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トップ>Hakumonちゅうおう【2011年冬季号】>【シリーズ】『志』を高く!~炎(も)える中大生~ 多摩学生研究棟 『炎の塔』の住人たち

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【シリーズ】『志』を高く!~炎(も)える中大生~

多摩学生研究棟 『炎の塔』の住人たち

難関の国家試験の克服を目指し共に学び、競い、そして支え合う

 「学生諸君が、この棟に結集し、難関の国家試験の克服に向け、不動の決意のもと、炎のように燃える情熱をこめて当たられるよう、これをもって『炎の塔』と称することとした」―。多摩学生研究棟、通称『炎の塔』の由来書にはこう書かれている。その『炎の塔』には文字通り『志』を掲げて、炎(も)える住人たちの日常があった。

朝8時の東門開門前に行列

寒い中、朝8時の東門開門を待つ学生たち

 11月末日の午前7時57分。眠気も吹き飛ぶほど冷え込む中、白い息を吐きながら、記者(野崎)が多摩都市モノレール「中央大学・明星大学」駅を出て、中央大学東門に着くと、まだ閉まっているシャッターの前に20人ほどの学生の列が出来ていた。

 エスカレーターから上ってくる人、モノレール改札口から出て来る人と少しずつその人数が増えていく。その中に『炎の塔』の住人が何人もいた。その一人の男子学生に聞くと、「いつもこのくらいの人が並んで、シャッターが開くのを待っている」という。ほかにも、サークル活動や授業の予習などと、朝早く大学に来る理由はさまざまだ。よく見ると、朝練があるのだろうか、ジャージ姿の学生もちらほら見られる。

 午前8時。シャッターが開いた。じっと待っていた学生がぞろぞろとキャンパスに流れ込んでいく。記者も流れに乗ってキャンパスに入って行った。早朝のペデ下は、とても静かだ。

 『炎の塔』はペデ下を挟んで、モノレールと正反対の場所にある。その途中、7号館にある庶務課分室を訪ねた。ここには『炎の塔』にある研究室だけでなく、学部事務室や第二体育館の部室の鍵が置いてあり、日替わりで24時間職員が待機している。

 研究室の鍵を取りに来た学生は「学研連特別入講許可証」を提示して、名簿に受取時間と氏名を書き込み、鍵を受け取る。また、庶務課分室では各研究室が購読している新聞も預かっており、学生は研究室ごとに分けられた壁の棚から、新聞を持って行く。

 午前8時11分、10の研究室の鍵が受け取られていた。東門開門から10分たらず。『炎の塔』の1日は早くも始まっていた。

14の研究室に多摩研、経理研など

庶務課分室で鍵をもらう

 『炎の塔』は3階建てで、創立125周年記念事業の一環として建設され、2002年8月に竣工した。1階に法職事務室と経理研究所事務室、ゼミ教室25室と談話室があり、2階には、法科大学院・司法試験受験対策研究室5団体と、その他国家試験受験対策研究室3団体、そして法職事務室が管理運営する法職多摩研究室(240席)がある。3階には、法科大学院・司法試験受験対策研究室(学研連所属)6団体の研究室と経理研究所研究室(200席)がある。

 2階、3階の廊下には各研究室員専用のロッカーがあり、室員は私物を置くことができる。研究室に所属すると、室員は自分専用の定席を持つことができ、定席がある部屋は自習室と呼ばれる。

 3階にある司法系研究室は規模が大きく、自習室の他に談話室がある。研究室には、室所有の教科書類が揃う本棚のほか、電子レンジや冷蔵庫が備わっている。各研究室の管理運営は所属する室員が行っており、備品の購入なども室員同士で相談して決めている。

入学前から知っていた『炎の塔』

「炎の塔」2階の談話コーナー

 実際、『炎の塔』で勉強している学生たちは、どんな生活を送っているのだろうか。記者(野崎、宮寺)は異なる研究室の学生に話を聞いた。

 法科大学院・司法試験受験対策団体「白鴻会」研究室で弁護士を目指して勉強している法学部3年の清水皓貴さん(世田谷学園高校出身)は、中央大学入学前から『炎の塔』を知っていたという。1年生の時から「白鴻会」に入り、来年のロースクール受験に向けて勉強する毎日だ。

 「朝8時から10時までには研究室に来て、夜21時~23時まで研究室にいます。自習室ではずっと勉強していますね。1、2時間集中して勉強したら、息抜きにロビーに出て他の室員と話したりしています」

 自習室での勉強は基本的に一人だが、隣の研究室と3年生同士で議論をしたり、先輩に頼んでゼミをしてもらったりすることもあるそうだ。「勉強していてわからないところがあると、近くにいる先輩に教えてもらうこともある」と清水さん。同期や先輩とのつながりがあり、互いに刺激を受けながら勉強できる環境があるのが研究室の特徴だ。

 昼食や夕飯を買いに行ったり、授業に出たりする以外はほとんど自習室で過ごすという清水さんは、勉強がつらくなることはないのだろうか。「ありますよ。周りがみんなガンガン勉強しているので、何とかついていきたいと思った時や先輩に追いつきたいと思った時とかですね」とあくまでも前向きな答えが返ってきた。

 清水さんは法職多摩研究室にも所属している。定期的なゼミや個別指導のほかに、年2回の室員資格更新試験があり、これに落ちると除籍となる。

 「更新試験の前はきついです。入学してから4年後のロースクールの試験だけを目標に頑張り続けるのは大変です。短期の目標をつくって勉強するといいので、自分は更新試験をひとつの目標にして、それをクリアすることで頑張っています」

法曹界以外の進路は考えない

 学研連の「中櫻会」に所属している法学部3年の菊地諒さん(神奈川県立相模原高校出身)は、入学してから研究室のことを知り、入室試験を受験した。倍率が高い試験に受かったのは、「運だと思う」と笑って話す。入室してからは、ロースクール試験を目指す学生の時間の使い方に感じ入ったという。

 「1年生の時にサークルに入っていたんですが、サークルだと例えば友達とお昼を食べて、そのまま夕方まで喋っていたりする。でも研究室だと、食べ終わったら適当に話は切り上げて、それぞれ勉強に戻ります」

 研究室の居心地は良いですかと聞くと、少し考えて「法律の勉強をしたい人には、快適だと思います」と答えた。「自分はもう気持ちを固めていて、他の進路を考えていません。でも、なんとなく受かって入室した人は、違和感をもって1、2年で辞めていきます」と話してくれた。

 菊地さんは2年生の9月から4ヵ月間、研究室運営の代表である内務幹事をしていた。研究室は所属する室員が管理運営をしていて、室内会計やOB・OGとの連絡のやり取りなどを分担して行っているのだ。

 「受験期の先輩方が勉強に集中できる環境をつくることに、とても気を遣った。また、法曹界のOB・OGの先生方に失礼なく対応することが大変だった」という。研究室全体のことを考えていかに行動するか、社会に出てからどのような行動をしなければならないかなど、勉強になったことも多く、「幹事を経験して良かった」と話した。

朝8時15分の入室ルールと罰金

 法学部4年の澤田晃宏さん(三重・暁高校出身)は、2年生から学研連の「済美会」に所属している。1年生の時は法職多摩研究室に所属していた。友人が今の研究室にいることを知り、2年時に入室試験を受けた。「ラッキーボーイです」と澤田さんは言う。

 「済美会」に入ってからは、同期の友達と「朝8時15分までに来ないと300円の罰金」というルールを決め、約1年半続けた。しかし「朝、研究室に来たら1時間くらい寝ていた」と笑う。

 研究室には勉強そのものが好きという人が多いが、自分はそうではないという。「弁護士になりたいという目標を叶えるために、必要だからやっています」と明確だ。勉強の仕方も3、4時間勉強したら1時間遊ぶというように、メリハリをつけるようにしている。しかしロースクール試験前は集中して勉強した。

 「9時から12時まで勉強、13時半まで休憩して、18時まで勉強、19時半まで休憩後、22時半まで勉強。帰ってから1時間くらい勉強して、寝るというスケジュールでした」

 澤田さんは私大のロースクールに合格している。自他ともに認める「ポジティブ派」で、 目標に対する気持ちがぶれたことはない。「でも、もしも一人だったら、諦めていたかもしれない。そういう意味で、研究室に入って良かったですね」と仲間に感謝する。

 周りの友達と自分との力の差にむしゃくしゃして、荷物だけ研究室に置いて図書館で勉強していた時期があったというが、「情報が全く入ってこなくて、結局(研究室に)戻りました」と笑って振り返った。

3年間、朝8時から夜11時まで

 中央大学ロースクールへの来春進学が決まっている法学部4年の小原学さん(千葉県立若松高校出身)は、2年生から「瑞法会」に所属し、「3年間毎日、朝8時の開館から夜11時の閉館まで、授業とご飯を除いてずっと『炎の塔』で勉強していた」と話す。

 法職多摩研究室にも所属した小原さんは、「土曜日の夜は友だちと朝まで遊んだり、日曜日は買い物に行ったりとリフレッシュした」と、勉強と遊びの時間のONとOFFをしっかり使い分けることで、努力を維持させてきた。

 「政治家になる」ことが夢だという小原さんは、「被害を被った人を後から救うより、被害を被らないように事前に人を守る政策をつくりたい」と将来を見据える。「法曹界にいるOBから、しっかりした指導が受けられ、気軽に先輩に質問ができ、一緒に頑張れる仲間がいた」と3年間を振り返り、小原さんは「『炎の塔』は同じ目標に向かう者同士が切磋琢磨できる場です」と笑顔で話してくれた。

年末年始も実家に帰らず勉強

 夜21時を過ぎ、出入りする人も減って、『炎の塔』全体が静かになってきた。そんな中、記者(石川)は2階のソファがある談話スペースで話しこんでいる2人に話を聞いた。法学部1年、高巣遵さん(福岡県立修猷館高校出身)と法学部1年、渡瀬裕喜さん(上村学園高等部出身)は「秀朋会」研究室で学ぶ同期生。勉強の合間の休憩タイムに、研究室の外でおしゃべりしていたところだった。

 『炎の塔』での暮らしぶりについて聞いてみると、2人は授業の合間や放課後を利用して、閉館の23時頃まで勉強するという。1年生なのに、1日の平均勉強時間は4~5時間というから驚きだ。「秀朋会」は室員の在室時間に関して、タイムカード制を導入しており、勉強時間が少ない下位の3名は専用の定席を追い出され、自由席へ移動しなければならないという厳しいルールを課している。

 「約束する訳じゃないけど、お昼の食事の時間になると、自然とこの談話スペースにみんなが出て来るんです」と2人は話す。同じ研究室だけでなく、隣にある「白鴻会」や「法修会」の友だちと一緒に食事をすることも多いという。

 2人の足元をちょっとみると、マイスリッパだった。「秀朋会」研究室には冷蔵庫、電子レンジ、湯沸かしポット、空気清浄機、パソコンなどが完備されている。室員はマグカップやインスタント食品、ひざ掛けや時計、写真など私物を持ち込んで、リラックスした環境で勉強している。

 『炎の塔』には生活空間があり、そこで勉強する学生たちは、まさに『炎の塔』の住人なのだ。「炎の塔に入って良かった?」と記者の素朴な質問に、2人とも「そりゃあ、もう」と深く頷いた。

 「同期や他の研究室の仲間と、互いに刺激し合える」からこそ、勉強のモチベーションにも繋がる。「将来は弁護士になりたい」という2人は共に九州出身。年末年始は実家には帰らず、『炎の塔』で勉強するという。まさに「炎(も)える中大生」と言えるだろう。

終電前に家路を急ぐ住人たち

「まもなく閉館となります。下校して下さい」―。中央大学の閉門時間10分前の22時50分になると、『炎の塔』では館内放送が流れる。それと同時に、『炎の塔』の住人たちがぞろぞろと研究室から出てき始めた。

 ひとりで足早に帰路を急ぐ人もいれば、研究室の仲間と一緒に大勢で帰る集団もいる。館内放送があるまで集中して勉強していたのか、急いでマグカップを洗いに流し場へ向かう人もいる。少し疲れている人も、友だちと話しながら笑顔の人も、みんなリラックスした雰囲気だ。

 研究室は、夜間は鍵がかけられる。鍵をかけるのは閉館まで勉強した人の役目。帰る際に、庶務課分室に返却して完了だ。記者(石川)は鍵を返しに行く人、数人に話かけてみたのだが、みんな閉門時間が迫っているせいか、質問には答えてもらえなかった。

 モノレール駅に接続している東門は、23時ちょうどにシャッターが閉まる。終電までにはあと数本あるものの、23時07分発の多摩センター行き、23時09分発の上北台行きに間に合うように、みんな急ぎ足だ。モノレールに乗った後も、法律の基本書を開く住人たちの姿を見かけた。一途に頑張る姿はやはりカッコいい。

(学生記者 石川可南子=法学部4年/野崎みゆき=法学部4年/宮寺理子=法学部2年)