トップ>HAKUMON Chuo【2012年夏号】>【ロンドン五輪ワイド特集 出場記念&メダル獲得祈念】こつこつ努力で五輪の花開く
中央大学学員時報紙面
石橋千彰選手/水泳部(総合政策学部3年、東福岡高=福岡県)
中央大学からロンドン五輪に出場する現役学生で真っ先に五輪代表を決めたのは、 水泳部の石橋千彰選手(総合政策学部3年、東福岡高=福岡県)。 競泳日本選手権(4月4日)男子200m自由形決勝で五輪派遣標準記録を突破して、 日本代表の800mリレーメンバーとなった。ジュニアを含めて国際大会の出場経験はなく、 初めての世界規模の大会がオリンピック。シンデレラ・ボーイの素顔に迫った。
「まさか」電光掲示板のタイムを見た瞬間の印象だ。3コースの石橋選手は1分48秒16でゴール。標準記録を突破した。五輪代表だ。東京・辰巳国際水泳場の中大関係者がどよめいた。
200m自由形で国内ランキング12位からの大ジャンプ。自己ベストを1秒半近く縮める成長の証を見せた。
五輪への道は、国際大会の経験を積んだ選手がステップアップしてつかむことが多い。「オリンピックに行ける?!」。まさかの思いにはこうした背景があった。
落ち着いた後のコメントは「ずっとこの日を目標にやってきたので感無量です」。疲れているはずなのに、その日の夜は興奮で疲れを感じない。“おめでとう”メールに返信し終わった午後11時過ぎ、「やっぱり疲れていたんだな」。五輪はたまった疲れも吹っ飛ばすのだ。
五輪800mリレーメンバーは4人。他の3人は身長184cm、石橋選手は168cm。少年時代から小柄で、「大きい人に勝つにはどうしたら良いか常に考えてきました」。
「努力しない自分は嫌いだ」。この言葉を中大水泳部ガイドブックに座右の銘として掲載した。普段から人より少しだけ多い練習をする。意識しているのは、ハードな練習後、体をリラックスさせるためのクールダウン。800~1000mをゆっくり泳ぐ。
中大・森谷暢コーチによると、大学トップレベルの練習時間は膨大で、1週間に6~8万m。総計30時間程度の水中トレーニングをほぼ毎週こなす(中大HPに詳細を掲載)。
こうした練習のあとだから、「早くプールから上がりたい。帰りたい」と思う。「でもこれを怠ると、次の練習に支障がでる」
心と体がいつも戦う。
スイミングクラブに通い始めたのは保育園のとき。4歳違いの兄に続いた。小学2年から選手コースに上級したが、他の子どもに比べると遅いほうだという。
「いつやめると言い出すかと思ったら、ずっと続けていた。私が送り迎えできないので、千彰はバスでプールへ行く。学童クラブの先生に“きょうはプールの日だからね”と言っていたようです」
仕事をもつ母親かおるさんの述懐だ。
「納得したらこつこつとやる子でした」
高校時代、夕食後に30分ほど、ストレッチをする。
「ずっと続けるなんて、親がびっくりしましたよ」
中大入学後に筋肉トレーニングを行い、がっちりした体つきになった。「身長は低くても、人より優れた技術がある」(森谷コーチ)
まさに「柔よく剛を制す」。自分で考え、続けてきた努力が実を結んだ。
千彰という名前は、祖父がつけてくれた。“千”には一騎当千の意味があり、「周りに負けないように自分をしっかりさせて、上を目指せと言われました。気に入っています」
真面目でこつこつタイプ。コーチの意見を素直に受け入れて、次に何らかの形で必ず活かそうとする。
「自分がいるそのとき、その瞬間に集中する。中大で練習し、実践していることをできれば必ず勝てます。国際経験はなくても、何も知らないのを武器に思い切りやってきて」と森谷コーチ。
水泳は個人のスポーツだ。勝負は全て自分の責任になるから、試合前は不安になりやすい。
中央大学が大切にしているのが「メンバー・ケア・マインド」。チームの力を重視し、責任を背負いながらも分かち合う。その教えの甲斐あって、入学後3年間、五輪代表になるまでに成長した。
中大水泳部のチーム名は「マローダー」(“MaraudEr”)。略奪者だ。日本チームのリレーメンバーに入った略奪者の一員が、オリンピックメダルを目指す。
今シーズンの抱負~「オリンピック代表に入って、感動などを与えられるレースをする」~をすでに実現させた。
次の目標を実現するため、チームやコーチ、家族の応援のもとロンドンで戦う。石橋選手の五輪は開会式翌日、7月28日に開幕する。
(学生記者 渡辺紗希=法学部3年)