模擬授業開始15分前にも関わらず8307教室は、ほとんど満席に近くなっていた。高校生らがノートを開くなど、おのおの準備をして授業の開始を待った。
「経済学部は、市場メカニズムが現在どのように機能しているかを扱う学問です」。薮田先生は、こう口火を切って授業をはじめた。経済学の基本について需要供給曲線のスライドで説明したあと、授業は本題の「観光と環境保全の両立は成り立つか」について入った。
CPRsの管理・運営について
まず、薮田先生が取り上げたのは、環境問題へのアプローチのひとつである「CPRs」についてだった。CPRsとは所得・階級に関係なく万人が所有する財(コモンプール財)で、誰かが利用することにより他の誰かが利用しにくくなるという性質を持つ財であるという。森林、川、海などがこれにあてはまる。
先生は、「CPRsは市場に任せていると劣化が進み、価値を失っていく」として、その環境保全には公共政策の役割が重要になってくることを指摘。「公共政策は、文字通り市場の失敗を“公”または“共”の力で正す方法です。政府の法令による公的な働きかけだけでなく、地域レベルでの活動も大切です」と述べ、CPRsの管理・運営には地域ネットワークの形成が重要であることを強調した。
例えば、観光産業が盛んなAという島があるとする。そのA島は観光による自然破壊が著しいため、対策として入島規制や入島税を設ける。これが公共政策のポピュラーな型だ。ただ、先生は、旅行会社はじめ観光業に関わる地元住民らは経済的に不利益を被ることになり、規制や課税への反発が起こる側面があることも指摘した。
世界遺産の環境保全について
ここで薮田先生は、観光業とも密接に結びついているユネスコが定める世界遺産の環境保全について話を移し、「日本においては屋久島でのゴミの不法投棄による自然破壊が問題となっています。地元住民からは規制を必要とする声も上がっています」と具体的な例をあげた。
現実に観光客による環境破壊の例は後を絶たないという。とくに自然遺産は人間の侵入による影響を受けやすい。自然遺産であるガラパゴス諸島では、生物種の減少が顕著で、観光客数の増加が直に環境に影響を及ぼしたケースだ。
そこで先生は、「CPRsは、誰かが得をしているとき誰かがその財を享受しにくくなる財で、その代償は常に自然が負う」として、CPRsの最適資源管理の在り方に言及した。
キャリング・キャパシティについて
先生が重視していると紹介したのは、「キャリング・キャパシティ」だ。キャリング・キャパシティとは、森林や土地などに人手が加わっても、その環境を損なうことなく、生態系を安定した状態で継続できる人間活動、あるいは汚染物質の量の上限を意味する。
最後に薮田先生は、「環境の力、観光の魅力を生かしながら、まずキャリング・キャパシティを理解する必要がある。マーケティングはそのあとに行われる」と述べ、環境保全に対する認識を深める必要性を強調して、授業を終えた。
(学生記者 鈴木あきほ=法学部2年)