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トップ>Hakumonちゅうおう【2011年秋季号】>【シリーズ】『志』を高く!~炎(も)える中大生~「チームのムードメーカー」 女子水泳部員3年ぶり13度目のインカレ優勝を支える

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【シリーズ】『志』を高く!~炎(も)える中大生~

「チームのムードメーカー」 女子水泳部員
3年ぶり13度目のインカレ優勝を支える

  9月4日、水泳部が大きな目標を達成した。第87回日本学生選手権水泳競技大会(9月2日~4日、横浜国際プール)で、3年ぶり13度目の総合優勝を飾ったのだ。優勝後、プールに飛び込み、晴れのウイニングスイムをする水泳部員たち。その中に文学部4年の藤田佳那さん(桐蔭学園高校出身)の姿があった。

「チーム意識が高い」と高橋監督

藤田佳那さん

 「男子にもついていくし、チーム意識が高く、チームに欠かせない存在」と水泳部の高橋雄介監督が評価する藤田さんは、シドニーオリンピック(2000年9月)の銅メダルトリオの田中雅美さん、中村真衣さん、源純夏さん以来の女子水泳部員だ。

 男子選手に交じって黙々と練習に取り組んできた藤田さんにとって、インカレ優勝は大学生活を締めくくるうえでの悲願だった。「とにかく泳ぐことが好き」という藤田さんに対するチームメイトの信頼は厚い。

 主将の青木泰彦さん(法学部4年、新潟県立長岡大手高校出身)は「佳那が頑張っているから自分も頑張ろう、と思う。チームの一人としては(他の部員と)同じだけど、励まされることは多い」と話す。藤田さんは「頑張りやで明るく、チームのムードメーカー」(高橋監督)なのだ。

入学当初はチアリーディング部

 藤田さんは小学1年生で水泳を始めた。5年生の時に、コーチに志願して選手コースに移ってから本格的に水泳に取り組むようになり、それからは毎日泳いだ。「とにかく泳ぐことが好きで、練習を休むことも遅刻することも嫌だった」という藤田さんは、「大学までは水泳を続ける」と決めていた。

 ところが、中大への進学が決まると水泳を続けるのを諦めた。当時、中大水泳部は男子選手だけで、女子選手がいなかったからだ。入学後に練習を見学した藤田さんは、「男子の練習についていけるか、迷惑をかけるのではないか」と思い入部を断念した。

笑顔でチームを活気づける藤田さん

 大学では「何かに打ち込みたい」と考えていた藤田さんは、応援団チアリーディング部に入部。チアではベースのポジションを担当し、応援だけでなく、6月にあるチアの全国大会へ向けて熱心に練習に取り組んだ。

 「チアはメンバーに恵まれて、楽しかった」というが、気持ちの底には「本当は水泳をやりたい」という思いがぬぐい切れなかった。「泳ぎたいという気持ちがあったし、水泳から逃げている自分が嫌だった。そういう気持ちを持ちながら、チアの活動をしているのは他のメンバーに失礼だと思った」と振り返る。

マネージャーで水泳部入部「本当は泳ぎたい」と監督に

髙橋監督の話を聞く藤田さんら水泳部員

 大学2年生の4月、新歓期間中に藤田さんは思い切って水泳部へ行き、「マネージャーをやりたい」と言って入部を志願。ただ、「選手をやりたい」とは言えなかった。

 マネージャーとして水泳部に入部し、一時期兼部したチアリーディング部は6月の大会を最後に辞めた。チアのメンバーに退部を伝えるときは、同期生が一人になってしまうため悩んだが、藤田さんの意思を聞いたメンバーたちは「佳那の水泳への思いはよくわかるよ。だから頑張れると思う」と応援して送り出してくれた。

 「辞める自分を応援して送り出してくれたチアの仲間のため、というのも、水泳を頑張れる理由のひとつ」と藤田さんは話す。

 水泳部でマネージャーとして活動を始めた藤田さんは、ある時、高橋監督から「あなた本当に楽しい?」と声をかけられた。藤田さんが「実は本当は泳ぎたいんです」と正直な気持ちを伝えると、高橋監督は「じゃー、泳げばいいじゃない」と勧めた。

 このことを高橋監督に伺うと、「私が強制したわけじゃなく、彼女の中に『泳ぎたい』という意思がすでにあった。監督は常に選手を見ていて、声をかけたりする。私は彼女の気持ちを言いやすくしただけ」と説明してくれた。

 部員の意思を尊重する高橋監督は、「人の目を気にしたりせず、やりたいことをやればいい。そうじゃないと続かない。自分と闘い、最後には自分に勝たないといけない」と、興味を持ったことにはとにかく挑戦することが大切だと強調する。

男子選手の練習に必死でつく

 監督の勧めもあり、藤田さんが同期の水泳部員に「選手になりたい」と伝えると、「やりたいなら、やればいいじゃん」と歓迎してくれた。大学2年生の9月のインカレ終了後に選手になることが決まり、1年2ヶ月のブランクを埋めるため6月から自主練習を始めた。6時半からの朝練はマネージャー、休憩時間の昼に自主練、午後の練習でマネージャー、練習終了後に自主練、という日々が続き、「この時期が一番きつかった」という。しかし、水泳に戻れたという喜びの方が大きく、気持ちはくじけなかった。

黙々と背泳ぎの練習をする藤田さん

 選手として本格的に練習が始まると、最初はウォームアップだけでヘトヘトになった。メニューは男子選手と全て同じだ。男子選手の練習の邪魔にだけはならないようにと必死でついていった藤田さんは、「自分がチームにいることのメリットは何かを常に考えていた。デメリットにはなりたくなかった」という。

 「試合を意識したメイン練習では、選手がお互いに声を掛け合って盛り上げるんです。練習が終わると、選手同士で握手をして頑張ったことを称えあう、それが楽しい。練習の雰囲気が本当にいいんです」

頑張りがチームメイトに刺激

 チームを意識して練習するようになった藤田さんは、次第にチーム内での自分の役割を自覚するようになっていった。3年生のインカレ前に同期からもらったカードに「佳那の頑張りに刺激を受ける」と書いてあった。「ウォームアップについていけるようになった自分の成長が、チームメイトの刺激になる」と自覚し、自らの役割に徹するようにした。

 「とにかく明るい。2年から一緒にやってきて、弱音を一度も聞いたことがない」。2年生から水泳部に入部した同期のマネージャーの井上麻実さん(総合政策学部4年、中大杉並高校出身)は、藤田さんについてこう話す。

 取材中も笑顔が絶えない藤田さんに、頑張れる理由は? と聞くと、しばらく考えて、「自分にしかわからない達成感があるから。そして、仲間がいるから。一人だったら心が折れていました。本当に支えられました」と目を輝かせて答えてくれた。

(学生記者 野崎みゆき=法学部4年)