トップ>HAKUMON Chuo【2013年早春号】>【ニュース&中大ニュース】中央大学シンポジウム 「日中関係の新局面と対中国ビジネスの今後」
中央大学シンポジウム
実際に中国でビジネス展開している企業の方々を迎えて行われたパネルディスカッション。 短い時間ながら、それぞれの立場から活発な意見が交わされた。
パネラー(敬称略)
茅田 泰三(前コマツ専務執行役員、中央大学客員教授)
嶋原 信治(日中投資促進機構事務局長、元トヨタ自動車中国事務所総代表)
渡邉 兼久(株式会社オリーブ・デ・オリーブ 副社長執行役員)
太田 正人(株式会社資生堂 中国事業部事業推進部 部長)
陳 建安(復旦大学経済学院教授)
モデレーター
服部 健治(中央大学ビジネススクール教授)
服部:まずは、昨年9月に起こった反日デモの影響について教えてください。
渡邉:オリーブ・デ・オリーブはアパレルメーカーです。平和堂3店舗で衣料が強奪されたほか、全店で売り上げが一気に60%代に下がりました。
太田:資生堂は中国において「オプレ」など中国専用ブランドを展開していますが、日本企業であるとの認知度は相当高く、かなり影響を受けました。「オプレ」の一部店舗が壊されたほか、年末恒例のプロモーションもまったくできませんでした。スーパーでは売り場の縮小を求められました。
嶋原:自動車メーカーに関しても、すべて中国との合弁企業であるにもかかわらず、日本企業との認識が高いようです。反日デモが始まった9月に西安でトヨタ・カローラに乗っていた運転手が半身不随にされてしまった事件がありましたが、そのせいで日本車に乗ると危ないというイメージがついてしまい、日本車の買い控えが起こりました。
茅田:私たちは生産財でBtoBの企業のため、さほど影響はありませんでした。工場が外資を誘致する工業開発区にあり、地方政府との関係を強くしてきたこともよかったと思います。
陳:今回の反日デモは、20代~30代の若い層が中心になっています。富が一部の人に集中し、下層の人たちが貧しい生活を送るなかで心理的にとても脆弱になっていることが背景にあると思います。
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服部:では、今後のビジネス展開について教えてください。
渡邉:規制が多く、ストレートに情報が伝わらないため、WEB販売からは撤退予定です。その代わりさまざまなブランドと組んで、もう少し若い世代に向けたカジュアルブランドのイメージアップと販路を伸ばしていきたいと考えています。
太田:私どもも被害は受けましたが、基本的なスタンスは変えません。今後も拡大する最重要市場として、資生堂ブランドを販売していきます。
嶋原:確かに中国は世界一の市場ですから、これを無視するわけにはいきません。今後も現地ニーズにあった開発を行い、地元に根づいていくことが必要です。とくに自動車メーカーはすべて中国との合弁企業ですから、これをしっかりとアピールし、中国企業との一体感を作っていくことが大切です。
茅田:建機においても、台数でいうと中国は世界最大の市場です。これからも粛々と愚直に正々堂々とビジネスをやっていきたいと思います。中国社会の発展・安定のためには都市化が必要ですが、我々のビジネスも都市化に直結しています。これはビジネスチャンスだと思います。
陳:どの業態であっても中国市場の変化を再確認し、中国での一貫生産体制の導入や、内外競争に勝つための技術移転など、グローバルな組織を再構築することが今後のカギになるでしょう。
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服部:「チャイナ・リスク」については、どうお考えですか?
太田:やはり事前に対処法を考えておくことが必要です。事業継続のためのマニュアルについては、すでに各社で整えています。
渡邉:当社は直接的な被害を受けたので、まずは事業を安定化させることが優先です。今回の件を踏まえたうえで、今後は卸ビジネスなどの分野にも進出できればと思います。
嶋原:反日問題は織り込み済みでとらえていくことです。現地で従業員と付き合ううえでも歴史認識はきちんとした形で勉強しておくことが必要です。
茅田:リスク管理については中国の各事業所で共有することを目的に会議を開いています。コンプライアンスがどれだけ中国で実施されるかをかなり真剣に考えています。
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服部:40年前と今とでは日中関係は大きく変わっています。現在の中国は党を守るために民族があるような状況になってきており、日本に対する温情はありません。日本国民も中国に対する温情が薄くなってきています。だからこそ、日中関係の重要性といった理念とこれまで培ってきた個人的温情を結びつけることが重要です。これが日中関係の好転への一つの突破口になると思っています。経営戦略はシビアなものですから、実態を総括して法則性を見つけていく作業が問われています。
会場となった中央大学後楽園キャンパス