「企業に研究してほしい未来の夢 アイデアコンテスト」と銘打った『第3回テクノルネサンス・ジャパン』(日本経済新聞社主催)で、加藤さんはテクノルネサンス・ジャパン賞を受賞した。このコンテストは、「こんな製品があれば素敵な未来になるはず」というテーマで、理工系学生がアイデアを競うもので、400件を超す応募があったなかで、加藤さんは『口コミ情報に含まれるオノマトペの抽出および食品嗜好性検索への応用』というタイトルで見事受賞した。
擬音語や擬態語に着目 食品評価の表現に活かす
オノマトペとは、モノや情景をより直観的、感情的に表現する擬音語や擬態語の総称で、私たちの日常生活でも頻繁に用いられている。
受賞したアイデアが生まれるきっかけは、身近なところにあった。「インターネットで飲食店を検索するとき、店の雰囲気や価格のほか、味はその食品が“美味しい”という評価のランク付けのみで、“どのように美味しいか”の情報がありません」。
こう気付いた加藤さんは、「ベーグル(パンの一種)の口コミ情報に、例えば“モチッとしている”とか“ふわふわしている”といった擬音語が使われている」ことに注目し、「その表現を食品評価のトップ項目に持ってきては、と考えました」という。
擬音語や擬態語が、イメージをうまく言語化できない場合に、微妙なニュアンスを伝えることができることに着目したのだ。加藤さんは「このアイデアは大学3年生の頃からあったらいいなと考えていた」と言い、4年生になって研究室で発表したところ反応がよく、今回の応募に繋がったという。
ユーザーにやさしいシステム 進学先に選んだ東大大学院
加藤さんは以前から「誰にでもやさしいユーザー中心のシステムをつくりたい」と考えていた。「大学入学当初から頭にありました。特に3年生の時に学会で出会った先輩や、経営システム工学科の加藤俊一先生の授業を受けてから、より強く意識するようになりました」と振り返る。
漫然と受け身で過ごしてしまいがちな大学生活の中で、加藤さんは社会を自身の視点で見つめてきた。2年生では、理工学部の女子学生のキャリアアップを考える『WISE』にも参加した。加藤さんは、それまで大学が軸になって行ってきた『WISE』の活動を、学生が運営にも携わるように変えていったメンバーの一人でもある。
「これからは、従来の製品で強調されてきた『最速』や『最小』だけでなく、使う側の勝手を一番に考慮したシステムが必要になる」と話す。この夢を実現するため、大学院の進学先に東京大学大学院学際情報学府を選んだ。
「ここは理系の研究科ですが、インターフェースに必要不可欠な芸術分野の観点を取り入れた融合研究も積極的に行っています。みんなが自主的に挑戦しています」と、新たな研究に向けて目を輝かす。
指導教授らの励ましに感謝 機能重視だけではない製品を
しかし、東大大学院合格までは苦しい道のりだった。筆記試験に加えて研究計画書の提出が必須で、疑問点があれば他学科の先生にも積極的に教えを請いに行った。「どの先生にも親切に指導していただきました。担当教授の鈴木寿先生は、受験間際の夏休みも毎日、大学にいらして、励ましてくださり、加藤俊一先生にも精神的に大きく支えていただきました」と感謝の気持ちを口にする。
「機能だけを重視した製品では、ユーザーを置き去りにしてしまう。だからこそユーザーインターフェースについて学びたい」と語る加藤さんが、将来つくり出す、人とモノの架け橋に期待が膨らむ。
(小室)