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トップ>HAKUMON Chuo【2013年早春号】>【学生発案のビジネスコンテスト全国大会】「起業家甲子園」に出場した中央大学法学部・山口大介さん ~人が喜んでこそビジネスだ~

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学生発案のビジネスコンテスト全国大会

「起業家甲子園」に出場した中央大学法学部・山口大介さん

~人が喜んでこそビジネスだ~

辛かったテストもようやく終わり、華々しいキャンパスバケーションを想像していた2月1日。浮かれまくる自分とは対照的に、自分の将来のために考え、行動する、ある一人の学生を取材した。中大法学部国際関係法学科3年・山口大介さん(静岡県出身)だ。彼が代表を務めるチーム=チーム名『今年の冬こそストイックに生きるってきめたから』=は昨年12月に中大で開催されたビジネス・プラン・コンテスト「野島記念ビジネスアワード2012」(中大主催、ノジマ後援)で優勝し、3月7日の全国大会「起業家甲子園」(東京・赤坂)へ進出。全国の9チームが最高レベルのビジネスプランを競ったなか、中大は「ゼロ額食」で勝負した。)

「ゼロ額食」誕生秘話

パフォーマンスを見せる、左から長松さん、山口さん、満見さん

 「学食をタダで食べられることが、学生にとって価値がある」と山口さんは熱く語る。食券の裏のQRコードにアクセスし、企業広告が表示された後に抽選が行われ、無料食券かクーポン券が発行されるというサービスが、この「ゼロ額食」だ。

 20人に1人が無料食券を得られ、はずれは一切ないという“常時金欠”の学生には何ともありがたい。

 「将来は映画やドラマを作りたい。アメリカへ行って勉強したい。それにはビジネス的な知識も必要と考えて、法学部で唯一あるビジネス・プランニング・ゼミに入りました。アメリカへ行くと決めていたので、正直言うと就活もしていなくて、それほど忙しくないから安易に出ちゃおうかと思ったのがきっかけです。野島記念は所属するゼミの集大成でもありますが」

 山口さんから思わぬ答えが返ってきた。将来は起業してバリバリ働くのかと思われたが、起業は考えていないという。

 起業家甲子園に出場する決定打となったのは、野島記念で決勝審査委員を務めた伊藤健吾さんの言葉だったと当初を思い出しながら語る。「ビジネスの勉強も大事ですよ。寄り道してもいいじゃないですか」。こうして米国への編入を半年遅らせ、全国大会への出場を決めた。

 伊藤さんはベンチャーを育成・支援し雇用創出を考える会社MOVIDAJAPANの事業部長。同社CEOは孫泰蔵氏、ソフトバンク孫正義社長の弟だ。

 野島記念の準備を始めたのは2012年8月ごろ。「確かに社会人は知識、スキル、経験の面で、学生とは比べものにならない。でも彼らはきっと学生のときの経験を忘れている。自分たちは学生が求めるものは何かということを考えたかった」

 学生の生活に根付いた“何か”をサービスとして提供する。土台づくりは決まったが、いいアイデアに巡り合えず半ばあきらめムードが漂ったころだ。

 ビジネスとして回していくにはどうしたらいいか。原点に帰り考え直した。「人を喜ばせることができて、初めてビジネスだ」。人を喜ばせる。学生を喜ばせるにはどうしたらいいか。考えていたとき、中大生ならではの経験が大きなヒントになった。学食で毎日経験する長い待ち時間。食券購入後、カウンターで頼むまでのイライラを解消できたなら、ビジネスとして成り立つと考えた。

 並んだ行列の後ろで、価値がある広告を見てもらう。広告の内容そのものを考えるのではなく、広告を見てもらえるように価値を生み出せば、問題は解決する。

 「学食をタダで食べられれば、少なからず学生が広告を見るのではないか」

 ここにゼロ額食の原型が生まれた。学生生活の経験から生まれた突飛なアイデアだ。収益を得られるぎりぎりラインを20人と判断し、何度も修正を繰り返しながらやっとの思いで野島記念に間に合わせた。

 チーム内では凄まじい意見の衝突があったようで、「(大会)前日にはある一人のチームメートを泣かせてしまった。うまい具合にもう一人が仲裁してくれて、なんとかなったけど」

 プランを出来るだけいいものにしたい。チームの思いの強さが伺える。こうして長いチーム名の「今年の冬こそストイックに生きるってきめたから」は、野島記念で優勝した。

営業努力1週間通った飲食店

優勝賞金を手にする野島記念メンバー。左から長松さん、山口さん、満見さん

 山口さんは優勝後、ゼロ額食を試験的に運用した。当初食券の裏にQRコードを載せる案や、当たり発券機を設ける案は実現できなかったが、何とか広告のサイトとQRコードを自分たちの手で作り上げた。

 大学近辺の飲食店に客を多く呼び込み、地域を活性化させたいという思いもあった。広告営業のため店へ行く。話には耳を傾けてくれるが、お金の話になると「うーん、ちょっと難しいかな…」と断られた。あきらめず1週間毎日その店へ。食事をし、頼みこみ、最終的には「仕方ないな」と了承してくれた。

 しかし不満が残った。「この状況は相手が喜んでいない。仕方なく折れてくれている」。

 「人を喜ばせることで初めてビジネスとして成立する」。大目標とは違う現実に自分でも反発があったが、時間に追われていたため見切り発車した。

 20人に1人では厳しいと判断し、40人に1人、当たり券が出るようにした。600人にリーチすると約80のアクセスがあり、その後もリーチする数を増やしたがアクセス数が増えることはなかった。それは実質的なアクセス数の減少を意味していた。

 「結局、自分のやっていることはダメだった。全国大会に出るのは恥ずかしい。飛ぼうかな」 

 落ち込んでいるときに一冊の本に出会う。25歳にして東証上場を果たしたリブセンス社長・村上太一さんの著書である。本の中で村上さんは悩みを打ち明けている。その悩みこそ山口さんが追い込まれていた事案だった。

 この本が参考となり、学食で当たり券を渡すのではなく、広告を載せた店に当たり券を置いてもらい、学生が実際にその店に当たり券を取りに行くというシステムに変更した。こうすれば店側も当たり券1枚400円分を支払う代わりに、当たり券を取りに来た学生がその店で食事をすることになり、より大きな収益を出すことができる。

 翌日、趣旨を店で説明すると「いいねえ」との快諾を得た。新しいシステムが出来上がると、40人に1人にする必要はないと考え、5人に1人の割合にし、他は全てクーポン券にした。実施すると300人というリーチ人数は減ったのにも関わらず、アクセス数は3倍の約120人に跳ね上がった。

 無料食券に当選した学生やクーポン券が当たった学生は店へ行く。最終的に店側が「やってよかった」と喜んでくれた。

 広告を見る学生、広告を出す店。どちらも幸せになるシステムの構築に成功した。「よし、これでいこう」と新案がうまく機能したことで全国大会への決意を新たにした。

全国大会で特別賞受賞

■決勝大会(3月7日、主催=独立行政法人情報通信研究機構、後援=総務省ほか、会場=東京・赤坂の(株)サイバーエージェント・ベンチャーズ)

 全国から選ばれた9チームが1チーム7分の発表、その後5分の質疑応答による計12分でプレゼンテーションを行った。中大は6番目に登場した。ビジネススーツにブルーのネクタイをきりりと締めた山口さんは、やや緊張しながらもマイクを握ると、それがスタート合図のように一気に話し始めた。内容はこれまで練ってきた『ゼロ額食』だ。

 コメントとパワーポイントのリズムが合い、メリハリの効いたプレゼンに審査委員席からは「なるほど」「そうなんだ」と感心する声が上がる。終了後の質疑応答では「いけてる、面白い」と高い評価だった。発言者はIT業界でも有名な本間真彦インキュベイト・ファンド代表パートナーだ。「すごく面白いアイデアですね」とは佐藤光紀セブテーニ・ホールディングス社長。この人も業界のリーダーである。

 表彰式で中大チームは特別協賛企業13社による「特別賞」を2つのIT企業から授与された。プレゼンテーターは前述の本間氏で、「ビジネスプランのテストを重ねるなど細かなところまで気を配っている。学生のうちからそれができるなんて素晴らしい」と絶賛した。もう1社は無人島グループワークのインターンシップで人気のVOYAGEグループ。

 全国大会に参加したのは発表順に関西学院大、同志社大、会津大学大学院、デジタルハリウッド大学(若手起業家)、電気通信大学大学院、横浜国立大学、米子工業高専、沖縄工業高専。最優秀賞は電気通信大学大学院だった。

野島記念
中大OBの野島廣司氏(株式会社ノジマ代表執行役員社長)の寄付金によって運営されている。中大生のためのビジネスコンテスト。昨年は48チーム・総勢約150人が参加した。決勝進出は2次予選を勝ち上がった6チーム。決勝は昨年12月9日に中大多摩キャンパス・Cスクエアで行われ、聴衆約100人が聞き入った。決勝審査委員は、伊藤健吾氏(MOVIDAJAPAN株式会社chief seed accelerator)、勝屋久氏(勝屋久事務所代表 プロフェッショナルコネクター)ほか。


起業家甲子園
全国の“起業家の卵”を発掘・育成する全国規模のビジネスコンテスト。ICT分野における人材の育成、新規事業の創出などに寄与することを目的にしている。参加対象は大学院生、大学生、高校生、高専学生、企業所属の若手社会人など。


村上太一氏(株式会社リブセンス社長)
早大1年でビジネスコンテスト優勝。在学中に起業した。アルバイト情報のウェブサイトが好評で、東証マザース(新興企業向け市場)に社長の年齢25歳1カ月で上場した。東証などによると、国内市場上場の最年少社長という。26歳、東京都出身。

▽野島記念メンバー
名前 学部・学年 出身高校 出身地
山口大介 法学部3年 韮山高 静岡県
満見祥子 法学部3年 中大附高 埼玉県
長松容子 法学部3年 中大杉並高 大阪府
▽起業家甲子園メンバー
名前 学部・学年 出身高校 出身地
植原崇裕 商学部4年 長野商高 長野県
新藤雅之 法学部4年 甲府西高 山梨県
山口大介 法学部3年 韮山高 静岡県

(学生記者 澤田 紫門=総合政策学部1年)