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国際労働機関(ILO、本部・ジュネーブ)国際労働基準局次長カレン・カーチス氏を招いて「国際労働基準分野での最近の成功例と課題」と題する講演会が行われた。今回の講演は、中央大学法学部で毎年夏休みにILOにインターンする授業があり、ILOと本学との間に友好関係があることから実現した。約1時間半の講演は英日同時通訳で行われ、質疑応答では、学生から英語での質問も多く見られた。グーロバル人材の育成の一環として行われた講演は、まさにその趣旨に合致するものとなった。
(10月26日、多摩キャンパス8302教室、国際連携推進機構設立記念、第2回中央大学特別講演会)
カレン・カーチス氏の講演会
カーチス氏はミャンマーの事例、海事労働条約、フィリピンの事例、家事労働者、児童労働撤廃国際計画(IPEC)の事例を紹介した。
最初はミャンマーの事例だ。ミャンマーでは強制労働が行われている上、結社の自由が認められていない。結社の自由があれば強制労働を強いる使用者に対して集団で声を上げることができるため、この2つは本質的に関連している。
ILOはミャンマーをキーエリアとして位置付け、20年間にわたる辛抱強い監視と説得的対話をし、今なお強制労働撤廃と結社の自由促進を目指し活動している。
具体的な活動として、①ミャンマーの強制労働に関する苦情が寄せられる連絡事務所を開設②団結権と紛争解決に向けた法的枠組み構築を助言③労働者団体の設立④亡命していた労働組合指導者を再入国させる⑤技術協力活動やILOセミナー⑥海外からの投資によるミャンマーのディーセントワーク(働きがいある人間らしい仕事)への影響をテーマにしたレポートの準備などを紹介した。
次は家事労働者についてだ。家事労働者は、書面契約がなくても家が職場となり、女性や移民、子どもといった弱い立場の人が過酷な家事労働を強いられている。ILOでは政府、労働者団体、雇用者団体に加え当事者団体も加えた対話(三者プラス)により家事労働者の人権保障を図っている。
児童労働者については2006年の2億2200万人から2010年の2億1500万人へと継続して減少傾向にある。5歳から14歳までは10%減少、少女の児童労働者数も15%減少している一方で、国によっては法定年齢に達している15歳から17歳の児童労働者は20%の増加。地域別でみると、アジア太平洋、中南米では減少している一方で、サハラ以南のアフリカでは増加しているのが現状である。
ILOは、さまざまなトレーニングを実施するほか、“南南協力”として情報、経験、意見の交換をしてきた。また、親の所得創出と雇用機会提供、児童労働に頼らないように資材や道具を支援、信用融資を得る機会の拡大といった特定の介入活動もしている。
【講演を聴いて】
ILOの活動がはっきりと認識できた。国家による労働者の人権保護がなされなくとも、企業は世界に進出し、過酷ともいえる労働を展開している。そんな現状の中で国境を越えて「労働者の保護のために」活動しているのがILOであると感じた。また、私たちが労働問題を考えるとき、雇用者と労働者の関係に注目しがちだが、そこには国家や地方自治体による基準や家事労働者の場合のように当事者(顧客)もが深く関わっているのだと感じた。
(学生記者 佐武祥子=法学部3年)