:00まで、明日の授業準備をする。今回は「(場所)に(人)がいます/いました」という単元。日本語では存在を示すのも、物はあります、人はいますとわかれているのだ。
3月17日(日)
 雨。家でごろごろしているとホストファミリーがサイクリングに行くという。雨も一瞬止んでいた。私も行くと言って5人で出かけた。夜は子どもたちとwiiダンスで一緒に踊った。ホスト宅のテレビとスマートフォンは韓国製だが、カメラは富士フイルム、wiiは任天堂。
3月18日(月)
 明日は個人実習。40分で所在文「(人)は(場所)にいます」「~さんはどこにいますか」を教える。教え方でまた悩む。きょうも学校に9:00~21:00までいた。
3月22日(金)
 IIELの卒業式。あっという間に4週間が過ぎた。マダムタッソー館(ろう人形)を見て帰ると、ステイ先の廊下に「SAYONARA YOSHIKO」の飾り付けがあった。21:00を過ぎていたので子どもたちは2階で寝ている。明日お礼を言おう。
3月24日(日)
 6:30ホテル出発。9:25発の飛行機に搭乗する。SENDプログラムの4週間が終わった。私はまだロンドンにいたい…。

マダムタッソー館のビートルズと

授業の主役は生徒

 ロンドンで学んだ日本語教育、イギリスで感じたことを記す前に、このプログラムに参加した経緯から始めます。

 2年生の夏休みでした、大学の「やる気応援奨学金」をいただき、マルタ共和国へ英語の短期留学をしました。ホームステイ先から語学学校に通う毎日。マルタは地中海の島国です。学校にはヨーロッパからの学生が多くいました。ホストファミリーと話すとき、学校の友達と話すときも、文化習慣の違いを目の当たりにしながら、自分が日本について上手く説明できないもどかしさを感じていました。

 それからです、英語力を伸ばしたい、日本についてもっと知りたい、と思うようになったのは。そんなとき、SENDプログラムを知りました。在籍する法学部の授業には日本語教育がなく、特色のあるこの留学なら英語と日本文化の知識が身につくだろう。書類・面接選考で参加者が決まり、オリエンテーション、課題レポートをいくつか提出した後、ロンドンへ。

 現地では英国国際教育研究所(IIEL)に通い、日本語の特徴、教え方についての授業を受け、後半2週間は日本語の授業をしました。授業は日本語で行います。生徒にはできるだけ多く、日本語を話してもらい、身につけてもらうよう心がけました。

 私たちが自然に身につけたことが、日本語を「外国語」とする生徒には難しいのです。日本語教育を通じて、授業とは常に学習者が中心だと再認識しました。

 学習者のニーズに合っていて、身についたものがないと授業の意味がありません。日本語を学ぶことで、新しい何かを感じて生きがいになるのなら素晴らしいことです。

 私たちは日本文化を伝えるとき、説明するのに躍起となっていないでしょうか。日本文化を学んだ人が日本で生活しなくても、新しい日本的な価値、ものの見方をもってより豊かに自国で暮らしていけば良いと思います。

ファンタスティック

 ロンドンの人は優しくて道を聞けば親切に教えてくれます。支払いの際、小銭を含めてお釣りのないようにすると「fantastic!」と大喜びする。

 空はロンドン特有の曇りなのに、人々は晴れ晴れとしている。自分の進むべき道をしっかりと進んでいるように見えました。

 ステイ先はイギリス人とスリランカ人の夫婦と2人の息子。ロンドンは多様な人種の集まりです。イギリス人、トルコ系、アフリカ系、アジア系…そしてその混血。どの人種でも実力があれば活躍できる、それがロンドンという街だと思いました。この夏には中国・上海理工大学へ行きます。日本語教師のアシスタントとしてイギリスの経験を生かしたいと思います。(佐武 祥子)