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トップ>Hakumonちゅうおう【2012年春季号】>【表紙の人】ライフル射撃 学生日本一から日本代表に メンタル強化し、五輪を舞台に標的狙う

Hakumonちゅうおう一覧

表紙の人

輝く瞳が見据えるのはオリンピック

ライフル射撃 学生日本一から日本代表に
メンタル強化し、五輪を舞台に標的狙う

清水 綾乃さん/射撃部(商学部4年、済美高校出身)

公式試合ができる公認射撃場

 多摩キャンパスの陸上競技場に併設されたスモールボア射撃場に記者は初めて足を踏み入れた。暖房が利いた場内は、清潔感にあふれ、静寂な空気にピーンとした緊張感がはしる。射場は4レーンに仕切られ、その50m先に小さく標的がみえる。

 電子標的システムが採用されたこの射撃場は、第3種公認規格射撃場として公式戦も行える施設で、新年早々にロンドン五輪を目指す全日本ライフルチームがここで合同練習した。

昨年インカレで2種目制覇

 清水綾乃さん(商学部4年、岐阜・済美高校出身)は、その全日本チームの一員だ。昨年10月に行われた第24回全日本女子学生ライフル射撃選手権大会で、清水さんは50m先の標的を射るSB(スモール・ボア)3姿勢とSB伏射の2種目で学生日本一に輝いた。

 取材で訪ねた清水さんは、「JAPAN」のユニフォームが目につくほかは、身長159センチのスリムな体型で普通の女子学生と少しも変わらない。「射撃の選手は大きい人もいれば、小柄な人もいて、体格はいろいろです」と言って笑う。

80%がメンタルなスポーツ

 射撃競技とはどんなスポーツなのだろうか。この素朴な問いに、清水さんからは即座に、「射撃は80%がメンタルに依るスポーツだと思います」という答えが返ってきた。

 射距離50mの標的の中心はたったの0.5ミリ。そこを狙い撃つスモールボアライフルの重量は7キロある。精神的な動揺があれば、到底標的を射ることはできない。いかに静止できるかで勝負は決まる。

 「的を狙い、撃ち終えるまでは息を止めています。動きのある他のスポーツと比べると、射撃は止めるスポーツ。最後に止めるのはメンタルなので、射撃を通して、精神面が鍛えられました」。頼れるのは自分一人で、自分自身に向き合う射撃はメンタルが大きく成績を左右するのだ。

50m先の標的を狙うにはいかに静止するかがカギ

3姿勢で600満点を競う

 清水さんが学生日本一になった50mライフル3姿勢には、伏せて撃つ伏射、立って撃つ立射、片膝をついて撃つ膝射がある。清水さんが特に力を入れて練習しているのは立射だ。「伏射や膝射は、スリングというサポーターで腕を固定できるため、狙いやすいんです。それに比べ、ライフルを担いで的を狙う立射は自力でのコントロールが必要で、不安定になりやすい。立射を得意にすることで、他の選手に差をつけることができます」と清水さんは戦略的に練習を積んでいる。

 メンタルの強さが必要とされるもうひとつの背景には、競技時間内での自己コントロールの難しさがある。女子50mライフル3姿勢の競技時間は2時間15分で、この時間内に伏射、立射、膝射で各20発撃ち、600点満点で順位を争う。「射撃のペース配分は選手に任されているので、休みも入れられますが、最終的には、どうやって集中力を持続するかが問われます」という。

 昨年のインカレで2種目制覇した清水さんが、決勝で出した得点は、いずれも600点満点で50mライフル3姿勢が574点、50mライフル伏射が587点だった。「3姿勢では伏射、立射、膝射の順で撃っていったのですが、後半に行くにしたがって点数が下がってしまいました」と清水さんは集中力の持続を課題のひとつにあげた。

膝射姿勢でかまえる清水さん

高校2年、3年の国体で優勝

 清水さんが射撃に出会ったのは、中学2年生の冬。当時、ライフル射撃日本代表で、『メンタル・マネジメント―勝つことの秘訣―』の日本語訳をした藤井優さんの講演を聞いた母親が、「私と弟を連れて、岐阜市内の体育館に射撃体験をさせに連れて行ってくれたんです」と当時を振り返る。

 初めてビームライフルを体験した清水さんは、「指導員の方が褒めてくれるので、のせられたこともあって、週3日練習に通いました。的に当たった時の快感や、真ん中の10点を当てるのが楽しかった」と射撃というスポーツにのめり込んでいった。

 そんな清水さんを射撃の世界へ一気に引き込んでいったのは、インターハイでライフル射撃団体優勝3回を誇る岐阜・済美高校への進学だった。「教えてくださっていた指導員の方が、済美高校の射撃部の先生に話をしてくださった」こともあり、スポーツ推薦で済美高校に入学した。

1日5時間のハードな練習

集中力の持続が得点差にでるライフル射撃

 高校に進学した清水さんは、「先輩の姿を間近で見ていて、自分も全国優勝することが自然と目標になった」という。そのために「人よりも2倍」の毎日5時間のハードな練習を続けた。恩師ともいうべき当時の渡辺龍一監督について伺うと、「褒めないし、頑張れとも言わないタイプの監督だったので、それが悔しくて頑張ったりもしました。とても熱心で、大きな存在です」と語って感謝する。

 思い切り射撃に打ち込める環境で、高校時代の毎日を練習に明け暮れた清水さんは、高校2年と3年の国体で優勝という結果も残した。

強い先輩を慕って中大入学

 「高校卒業の時に、一番強い大学の射撃部に行こうと決めていました。でも、結局はチームよりも、強い選手がいる環境で練習したいという思いから、人で選びました」。スポーツ推薦で中央大学に入学したのは、目標にする先輩がいたからだ。清水さんが入学したとき4年生で、ナショナルチームで活躍していた中村結花選手で、「中村さんと一緒に射撃をしたかった」という。

 清水さんはとにかく練習の虫だ。「練習しないと不安になるくらい。大学の授業が終わったら毎日2~3時間練習しています」と努力家の顔をのぞかせる。「試合になったら、どれだけいつも通りのパフォーマンスが出せるかが大事。緊張感を持った練習を普段からしています」と常に試合を想定したイメージトレーニングを欠かさない。

 普段練習しているのは屋内だが、実際の試合は屋外で行われることも多い。「屋外の場合は、風向きや太陽の光なども試合結果に影響してきます」と実戦の難しさを口にする。

 様々な条件に順応していく必要があるからこそ、「試合の場数を踏むことは、緊張を克服するうえでも必要です」と強調する。

目指すはロンドンの次の五輪

 そんな清水さんが「雰囲気にのまれてしまった。本当に悔しかった」とちょっと顔を曇らせた。ロンドン五輪出場権をかけた最終予選となるアジア選手権が、今年1月9日から19日までドーハで行われ、これに出場した清水さんは思うような結果を出せなかった。「6年間オリンピックを目指して頑張ってきて、やっと手の届くところまで来た」と手ごたえを感じていたのに、初めての夢舞台への挑戦は、悔しい結果に終わった。

 「オリンピックというのは想像以上に大きなもので、みんな出場するために血眼になって戦っていた。私は他の選手よりも気持ちの面で負けたと思う」と立ちはだかるオリンピックの壁を肌で感じた清水さん。「世界で戦うためには、もっと得点を伸ばさないといけない。50mライフル3姿勢の私の最高得点は578点ですが、580点台に乗せるために頑張っています」とロンドンの次のリオデジャネイロ五輪を目指して、立ち止まってはいない。

世界で戦うには「気持ちで負けないこと」と語る清水さん

息長く活躍し3回は五輪狙う

 「射撃は息の長い種目で、女性でも40代で先頭にたって活躍している選手はたくさんいます。あと3回くらいはオリンピックを狙いたい」と目を輝かせる。夢中になれるものに一生懸命取り組み、世界を舞台に戦う清水さん。その輝く瞳は、真っ直ぐと目標を捉えている。

(学生記者 三島薫=経済学部3年)