教室を埋めた高校生や保護者らが、事前に配布されたレジュメに目を通しているなか、「政府の役割とは何か?」をテーマにした工藤先生の模擬授業は東日本大震災の話からはじまった。
多岐にわたる政府の役割
工藤裕子教授
「復旧計画や復興政策、それに仮設住宅の建設をするのは政府の役割です。それだけでなく児童や生徒の受け入れ、就職斡旋なども政府の役割です」。大震災発生後の政府の役割が、復旧・復興の計画・政策だけにとどまらず、被災地のインフラの整備や教育、就職斡旋など非常に多岐にわたっていることを、まず先生は説明した。
先生は次にオバマ米大統領の政権二年間に言及。そのなかで健康保険制度改革に対し国民の反対が多かったことについて、「日本では国民皆保険がほぼ実現されています。しかし、アメリカで過去実現されてこなかったのは、個人の健康は自己の責任という考え方が徹底していて、社会が保障するという日本における認識とは違いがあるからです」と指摘し、アメリカと日本の政府の役割の違いを解説した。
そのうえで「政治学は政治現象を理論的に説明し、行政学は政府はどう運営されているのかを学びます」と政治学と行政学との違いを分かり易く話した。
夜警国家から歴史的に変遷
続いて政府の役割の歴史的変遷に移り、先生は、「夜警国家」、「福祉国家」と「小さな政府」、「経営」国家の3つの段階に分けて、講義をすすめた。
第一段階(1800~1930)の夜警国家では、政府の国民生活への介入はなく、自由放任国家などと称された。第二段階(1930~1990)の福祉国家では、産業革命による都市化で政府がインフラ整備や社会保障などあらゆる分野に介入。しかし行政機関や政府予算の拡大を招き、結果として財政赤字を引き起こした。そのために民営化や規制緩和による「小さな政府」(1980~1990)によって修正された。
第三段階(1990~)の「経営」国家について先生は、政府だけでなくNPO、ボランティア団体、企業などによる「ネットワーク」が、従来は政府が供給していたサービス・財を供給すると説明した。
そして「市場の失敗」を是正するため政府が介入する「規制」について、大きくわけて社会的規制と経済的規制があるとしたうえで、政府は規制と規制緩和の間をシーソーのように動くと説明。現在は喫煙規制や飲酒規制など、政府がさまざまな分野に介入してきていると指摘した。
今後の政府は「経営」国家へ
最後に工藤先生は、イギリスのキャメロン首相が掲げた「ビッグ・ソサイエティ」を取り上げて、政府のありかたについて「最終的にはNPO、ボランティア団体などを総動員した『経営』国家にならざるをえないのではないか」として、今後はこれまで政府が担ってきた役割の一部を民間企業やNPOに委ね、相互に協力しあう「ネットワーク」の構築が進むとの見解を示した。
(学生記者 荒木求=文学部1年)