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米独では議論されない公務員給与削減
中央大学大学院公共政策研究科・人事院主催
アメリカで、ドイツで、日本で、少子高齢化、財政難、景気悪化が共通の課題として挙がっている。対策の一つとして、公務員のあり方そのものに見直し論が集中した。公務員給与削減問題に注目しつつ、公務員人事に関して、公務員の身分保障、労働者としての権利、労働組合のあり方、公務員給与決定に至る議会の関与など幅広い分野について、シンポジウムでは活発な議論と丁寧な説明が行われた。
日本の公務員給与削減は、震災対応として一時的な措置であり、世論の公務員批判を受けて政治主導で行われている。
給与削減は世界的に見て珍しい事例だ。米国、ドイツではほとんど議論されていない。
米国連邦職員の給与改定には、議会による法案可決、大統領署名が必要だ。しかし、どんな危機的状況においても、給与の改定率の引き下げまでしか行うことができない。給与削減が行われる場合は、一定の法的なプロセスを経る必要があると主張するのはティモシ・カリー米国人事管理庁労使関係・パートナーシップ担当副長官補。
米国公務員給与は法定主義であるため、もし法律に関わらず、政府が公務員給与削減を決めた場合、違法行為による給与改定として、ほぼ確実に労働組合が政府相手に訴訟を行う。そして、政府側が敗訴する見込みがあるとされている。
米国では給与削減がない代わりに、給与凍結という手段が存在する。これは、公務員給与の昇給を制限する(改定率を0%にする)政策である。不景気と失業率の高まりへの対応として、最近2年間実施されている。公務員給与の昇給に関する法的根拠がないため、給与凍結は合法的措置とされており、訴訟も行われない。
ドイツでは、公務員が公務被用者と官吏に分かれており、給与決定過程も異なる。
公務被用者は賃金制度にかかわる法律の定めはなく、民間の給与決定と同じく労働協約で定められる。また、労働基本権は三権とも保障されており、労働条件が団体交渉によって決まる。
官吏は議会で法律によって給与が決められており、俸給などの改正にも法改正(議会の議決)が必要となる。国家に対する忠誠義務を背負っているため、労使交渉することはできない。その代わり公務員に対して強固な身分保障が認められている。
日本の政治の場ではほとんど議論されていないが、ドイツの事例のように、本来、公務員の身分保障と労働基本権は密接に結びついている。そのため、公務員に対する保護を緩和するのであれば、公務員の労働基本権を復活させるべきという主張が、とくに人事院で主流となっている。
ドイツの公務員の待遇に対しては、賛否両論分かれているものの、給与削減については議論されていない。ダニエル・クリスティアンス・ドイツ連邦内務省給与担当課長は、給与の性格は、公務員の職務専念義務に基づく勤務全体への反対給付であり、また、将来世代の獲得に影響すると主張する。
むしろ、年金、保険といった老齢報酬に対する問題の方が大きく、優先的に取り組むべきとされている。
理由は異なるものの米国、ドイツでは給与削減に肯定的な議論が進んでいないことがわかる。
公務員給与削減の動きは日本の場合、公務員批判から始まっている。米国、ドイツでは世論の公務員に対する見方が日本とは異なる。
米国では、連邦公務員に対して給与が高すぎるとの声もある。しかし給与削減に関する議論の高まりはなく、現在行われている給与凍結の引き伸ばしをするかどうかという点で議論されているにすぎない。
また、米国では公務員の表彰習慣があり、メディアを通して素晴らしい業績を上げた公務員が表彰される。政府が公務員を政府従業員として褒める場面であり、公務員の活動を国民が知る機会として、効果が出ているという。
ドイツでは、公務員に対する見方が常に肯定、否定両方に揺れ動いている。給与に関しては、前述のように削減の話はなく、それ以上に少子高齢化による老齢報酬がより大きな問題であると考えられている。ユーロ危機に関連して、公務部門の機能が問われることもあるが、米国と同じように、メディアを通して公務員の功績を公表すると、その風当りは弱まるという。
以上のように、米国、ドイツにおいては日本のような激しい公務員批判が行われることはない。批判があったとしても、公務員給与の削減まで議論が進まないのが現状である。カリー氏、クリスティアンス氏はともに公務の魅力という点に言及しており、「少子高齢化が進む現在、公務の場では若い人材、アイデアを必要としている。公務員の給与削減は将来世代に影響し、公務の魅力を下げる行為であることを認識した上で、慎重に行わなければならない」と主張している。
(このシンポジウムは中央大学大学院公共政策研究科・人事院主催意見交換会「アメリカ・ドイツにおける公務員給与決定過程について」と題して、昨年10月3日に中大市ヶ谷田町キャンパスで行われた)
公共政策系大学院の多くが学部組織から独立した専門職大学院の設置形態をとっているのに対し、中大では従来型の大学院研究科の一つとして存在感を示している。
従来型研究科が単一学部を基礎として設置されたのに対して、公共政策研究科には、法学部や総合政策学部から理工学部まで分野を超えた学問の融合がみられる。在籍学生も各学部からとさまざまで社会人学生も多数。
特色ある授業の一つに「政策ワークショップ」があげられる。修士課程1年次に学生が設定したテーマでグループ編成をして、フィールドリサーチやヒヤリングなどの調査を行い、報告書にまとめる。
各グループは独自の「政策提案」を行い、最終報告会では「政策コンペ」を実施。最も評価が高かったグループには『最優秀賞』が授与される。この取り組みがのちの修士論文やリサーチペーパーに生かされていく。
学生記者 梶原麗奈(中央大学大学院公共政策研究科修士課程修了)
協 力 三宅翔平さん(中央大学大学院公共政策研究科修士課程修了)