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トップ>HAKUMON Chuo【2012年秋号】>やれば返ってくる、やらなければ何もない。 ~自分次第の大学院生活~

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大学院


やれば返ってくる、やらなければ何もない。
~自分次第の大学院生活~

大学院って、どんなところだろう。学びたいけど難しそうだ。大学院生のナマ情報を知るために、中央大学大学院理工学研究科経営システム工学専攻博士前期課程1年・加藤研究室所属の射手矢賢(いてや・さとる)さん、同研究室の笹瀬綾子さんを後楽園キャンパス内の研究室に訪ねた。(学生記者 田中佑樹=理工学部3年)

拘束されない生活


笹瀬綾子さん
中央大学理工学部卒、23歳、
神奈川県出身。

 大学院生の1日を笹瀬さんが話してくれた。

 「午前中にTA(teaching assistantの略。授業補助)があり、午後は研究やチームミーティングがあります。私の研究室では学校に毎日来なくてはいけないということはなく、自宅のパソコンで研究をしている人もいます」

 研究室にもよるが、時間的拘束はあまりなく、学部生のときと比べてゆとりがあるという。時間に余裕があれば学部生はアルバイトを考えるが、「アルバイトは主にTAや他大学の学習支援センターなど学校関係のものが多いですね。私の周りの人たちもそのような感じです」

自由であるということは…


射手矢賢さん
中央大学理工学部卒、23歳、
茨城県出身。

 時間の自己管理について、今度は射手矢さんが語る。

 「大学院では学部のように実験レポートの提出はありません。そのため、自由な時間はかなり増えます。その分自分の研究に専念できるわけです。しかし、いつまでに・どこまで仕上げるという細かな目標設定を自分でしていくことが必要です。目標設定をしていないと何もせずに無意味な時間を過ごしてしまうかもしれませんね」

 自由であることは、自己管理をすることなのか。笹瀬さんが体験談を話してくれた。

 「研究室で最も大変だったことはテーマ決めでした。学部時はテーマは自分で考えましたが、その時は先輩からの手厚いサポートがあり、スケジュール管理も先輩がしてくれていました。しかし大学院に進学すると、テーマ考案もスケジュール管理もすべて自己責任です。周りから何も言われない分、自分で自由に、納得のいくように進められますが、その分、自己管理能力が問われます。後輩も入ってくるので最初は『個人研究とチーム研究・後輩の研究』を両立させるのにあたふたしていました」

社会のニーズに応えるサービスを


中央大学・後楽園キャンパス

 笹瀬さんは「パーソナル」と呼ばれるチームに所属している。

 「このチームでは主に個人に着目して、その人に合った情報を提示できる仕組みを開発しています。携帯で『後楽園・12時(お昼)』など場所や時間は同じ条件でも、その時の個人の状態は人によって違います。例えば、12時でもある人は実は11時くらいにお昼ごはんを食べていて、今から会議に出ようとしているのかもしれません。つまり、個人によって状態が違うわけです。そうした個々のTPOに合わせて情報を提示しようというのが今、私が行っている研究です」

 射手矢さんは「電脳」グループに属している。

 「服を買いに洋服屋さんに行ったとします。膨大な数の服の中から自分の気に入った服を選ぶのは大変な作業ですよね。その中で自分に合った商品を探して最終的に気に入ったものを購買する。ですが、最終的に購買に至らなかった商品でも興味を持った商品がありますよね。そこで購買履歴から情報推薦を行うだけでなく、WebCameraやRFID(ICタグを読みとる機器)のような機器を用いて、購買行動中にお客さんがどのような服に興味を示していたかの観測を行います。こうすることで最終的に購買に至らなかったが興味を示した商品のデータを得ることができ、さらにお客さんに適した情報推薦が可能になると考えています。このようなシステムの開発・研究を行っています」

 社会のニーズに応えるという研究室のコンセプトを守りながら、2人は別の角度から利用者の利便性に対しアプローチをかけている。

 大学院は日ごろの研究の成果・技術を社会に還元する。また自ら問題を提起し、解決策を導き出す。これこそが学部生の研究との違いである。

向上心


研究の成果は賞状となった

 学部3年生はこの秋から就職活動を本格的に始める。就業体験(インターンシップ)で実情を知る、エントリーシートの書き方に奮闘する、それぞれ汗をかく就活だ。

 大学院に進学するか、学部卒業で就活するかは大きな悩み。

 笹瀬さんは「大学院修了者限定の職種はありますが、私の院では学部卒も院卒も就職先はそれほど変わりません。それを踏まえた上で向上心を持って大学院に進んでほしい。消去法で選んだ人は2年間を棒に振ってしまうことになると思います」と向上心をポイントに挙げた。

 射手矢さんは大学院生活を「やれば返ってくるし、やらなければ何もない」と表現した。興味のある分野をとことん追求できる一方、専門分野で社会に貢献したいという気概がある。そうした環境の中で研究者としての強さが養われていくのだと感じた。

 大リーグのマリナーズからヤンキースに電撃移籍したイチロー選手の活躍が目覚ましい。38歳という年齢で常に高みを目指す姿に畏敬の念すら覚えてしまう。記者は大学院生2人の取材を通し、イチローの「向上心」が重なった。