トップ>HAKUMON Chuo【2012年夏号】>【OB・OGの職場探訪】スポーツ紙1面見出し 売れ行きを左右する腕の見せどころ
豊田 裕基さん/サンケイスポーツ編集局 整理部次長
理系出身でスポーツ紙1面見出しを付けている、と聞いて学生記者3人がOB訪問した。
東京・大手町の産経新聞東京本社サンケイスポーツ編集局整理部次長の豊田裕基(40)さんは、中央大学理工学部数学科卒。数学の教員志望だったという先輩が、いまの仕事を選んだのは—。
取材する学生記者(撮影/清藤拡文産経新聞社夕刊フジ写真部長)
電子画面に向かって真剣勝負
出社は午後2時、退勤時刻は午前2時を回る。
帰宅後、朝のテレビ各局の新聞紹介コーナーを見て床につく。ほぼ昼夜逆転の毎日だ。
整理部とは初めて聞く部署。取材現場を駆け回る新聞記者のイメージと違って、社内に陣取り、原稿を読み、見出しをつけ、写真を選び、どの記事を大きくするか、小さくするかを考える。
大事な紙面レイアウト・構成の担当だ。取材記者と同じく、紙面には<紙面構成 豊田祐基>と名前が表示される。責任あるポジションだ。
1面見出しを付ける時は、とくに神経をつかう。短い言葉に編集サイドの思いの丈をこめる。読者にきちんと伝わるか。思案の連続という。
取材日の6月1日付1面をテキストに、豊田さんが説明してくれた。取材日前日のプロ野球交流戦、最大のニュースはヤクルトの連敗が「10」で止まったこと。「佑ちゃん」で知られる、日本ハムの斎藤佑樹投手を打ち崩しての価値ある勝利だった。
サンケイスポーツ(東京発行)の1面見出しは、
『佑撃ち 連敗 大脱出!!』
『ヤ復活祭』
『174打席ぶり畠山弾!10点大勝』
と、こうだった。
見出しの周囲には、花火がドカーンと3カ所に打ち上げられていた。祭の見出しが生きるレイアウトだ。
「スポーツ紙はひと目見て、楽しめるものがいい。“遊び”を入れています。ここが一般紙と違うところです」
考えた見出しは上司の決裁を得て紙面化される。
自身のヒット作は、巨人投手陣が打たれ続けたとき、当時流行っていたドラマ「白い巨塔」にヒントを得て“ 弱い巨投”と見出しを取った。評判がよく、部長賞をゲットした。
「数学が好きで入った。数学の教員になりたかった」
中大理工学部数学科。就職活動ではシステム関係の2社から内定を得た。そこへ競馬週刊誌「ギャロップ」(サンケイスポーツ発行)のアルバイトの話が入り、入社前短期間のつもりで始めた。
「編集の仕事をアポ取りから取材、原稿書きまで、いろいろと経験させてもらいました。発想力が試される職場でした」
内定を蹴ってアルバイト。親の反対はあったが、仕事ぶりが認められ、産経新聞社員として入社。サンスポ編集局に配属された。
社が力を入れているデジタル部門・産経デジタルへの異動を経て、サンスポ編集局に戻った。デジタルではWEBを学び、原稿も書いた。
「ネットの良さと同時に、紙媒体の良さを感じました。ネット記事は速報重視だから、記事の置き場は羅列でもいい。新聞は記事の大きさを決める、遊びも入れる。そこが面白い」
新聞は新しいニュースが入れば紙面を変える。作ったものを壊して、新ネタが目立つよう作り変える。朝刊の編集は夕刻から未明まで、こうした忙しい作業が続き、締め切りまで時間がないことが多い。短い時間に多くの作業をてきぱきとこなす。
「そのドタバタ感が逆に醍醐味だったりします」
という豊田さん。
ニュースに生きている、ニュースをさばく、という充実した顔だった。その仕事には理系も文系も感じられなかった。
(学生記者 齋丸仁志=文学部2年)
(学生記者 石崎春日子=文学部1年)
東京・サンケイビル
地下鉄大手町駅から上がると、これでもかというくらいに大きくて、圧倒されてしまう31階建てのビルが目に飛び込んできた。黒く、くびれのあるフォルム。まさに憧れの会社といった外見だ。社内は思った通りきれいで、さすがは大手企業、マスコミの世界だ、と私は興奮していた。
今回の目的であるサンケイスポーツ編集局に案内されると一変した。世界が変わったかのようだ。
失礼ながらおしゃれ感など全くなく、皆ラフな格好。Tシャツに短パン姿の人もいた。アイドルの写真などが貼ってあって、男臭いというか雑多な雰囲気。なりふり構わず、真剣に取り組んでいるのだ。
新聞編集は時間との勝負だ、と聞いたことがある。ノロノロしてはいられない。目の前に展開される職場が格好よく見えた。
豊田さんのほかに中央大学卒のかたが何人もいて、温かく迎えて下さった。豊田さんには新聞に関すること、自身の学生時代のこと、幅広く話をしていただいた。
1面見出しの工夫は、実に合理的に計算されていて、感動すら覚えた。私はこう思うと前置きされて、大切なのは写真—見出し—記事の順。スポーツ紙ならではの重要性だという。
出勤が午後2時、退勤が午前2時という1日のタイムスケジュールは衝撃的だった。一つひとつが驚きで、マスコミ志望者には興味深いものばかりだった。
人生の面でもためになる話を聞いた。システム関連企業から内定をもらっていたにも関わらず、大学4年生の10月にアルバイトで始めた競馬週刊誌の編集を将来の仕事として選んだ。何がきっかけで仕事に就くのか分からないものである。
豊田さんは「好奇心を持って、興味のあることは突き詰めてほしい」と力説した。この言葉に刺激された。ついつい安定、安全を求めがちな私は、失敗する ことを恐れて挑戦できないでいた。
それが変わった。人生何があるか分からない。志望するマスコミの仕事に一層興味を深めた。夢をあきらめないで挑戦していく。充実のOB訪問だった。
(学生記者 中田実希=法学部3年)
指示を出す速水編集局次長、中大OBだ
今回の訪問取材は、生まれて初めての取材だ。
大学3年のこの春、学生記者という存在を知り、「自分を成長させたい!」と一念発起。遅咲きながら、勇気を出して挑戦した。
サンケイスポーツ編集局は高層ビルの中にあり、多くの人が働いていた。
私には働く人の生の声、目に映るもの聞くもの、すべてが新鮮で刺激的で、学びの多いものだった。編集現場を見聞して、活字からは得られない生の感覚を吸収した。
社員食堂。7Fにある
新聞という毎日当たり前のように配達されるものに、大勢の人々が尽力していた。それを知ったのも初めて。新聞に改めて感謝し、就職活動を前にして、「働くということ」に考えが深まった。
豊田さんはスポーツ紙の見出しをつける仕事をしている。見出しは非常に大切であることが分かった。独自の工夫や秘訣があって“なるほど”という発見も多かった。学生時代のこと、料理教室や英会話に通う休日の過ごし方まで話を聞いた。
一番気になっていた「働く女性」については、豊田先輩が所属する編集局整理部に全50人中3人が女性だという。男性女性で、仕事の違いや差別はない。
「デスク」と呼ばれる女性の管理職もいる。女性の活躍の場は増えているようで、女性だからこそできる仕事、女性ならではの観点を活かした仕事もある。
編集フロアで仕事中の女性を見て、働く女性像がリアルなものとなった。男性女性の別なく働ける環境は、魅力的であると感じた。
学生へのメッセージとして、「好きなことを見つけて、突き詰めてやっていくことが大切」と話してくれた。
仕事での信条は「好奇心を持つこと」という。私たちの取材が終わると颯爽と仕事に戻っていく姿が印象的だった。
仕事にやりがいを感じ、活き活きと働いている。輝いていた豊田さん。純粋に、私もこんな風に活き活きと働きたい!と思った。