講演するフィリップ・フォール駐日フランス大使
フィリップ・フォール駐日フランス大使による「世界の中のフランスと『3・11』後の日仏関係」と題した講演会が6月9日、中央大学多摩キャンパス8号館8304号室で開かれた。会場の大教室は、多くの学生や教職員、報道関係者で満席となり、原子力発電推進国でもあるフランスの駐日大使の話に真剣な表情で聞き入っていた。
フィリップ・フォール大使は、冒頭、東日本大震災の3・11後も駐日大使館を閉鎖することなく、東京を離れずに、対日救援活動など危機管理にあたったことなどを紹介したうえで、①フランスの国際的地位 ②当面の外交課題 ③3・11以降の日仏関係の3つのテーマに分けて、講演した。
まず、フランスの国際的地位については、27カ国が加盟するEUの人口が5億人で、GDPは160億ドルと、北米地域の140億ドルを超えていることを指摘し、「EUは国家を超えた関係を構築しているところだ」と強調した。なかでも共通通貨ユーロの導入が、各国の経済に「大きな安定をもたらせた」と述べ、導入以前に「後戻りはできない」と断言した。
またフランスの労働力が世界トップ3に入る高い評価を得ており、生産性も世界で2番目に高いことを紹介。さらに人口6200万人と決して多くない人口のフランスが、外国から多くの投資を受けていることも強調した。
加えて大使は、フランスはそのイメージであるエルメスやシャネル、ルイ・ヴィトンだけでなく、「もっと幅広い分野で活躍している」として、対日貿易の輸出産品としてエアバスや民間衛星、薬品、自動車、農産物などを挙げた。そうしたうえで「フランスは世界5番目の経済大国としてがんばっている」と述べた。
原発問題に関しては、フランスが50年前から原発に着手し、現在、総電力の80%を原発に頼っている状況を紹介、原発が建設・稼働から停止・解体にいたるまでに「100年かかる」ことから、原発への取り組みは「100年後を見据えていかなければならない」との考えを示した。
続いて大使は、外交に話を移し、「外交面におけるフランスの強みには、世界2番目のネットワークがある」と述べ、世界各国に188の大使館、97の領事館、400の文化施設が存在することを挙げた。またフランス語がアフリカやメキシコで広く勉強されていることなどを紹介し、「フランス語は(世界で)より一層重要な役割を果たす」と強調した。
軍事面では、現在3万人の兵士を国外に派遣して、国連の軍事介入に参加しているとし、「国際社会のなかで存在感を示すには、リスクもやむを得ない」との認識を示した。またフランスが国連常任理事国のひとつの国であることも「非常に大きい」とも述べた。
一方、フランス大統領の任期が5年で、シラク元大統領が12年間、ミッテラン元大統領が14年間その任にあったとして、「長くG8サミット(主要8カ国首脳会議)に参加し、世界に存在感を示した」ことを指摘。それに比べ、日本について「首相が頻繁に代わり、落ち着きがない。国際会議があるときには特に残念」と述べて、近年5人も首相が入れ替わっていることに苦言を呈した。
「3・11後の日仏関係」については、「日仏関係は、3・11前から良好でした」と述べたうえで、フランスと日本は文化や建築の分野など「直感的に共感できるものがある」とし、食の分野に加え、最近では日本の漫画がフランスの若者に高い人気があることを挙げた。
3・11後、フランスは即日、100名の消防士の救援部隊を日本に派遣したのをはじめ、人道的支援だけでなく、ミネラルウォーター、医薬品、防護服、放射能の線量計の提供など、「何でもできることはする姿勢で臨んだ」と述べた。
3月末のサルコジ大統領訪日の際には、大統領が日本に対しロボットや資材、汚染水処理などの面で多くの支援を提案したとし、とくに仏原子力企業のアレバ社が6月10日から高濃度の放射性物質を含む汚染水の処理を請け負っていることを紹介した。
最後に大使は「日仏関係は今後も強化していくべきで、両国が協力すれば世界的なリーダーシップがとれる」と述べ、日仏関係の強化の重要性を強調した。
講演会は、質疑応答も含め、予定時間を大幅に超えて、盛況のうちに終えた。
(学生記者 荻原睦=法学部3年)