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トップ>HAKUMON Chuo【2013年早春号】>【ニュース&中大ニュース】中央大学シンポジウム 「日中関係の新局面と対中国ビジネスの今後」

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ニュース&中大ニュース

中央大学シンポジウム

「日中関係の新局面と対中国ビジネスの今後」

2013年1月27日(日)、中央大学後楽園キャンパスで、本学ビジネススクール主催のシンポジウム「日中関係の新局面と対中国ビジネスの今後」が開催された。当日は第1部基調講演、第2部パネルディスカッションの2部構成で進められ、日中関係の新局面を見据えて、日本企業の対中ビジネスのあり方を探った。

【第1部】基調講演

中央大学法学部教授
中央大学日中関係発展研究センター長
李 廷江先生

復旦大学経済学院教授
陳 建安先生

中央大学ビジネススクール教授
服部 健治先生

日中間の対立の打開に向けて

 はじめに登壇したのは、中央大学法学部教授の李廷江先生。「日中関係の課題と行方―中日関係史の視点からの検証と提言―」と題し、中国の現状と今後の打開策について語った。

 本来であれば2012年は日中国交正常化40周年を記念して、日本および中国各地で大々的にイベントが実施される予定だった。しかし、日中間における領土問題をめぐる対立で、そのほとんどが中止になっている。これについて李先生は、「大変残念なことだが、こうした日中間の衝突は今に始まったものではない」と語る。日中間には、これまでにもさまざまな歴史的局面があり、その都度、政治家や国民の知恵によって解決してきた。これを誇りに思い、その成果を忘れるべきではないという。

 とはいえ、40年前と現在とでは状況が大きく異なっている。その要因として、李先生は次の3つを指摘する。ひとつは、常に歴史認識問題を政治的な問題に転化すること。もう一つは、過去の問題を現代の問題に直結して議論すること。さらに、単なる個別の問題を本質的な問題に転化する傾向があること。これらには「十分に警戒しなければならない」と警笛を鳴らす。

 では、こうした状況を今後どう打開すべきなのか。これについては、「衝突の事実を受け止め、解決への努力をすることが大切。その際、マスコミの責任のない報道姿勢には注意しなければならない」と語る。そして、日中トップ会談を実現し、日中の原点と日中関係の理念を再確認することが必要だという。これからは新しい時代の日中平等、日中連帯が求められる。アジアと国際社会における大きな協力を果たすという意味での日中協力こそ大切であると李先生は結んだ。

習近平新体制による経済改革の必要性

 続いて、復旦大学経済学院教授の陳建安先生が「中国新指導部の経済政策と中日経済関係」をテーマに、昨年11月に発足した習近平新体制が取り組むべき経済課題について解説した。

 現在の中国は、経済成長率や国民所得が高く、2012年のトータルのGDPも世界2位となっているが、産業において、とくに生産性が下がっていることが指摘されている。

 これについて、陳先生は9つの要因を挙げ、説明する。1つめは、都市内部あるいは階層間の所得格差の問題。2つめは資源の制約(中国は数年前から石炭の輸出国から純輸入国になっている)。3つめは環境の制約(現在、中国では大気汚染が大きな問題となっており、早急な対策の必要性がある)。4つめは国有企業の赤字問題(中国政府は国有企業の赤字経営の穴を埋めるため多大な資金を投入し、これが民間企業を圧迫している)。5つめは生産能力過剰の問題(とくに鉄鋼、セメント、自動車業は、生産設備だけでなく、インフラ投資も過剰になっている)。6つめは、資金の過剰と効率的な国内投資の不足。7つめは対外不均衡の拡大(対欧米の貿易黒字によって貿易摩擦が激化し、外貨準備高も急増している)。8つめは、外資企業による中国市場への進出(近年、外資系企業は中国企業のM&Aを重視しており、このままでいくと外資系企業による中国市場の寡占的地位を招く)。9つめは、中国にとって不利な対外貿易に交易条件である。

 以上の問題を解決するために、陳先生は、「習近平新体制における経済改革が最重要課題である」と指摘する。具体的な施策としては「量的な拡大による成長ではなくイノベーションによる経済成長、そして過剰生産能力の縮小などを目指すべき」と強調した。

日中関係好転のキーワードは「現地化」

 基調講演の最後を締めくくったのは、中央大学ビジネススクール教授の服部健治先生。「日中経済関係の新局面と日本企業の対応」をテーマに、経営戦略的な観点から今後の日中関係の方向性を語った。

 服部先生によると、この40年間で日中関係はかなり発展したという。それは、単に地理的に近いということだけでなく、中国政府の開放政策に伴い、日本政府のODAや地方自治体、企業、経済団体などが中国との信頼関係を構築していったことによるものである。

 ところが、昨年9月に起こった反日デモにより、日中経済は現在ストップ状態にある。しかしこのような状況であっても、「絶対に日本企業は中国から撤退をしてはいけない」と服部先生は力説する。日本のビジネスマンの真剣さや本気度を、中国の幹部、従業員はしっかりと見ている。だからこそ今、中国に残って頑張ることが求められている。

 では今後、こうした局面において日本企業はどのような企業戦略を持つべきなのか。そのキーワードとして、服部先生は「現地化」を挙げる。つまり、本社の持つ権限をいかに現地に移譲し、現地法人の権限を強化するかということだ。そして、膨大な消費者をかかえる中国市場の分析も必須だという。

 もちろん、反日抗議運動や超法規的な立ち退きなどの「チャイナ・リスク」は常に考えなければならない。これに対しては「自社において、さまざまなリスク問題を予見できるか否か、また起こった場合に、自分たちで解決できるかどうか。これを動態的にみていくことが必要」と服部先生はアドバイスする。中国共産党政権と企業における人と人との関係はまったく別物と考え、これまで培ってきた信頼関係を大切にしていくことが必要である。