トップ>HAKUMON Chuo【2013年早春号】>【表紙の人】書は心なり ~卒業生に贈る漢字一文字『耀』~
書は心なり
心を鎮め、筆を持って、書く。全国の大学書道家を代表した中大の鈴木智香子さんが、中大卒業生に贈る漢字一文字を揮毫してくれた。『耀』―かがやくと読むほか、かがやかせるとの意味がある(角川新字源)。自らがキラキラとして、周囲も明るくする。人の道の教えのような文字である。
湯島聖堂で『乱』を大書
集中力を高めて一気に
年末の京都・清水寺で一年の世相を表した漢字一文字の発表がある。1995年から始まった。昨年は金環日食やロンドン五輪金メダルの『金』だった。
大学レベルでも実施していて、全国の学生が選ぶその年の漢字一文字、昨年は『乱』。衆議院解散や政党乱立、中国反日デモなどで続いた乱闘騒ぎ…からの発想か。
12月12日、近代学問の発祥地、東京・湯島聖堂大成堂で『乱』というその文字を大書したのが全国学生代表の鈴木さんだ。書道八段、師範段位の腕前である。今回は小誌が特別にお願いして、卒業生のための漢字一文字が実現した。
『耀』の文字が出来上がるまでには、正装のはかまに身をまとい、一枚書いて、また一枚。納得できるまで筆を持つ。今回は200枚以上書いたという。BGMはなく、テレビ・ラジオも消している。集中力を高めて書くさまは道を究める精神真髄。『書道』と呼ぶにふさわしい空間だ。
「今度はうまく、今度こそ上手に、と。音楽やスポーツに似ていると思います」
書道には手順があり、手本を見ながら字を書く。次に手本の形・筆法にとらわれず、意をくみとって書く。最後は手本を伏せて、手本と同じように書く。これを「臨書」と呼ぶ。
「字の意味を知って、自分と向き合います。書は心を写すもの、精神鍛錬だと思っています。書を見れば性格が分かるといいます。えっあの人がこの字を書いたの? そんな驚きもあるんです」
人をもかがやかせる笑顔で
「字が書けないころから鉛筆を持ってはいろいろと書いていました」
親に勧められ、小学1年で習字を始め、硬筆も勉強し、高校1年まで書道に励んだ。書道が習字と違うところは、「習字は教科書通りの整った字で、書道はそこに個性を出します」と鈴木さん。
「おとなしそうに見えますが…」肩をすくめて話したのは中学・高校時代の部活動だ。吹奏楽部でトランペットを吹いていた。ジャズ奏者のなかでは洋の東西を問わずに花形で、ステージ中央でスポットライトを一身に浴びる。日野皓正、ニニ・ロッソ、マイルス・ディヴィス、ルイ・アームストロング…と続く。マイルス・ディヴィスが書道に向き合っている姿は想像しにくいが…。
大学では独自のビジネスプランを発表するコンテスト「野島記念」に参画。途上国支援のボランティア活動ではカンボジアやベトナムの小学校、病院などを訪問。国内でも児童相談所を慰問して子どもと遊んだ。2年生では「ミス中央」に選ばれた。
「自分を鍛えられることが好きですね。いろいろな人と接するのも好きです」
お世話になった人へ筆で礼状を書く。電子メールや携帯電話・スマートフォン・iPad(アイパッド)などの時代に、墨をすり、筆をとって気持ちを込める。もらった人はたまらなくうれしいはずだ。こうして人脈も広がっていく。
「書は自分との闘い、書に終わりはありません。なかなか成長できないもどかしさはありますが、これからも続けていこうと思います」
卒業後は慶大法科大学院へ進み、司法試験合格を目指す。厳しい世界だが、硬軟取り混ぜた鈴木さんなら、自ら『耀』き、周囲もきっと『耀』かせることだろう。
墨の色は黒以外にも
墨の色は黒だけと思われがちだが、赤、青、緑、紫、金、銀と豊富な色がある。黒系色にも数種類あって黒、茶、青、茶色系黒、青色系黒…。発色が異なる。
紅茶やお茶で墨を薄める
墨が濃いとき、意図的に薄めて書くときに墨に紅茶やお茶を入れる書道家もいるという。時にはスポーツ飲料も。紅茶を混ぜると墨の香りとマッチングしていいようだ。
中央大学書道會の年間活動
4月 「新歓書展」(校内展)
5月 産経国際書展出品者(希望者)作品制作、新入生歓迎会
6月 「全日本高校・大学書道展」作品制作
8月 「せせらぎ書展」(学外展)作品制作
9月 夏合宿、「せせらぎ書展」(学外展)
10月 「中大書展」作品制作、ホームカミングデー書道パフォーマンスの準備、練習
11月 「白門祭」(中大書展・書道パフォーマンス)
12月 「白門書展」(学外展)作品制作
2月 冬合宿、「白門書展」(学外展)作品制作
3月 「白門書展」(学外展)・卒業生を送る会
※3月にはインド・デリー市で書道文化を伝えるため地元の小学校で書道教室を開いた。
このほかにも多摩センター三越での書道パフォーマンスや大学生が選ぶ漢字一文字の書き手を書道會員が務めている。会員数55人