若者を中心に社会現象にもなっている「ひきこもり」がテーマとあって、教室には保護者同伴の高校生たちが目立ち、身近な家庭の問題として関心の高さをうかがわせた。
「大学の授業とは、研究者である先生の言うことを疑問視することです」と中学、高校の授業との違いを指摘して、矢島先生は本題に入った。
「心の問題」と「関係の問題」
まず、「ひきこもり」の原因言説について矢島先生は、「『心』の問題と、『関係』の問題とする視点がある」と解説。『心』の問題とは、無気力、耐性の欠如、過敏な性格など「傷つきやすい心」や「優しい心」と結びつけて「ひきこもり」を理解する視点であり、『関係』の問題とは現在の青少年の対人関係性から「ひきこもり」を理解する視点だ。
とくに『関係』の問題について、矢島先生は「今の若者たちは対人関係スキルが低下している。友達同士ではうまくおしゃべりできる人でも、異年齢の人や自分と異質な人に対しては途端に話ができなくなる」という一般的な見方を紹介したうえで、「本当に今の若い人は対人関係スキルが低下しているのだろうか」と疑問を投げかけ、授業の内容を別の視点に振り向けた。
昭和30年代(1960年前後)の集団就職期、地方から都会に出て来た青少年は、「初対面の人とうまく話せなかった」と述べて、「対人恐怖症は以前からあったこと。実際は今以上に昔の若者の対人関係スキルは低いと思われる」と強調した。
「ひきこもれる時代」と「ひきこもりが問題となる時代」
矢島正見教授
そして矢島先生は、現在は「ひきこもりの時代」であり、それは2つの面をもつ、と述べる。まずひとつの面として、「ひきこもり」は(1)豊かな時代で、(2)ひきこもれる場所があり、(3)ひきこもりを援助する人が存在するという「ひきこもれる時代」だからこそ出現しえるのだ、との考えを示した。
またもうひとつの面として、「高度な対人関係を必要としなかった第一次産業や第二次産業から、営業中心・サービス業中心の第三次産業へ日本の産業構造がシフトし、そこでは入社したての若い社員にすら高度な対人関係スキルを要求する」という「ひきこもりが問題となる時代」だからこそ「ひきこもり」が騒がれる、と解説。現代社会では対人関係が企業の業績を左右するため、企業は若者に高度な対人関係を要求し、できない人に対して落ちこぼれのレッテルを貼り、それによって若者はひきこもってしまう、と指摘した。
最後に矢島先生は「現代社会では自分を見つめる時間がなくなりつつあるので、自分自身を見つめる独りだけの時間をつくることが大事です」とアドバイス。時折、冗談を織り交ぜつつ、終始和やかな雰囲気の50分の模擬授業を終えた。
(学生記者 野村有希=経済学部1年)