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トップ>Hakumonちゅうおう【2011年早春号】>【学生記者 最後の<私>ニュース】段ボール5箱に収まった“大学生活”

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学生記者 最後の<私>ニュース

段ボール5箱に収まった“大学生活”

山岸 怜奈/総合政策学部(東京都立立川高校出身)

前列中央が私

 大学4年の1月。友達からの何十通もの手紙を、ゴミ袋に入れた。新聞記事が貼り付けてある授業ノートをビニールひもでまとめた。大学で使った教科書と一緒に束にしたら、それは立派な資源ゴミの山が完成した。

 高校1年、高校3年と続く、人生3度目の引っ越しだった。今までずっと実家暮らしで、大きな引っ越しもこれで3回目。その都度、くだらない物は捨ててきているのだが、どうしても物はたまる。「今回の引っ越しで要らない物は全て捨てよう」、そう考えていた。

 机の引き出しから次から次へと出てくる封筒。旅行先で買ったキティのキーホルダーやゲームセンターで取ってもらったぬいぐるみには、どれもタグが付いたままだ。本棚にはいくつものクリアファイルが並んでおり、どのファイルにも溢れんばかりのプリントがつまっている。

 何かと興味を持つ性格なため、無意識に集めてしまうイベントのチラシやフリーペーパー。参考になるものは授業のプリントと合わせ、「国際系」「組織論系」「地域系」などのカテゴリーに分けて整理したりもした。けれど、それらは今回の引っ越しですべて“要らないモノ”となった。残ったのは、文房具や手帳に、携帯、デジタルカメラとそれらの充電器や保証書。そして、おさめられていたプリントの厚みを残して変形した、透明な赤、青、緑の色とりどりのクリアファイルだ。

 「必要なものって、これだけなの?」と荷物が少なくなっていることに私は驚いた。今までの引っ越しでは、持っていきたいものはたくさんあった。授業のノート、友達がくれたお土産や手紙。つまらないガラクタまで「思い出がつまっているから」と手離せなかった。捨ててしまうとこれまでの積み重ねがなくなる気がして怖かった。その時の私には、時間や経験を裏付けてくれるカタチあるモノが必要だった。

 大学生活4年間は、貪欲に経験を積んだ。大学1年でベンチャー企業のインターンに挑戦。太陽が照りつける8月の日中、黒のスーツで雑居ビルから新宿NSビルまでとび込み訪問をした。場所は新宿3丁目。オフィスに返ると昼間訪問した会社にすべて電話をかけた。社長はとても人情に熱い方で、私1人に人生の生き方を熱心に説いてくれた。

 2年からは取りつかれるようにゼミに熱中した。ロビーにホワイトボードが用意され、夜23時までPC室が利用できる総政棟は、昼夜、ゼミに取り組む環境を与えてくれた。早朝や週に2回ほどある放課後の自由時間はバイトに当て込んだ。早朝バイトのおにぎり屋では、深夜まで続いたゼミの資料作成のせいで朝4時半に起きられず遅刻をし、パートのおばさんにあきれられたこともしばしば。

 とにかく大学生活はハードスケジュールだった。「まだまだ頑張ろう」と自分を鼓舞できたのは、暖かく見守ってくれる家族、多くの経験をさせてくれる先生、一緒に頑張ってくれる仲間がいたから。私は本当に多くの方に支えられ、素敵な経験をさせてもらった。

 振り返る間もなく駆け抜けた大学4年間。就活活動を終えてから半年以上過ぎた12月に、ようやく4年間が意味あるものだったと感じ始めた。ピリッとした寒さが張り詰める1月、私は引っ越しの準備を始めた。大学生活で過ごした6畳間の荷物が段ボール5箱に収まった時、それまで手離せなかったカタチあるモノが、渇いたのどで飲む水のように私の内にしみ込んでいるのを実感した。3月には卒業式が待っている。その時には大学生活の学びや記憶をもう一度胸に刻みこもう。