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トップ>Hakumonちゅうおう【2010年冬季号】>白実委が初のバリアフリーマップ作成 階段、段差なしの移動ルートを〝開発〞

Hakumonちゅうおう一覧

白実委が初のバリアフリーマップ作成
階段、段差なしの移動ルートを〝開発〞

 人にやさしい白門祭へ―。多摩キャンパスで行われた『白門祭』(10月31日~1 1月3日)で、このキャッチフレーズが記者(野崎)の目を惹いた。白門祭実行委員会のホームページをみると、「環境」への取り組みと並んで、「バリアフリーマップの作成」とあった。初めての取り組みと知り、早速、 関係者にあたってみることにした。

 多摩キャンパスは立地上、階段や坂が多い。障害のある人や足の不自由なお年寄りなどには、何かと不便で厄介を強いられる。そこで初めてつくられたのが、「バリアフリーマップ」(別掲のMAP参照)で、多摩都市モノレールの中央大学・明星大学駅からキャンパス内に入り、9号館クレセントホールまで段差なしで移動することができるルートが地図上に示されている。

 校舎内などのエレベーターの場所も示されていて、段差の移動が困難な車イスやベビーカーを使う来場者が、構内をスムーズに移動できるようにと作成された。

きっかけは一人の学生の提案

 バリアフリーマップ作成の経緯について聞くため、記者は、白門祭当日、白門祭実行委員会本部を訪ねた。白実委事務局長の長沢友寛さん(商学部3年)は、「実行委員会ではバリアフリーについては全く気づかず、当初考えてもいなかった」という。「夏休み前に、奥山さんという学生が突然、実行委員会の会室を訪ねてきたんです。バリアフリーに関するさまざまな資料を持参していて、それを見ながら、『白門祭でバリアフリーを考えてくれませんか』と言われました」。

 奥山さんとは、聴覚の障害と「背柱側湾症」(せきちゅうそくわんしょう)という病気があり、日頃から中大のバリアフリー化に強い関心を持っている奥山陽さん(文学部2年)だ。

 奥山さんの提案を受けた白実委では、会議を開き、どうするかメンバーで議論した。「本当だったら、スロープをつくって段差をなくすことができたらいいんだろうけど、それは私たち学生には難しい。自分たちにできることは何か? と考えて、バリアフリーマップをつくることにしました」と長沢さん。

手探りで、ルート修正繰り返す

3号館のエレベーター

 マップを作ることにしたものの、これまでバリアフリーについて考えたこともなく、〝ゼロ〞からの取り組みだったため、手探り状態が続いた。

 「歩くことに不自由がないと、階段や段差は苦にならないから、不便さに気付かない」

 「ペデ下から(中央ステージ横に構えた)白実委本部まで来るとき、階段を下りればすぐだけど、車イスやベビーカーだとスロープがないので、すごく遠回りになってしまう」

 「今の校舎ができた頃は、バリアフリーという考えがなかったから仕方がないけど、車イスだと通りにくいところが多いのに気付いた」 こうした意見が出た一方で、どういうレイアウトのマップにしたら、わかりやすくて見やすくなるのかについても試行錯誤した。

 ルートの作成にあたった小林祐生さん(法学部2年)は、「情報がなくて大変でした。作っては修正の繰り返しでした」と話す。それでも、小林さんは、「普段、大学で生活しているときに、階段を使わない楽なルートはないかと考えていた」というだけあって、「現段階では最短で最も楽なルート」を“開発”した。ただ、「(マップの用紙のサイズを)A3にまとめてしまったので、見にくくなってしまった。A4サイズで両面に載せた方が見やくなったと思う」と反省も。

白門祭バリアフリー MAP

車イスでは不便な現状知る

 記者もマップを見て、「複雑なルートだな」と思いながら、実際にルートにしたがって歩いてみた。モノレールの駅から白門祭の出店が並ぶペデ下に行くには、3号館のエレベーターを使う。しかしエレベーターは奥まった場所にあってわかりにくい。8号館も同様だ。階段ならすぐに行ける場所でも、車イスだとスロープが見当たらないので遠回りしなければならない。

ここにスロープがあれば...

 こうした実情もあって、白門祭期間中は、白実委と協力して学生のボランティア活動が行われていた。『学内ボランティアサークルほのぼの』が中心となり、点字パンフレットの作成やノートテイク(講演内容をパソコンや手書きで要約筆記すること)、車イスなどの運搬に携わった。

 白実委から支給された『介助スタッフ』と書かれたストラップを首にかけ、車イスやベビーカーを使用する来場者に、不便がないか声をかけて回った。

奥山陽さん(左)とノートテイクする渡辺伶さん(右)

 中心となって活動していた渡辺伶さん(文学部3年)は、「5人で行っているので、隅々まで配慮するのは難しい。車イスを運ぶには、少なくとも4人は必要です。白門祭に来た人全員が楽しめるように、来年以降、そうした環境をつくりたいです」と話してくれた。

 白実委委員長の早川政哉さん(法学部3年)は、「バリアフリーマップに取り組んだことで、障害のある人やお年寄りには、キャンパス暮らしが大変であることを認識した」という。作成したバリアフリーマップは、白門祭当日は、各受付に置き、車イスなどを使用する来場者に配られた。白実委では、白門祭後もバリアフリーマップを活用してもらいたいとしている。

「バリアフリー化の第一歩に」

 白門祭が終わったあと、記者はバリアフリーについて白実委に提案した奥山さんに会うため、『ほのぼの』の会室を訪ねた。

白実委の左から早川さん、小林さん、長沢さん

 奥山さんは聴覚に障害があり、授業ではノートテイクを利用したりしている。また、背柱側湾症という病気のため、階段の多さや教室のイスの座りにくさ等、日頃キャンパスの不便さを感じている。大学の福祉環境に関心を持ち、バリアフリーも含め障害を持つ学生のサポートなど、他大学と比較しながら中大の福祉環境が充実していくように日々活動している。

 「創立125周年をきっかけに、中央大学のバリアフリーやユニバーサルデザインについて考えたいと強く思った。何をしたらいいだろうとあれこれ悩んで、とりあえず白門祭実行委員会に話しに行きました」と奥山さん。

 中大のバリアフリーの現状について、奥山さんはひとつ例を挙げて説明した。中央図書館を利用する場合、図書館1階にはエレベーターがなく、入館ゲートのある2階へ行くには階段を上らないといけない。「以前、大学見学に来た高校生の団体に、松葉杖をついた生徒がいました。友人に松葉杖を預けて、手すりにつかまってよじ登るように階段を上っていました。もしも一人だったらと思うと、ちょっと心配になります」。

 「バリアフリーマップが作成されたことは、中大のバリアフリー化を考える大きな一歩になると思う。障害や病気の有無に関係なく、すべての学生にとって暮らしやすい大学にしたいんです」と奥山さんは、これを機会に中大のバリアフリー化が進むことに大きな期待を寄せた。

(学生記者 野崎みゆき=法学部3年)