山岸 キャリア支援チーム『tip』では、「中大生は一般に社会との関わりが薄い。もっと視野を広げる活動が必要なのではないか」という問題意識から、昨年9月末から約2ヶ月間、3年生(当時)を対象に社会と交わって、自らが望むキャリアデザインを形成してもらうための業界研究を行いました。きょうは、それに参加した3年生(当時)と、『tip』を立ち上げた磯田、渡辺、そして私の3人とで、活動を振り返り、とくに3年生がどう変わったかについて話し合いたいと思います。
業界研究は金融、マスコミ、メーカー、商社、サービスの5業界の各班に分かれましたが、まず、みなさんが研究した業界について、紹介してください。
業界の予備知識は本で
鎌田明子さん
鎌田 私は、金融班でした。まずは金融業界に関する知識をつけようと、みんながそれぞれ本を読んでからOB訪問をしました。いろいろな社会人の方と会う中で自分たちの考えをまとめていきました。
荒井 自分は、広告代理店に就職したいと思っていたので、プレゼンスキルを向上させたいという理由で、マスコミ班に参加しました。うちの班では参加者の興味が広告やラジオ、出版などと違っていたので、各自が興味ある業界のことをしっかり調べようということになって、本を読みあさりました。僕は5冊くらい読んで、一気に知識がついたなっていう感じはありました。
松本 私はメーカー班でした。こんなことを言ったら失礼かもしれないのですけど、私の周りには、「口が上手ければ大丈夫だ」みたいなことを言って(笑)、真面目に就職活動してきた先輩がいなくて、本当にそうなのかなって思って、友達と情報共有しながらだったら、より効率よく就職活動が進められるんじゃないかと考えて、参加させていただきました。5人で業界研究とOB訪問、プレゼンをやりました。業界研究では、メーカー業界と関わりある商社班と情報共有できたのがすごくよかったです。
社会人に会う前に準備
山岸 参加した3年生には、まずグループで業界の知識をつけてもらって、その後に社会人を訪問して、自分たちの知識とか考えについて指導していただき、最後に研究発表してもらいましたが、最初、社会人に会っていただく時、戸惑いはあった?
荒井 ありましたね。電話するのも、緊張するし…。
松本和代さん
松本 私はOB訪問の仕方に関する本を書店で立ち読みしました。メールの書き方も、名刺の受け取り方も礼儀もよく分からないので、何か失礼があったら、いけないと思って。
鎌田 私も不安でしたね。社会人の方に会いに行く前に内定者の4年生に相談したら、「質問をちゃんと考えて行かないとだめだよ」って言われても、どんなことを聞けばいいのか分からなくて。でも、それも内定者から聞いたり、友達と話し合ったりしていく中で、聞けばいいことが何となく分かるようになってきました。それを繰り返していくうちに、あえて考えていかなくても、自然に質問がポンポン出てくるようになりました。
山岸 私たちは、社会を見るにはいろんな視点があると思っていて、それを知るには「OB訪問が大切」と言っていたんだけれども、実際にOB訪問をしてみて3人は得たものがありましたか。
出会いが楽しくなる
鎌田 やっぱり社会人と学生って全然違う。社会人は、すごいって感じましたね。
荒井貴成さん
松本 私は、いろんな社会人の方にお話しをうかがって、人との出会いがすごく楽しくなってきました。社会人がどういう思いを持って働いているのかということに触れられるのがすごく面白かったです。社会人の方とは今でも連絡をとり続けていて、ESで困ったら、添削してくれたりとか、資料をいっぱい送ってくださったりしています。
荒井 僕は、自分なりに学生生活を楽しんできたという自信があったので、就活も何とかなるだろうって、思っていたんです。でも、ある座談会を聞きに行った時に、広告会社の方が、「あなたが最も連絡を取る人の顔を10人思い浮かべてみてください。その中に何人社会人がいますか?」という話をされたんです。僕はゼロだった。その方は、「その10人の平均年収が自分の将来の平均年収になるんです」と言われたんですが、自分を振り返ってみて、自分はまだまだだな、ということを学べたということがありました。
自分の狭さに気付く
磯田 視野が広がった?
荒井 そうですね。今までは学生同士の中で完結している活動だったので、自分は結構やれるんじゃないかという思いがあったんですけど、社会人との中となるとやっぱり自分はまだまだだと思いました。社会人の先輩に、「君らが、すごいと思っていることでも、何も別にすごくはないんだよ」みたいに言われて(笑)。
鎌田 数か月で、何十人という新しい出会いができて、何か自分が今までいた世界ってすごく小さいなって思うようになりました。
渡辺 これまであまり社会人とは会っていなかった?
鎌田 会っていないですね。これまでは、高校の友だちとかクラスやサークルの友だちとかの狭い世界でしたね。
渡辺 社会人と会っていなかったというのは、必要性を感じていなかったから?
鎌田 なかったですね。私、出身が地方だから、東京に来ただけで満足しちゃっていたのかな(笑)。大学の中だけでいろんな出会いがあったから、それで満足していたのかもしれないですね。
山岸 大学の外に出会いを広げたほうがいいと思うようになったのは、どうして?
鎌田 都心にある大学と田舎にある大学ではモチベーションが違うなって、就活を通してすごく思いました。都心にある大学の学生は何かこう、あかぬけている(笑)。
松本 私もすごくそれを感じています。私は、いろんな人に会うのも好きだし、どんどん外に出ていくのも好きなんですけど、周りの中大の友達からは「それ、チャラい」みたいに言われて(笑)。サークルならサークルだけで、自分のコミュニティを崩されたくないという思いが中大生はすごく強い気がしています。
外にはすごい人がいる
磯田芙美さん
磯田 居場所、求めるよね、中大生は。
松本 すごいです。それって「もったいない」ってすごく思います。一方で、そういう人たちは、私たちの価値観が理解できないみたいで、よく議論はするんですけど。
渡辺 いつ頃から、そう思うようになった?
松本 1年生のころから思っていました。他のサークルの子たちと交流しただけでも、友達は「うーん……」となるから、他大学との交流なんて絶対にないし、社会人なんてましてや全然ない。
荒井 自分の周りは結構、活動的な人が多いからそうでもないけど、でも、何となく中大はドメスティック(domestic)だなとは思います。
松本 そう、ドメスティックだと思います。すごく(笑)。
山岸怜奈さん
山岸 そういう人には、何を言いたいですか?
松本 それ、ずっと考えているんですけど、彼らには彼らの異論がある(笑)。でも、外に出会いを求めないのは、本当にもったいないなって思います。
荒井 僕ももったいないと思います。外に出ればいくらでもすごい人っているじゃないですか。身の周りに100人いて、すごい人がそのうち1人だとしたら、1000人いれば10人いるわけで、外に出たほうがすごい人に出会えるチャンスがいっぱいある。
松本 もっと成長に貪欲になってもいいのかな、というのはすごく感じますね。
磯田 外に出れば上には上がいるんだ、みたいな発見があるよね。
松本 そういう感覚も多分ないんだと思います。
内定者に就活の仕方教わる
山岸 人と会うのは楽しいから、もっと外に出たほうがいいという考えは、『tip』が行ったアンケートでも如実に出ています。最初は、どうやって人と会っていいかわからないとか、怖いとかいう意見が多くあったのが、業界研究を終えたあとのアンケートでは、「人に会うのが楽しいから、これから頑張ろうと思います」と前向きにガラッと変わってきています。
社会との関わりについて熱心に語り合う出席者
磯田 OB訪問で経験したことは、今後の就活に必ず生きてくると思う。ところで4年生の内定者とはどうでしたか? 社会人よりは気楽に話せたと思うんだけど…。
鎌田 内定者は就活を終えたばかりなので、就活の仕方を分かり易く教えてくれました。OB訪問の時にはこれを聞いたらとか、今の時期はこれをやってとか、アドバイスしてくれました。
松本 私は、内定者にはすごく感謝しています。私だったら内定を得たらどこか遊びに行っちゃうんじゃないかなって思って(笑)。遠くから来ているのに遅くまで残って、一人ひとりの相談に乗ってくださった。内定者の方たちがずっとお世話してくださったからこそ、自分が成長して頑張らなければいけないという気持ちです。
山岸 そうか、そういう気持ちの支えにもなれたのね。
松本 はい。あと、ミクシィのコミュニティにも毎回、皆さんが長く、細かく分かりやすく記入してくださった。時間を割いていてくださったんだなって、本当に感謝です。
立体的に見えてきた社会
磯田 今回の活動を通して、自分の中で変わったと思うことは何だろう?
松本 いろいろな社会の仕組みが、立体的に見えてきた感じがします。本だけでは、分からなかったことが、実際はこうなっているのか、という感じで。私、これまで、どういう生き方がしたいかとか、世の中がどうなっているのか、なんて考えたこともなかったから、それを教えてもらったのが、すごく大きいです。
渡辺千尋さん
渡辺 今までずっと自分だけの視点、自分だけの考え方で物事を見ていたのが、他の人の見方、考え方に触れて、多分切り口が変わって、立体的に見えてきたんでしょうね。ところで今回の経験をするまでに、就職活動に対する不安はあった?
松本 私、1、2年生のころは全く将来のことも考えていなくて、「大丈夫、遊べ」みたいな(笑)感じだったんです。それが3年生になるころ、先輩たちが、手当たりしだいに会社を受けて、でもダメだったから、「俺、やっぱり公務員に行くわ」とかいう姿を見て、不安を感じはじめたんです。元気がない先輩の姿を見て(笑)、私もこうなるのかなとか思って。
鎌田 私も「もう、ここ(の会社)でいいや」って就活をやめて、でも後になってから「本当にここで良かったのかな」とか言っている人をみて、私はしっかりやろうと思うようになったんです。でも私は1年間留学したため学年が一つ上なので、周りに就活仲間がいなくて、1人でやっていくのはちょっと不安でした。就活を終わった友達からは「絶対、1人でやっちゃだめだよ」って言われて。「病むよ」って(笑)、すごく言われました。
就活には仲間が必要
松本 受験は1人でも何とかなるかもしれないけど、就活は絶対1人でやるべきものではないと思っています。情報共有やコミュニケーション、自分の分析をしてもらうには、仲間が必要です。社会人を紹介してもらうにしても、1人で動くよりも効率がいい。仲間には精神的にも支えてもらっています。
鎌田 病むのかなって不安でしたけど、『tip』の活動直後は解消しました(笑)。今、また1人になってきちゃっているから、ちょっと不安なんですけど。『tip』の活動で、仲間の大切さがわかったから、もっと自分から仲間をつくろうという気持ちにはなっているところです。
荒井 僕も仲間と一緒にやって、就活をチームでやるというのは、重要だと感じました。今は同じ業界を目指している友だちに会ったら、情報を教えるようにしています。
鎌田 私もそれに共感しますね。ただ、情報を待っているだけじゃなくて、自分からも情報を紹介してあげないと、自分にもこないというか、ギブ・アンド・テイクなんだなって思いました。
荒井 本当にそう思います。今、それを実践しているところです。
成果は今後の活動如何
鎌田 逆に『tip』の先輩方に聞きたいのですが、どうして後輩のためにこんなに一生懸命になれたんですか。
渡辺 何でしょうね。『tip』を立ちあげた時、私達3人には、中大の学生の視野の狭い状態について同じ問題意識があって、もっと視野を広げるために出会いがすごく大切だという考えから、その出会いを後輩達に提供していかないといけないと思ったんです。それを就活にフォーカスしたのは、就活は学生みんなが考えるからで、就活をきっかけに出会える場をつくる。それが結果的に業界研究になったということです。
磯田 そうだね。私も出会いが一番、原動力になっていると思う。本当にちょっとした出会いで、自分が変われたり、悩んでいることがそんなに大したことではないと気付けたりして、前向きになれる。実際に就活でそう実感したからこそ、出会いの大切さを伝えたいと思ったということです。
山岸 私も尊敬する社会人の方が3人いるんだけど、私にとって原動力となっているその3人の社会人に出会ったのは、沢山の人に出会う機会があったからこそだと思っているのね。それでまず社会人との出会いのきっかけと、次に人に会うための基礎的なルールとかマナーを学ぶ機会を後輩達に与えられたらいいなと強く思っていたんです。
荒井 先輩方は今回の活動の成果をどう評価しているんでしょうか。
渡辺 成果は、まだ全然見えません。多分、これからの就活でのみなさんの行動の如何によって、見えてくるんじゃないかな。
山岸 大きいこと言っちゃうと、参加してくれたみんなの人生のプラスになっていけば成功だと言える。
磯田 みんなの話を聞いていて、自分たちが伝えたかったことは伝わっているんだなと感じるので、それはひとつの成果と思います。それを次に、みんながどう行動に移してくれるかを見ていきたいと思っています。
(座談会は2月5日に行いました)