創立125周年学術企画の一環として、『日本の未来と大学生』のテーマでジャーナリスト、田原総一朗氏の講演会が11月14日(日)、多摩キャンパスのクレセントホール(9号館)で行われた。
田原氏は1934年滋賀県生まれ。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムに新境地を拓くなど、鋭い切り口で幅広い社会問題について論評している。98年には戦後の放送ジャーナリスト一人を選ぶ坂戸又一郎賞を受賞。『日本の戦争』(小学館)、『ズバリ!先読み日本経済』(アスコム)など著書多数。現在は早稲田大学特命教授として大学院での講義のほか、「大隈塾」塾頭も務める。
新聞、テレビの報道はウソ!
講演の冒頭、「いろいろ話したいことがある」と口火を切った田原氏は、尖閣諸島問題で揺れる日中関係を取り上げ、「新聞やテレビがいかに嘘の報道をしているかを言いたい」と語りはじめた。
尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件のビデオ流出については、菅直人政権は動画投稿サイトへの投稿関与を認めた海上保安官を「逮捕しないだろう」と推測。逮捕してしまえば、「ビデオが本物であることを認めることになる」と解説した。
ベトナムでの日中首脳会談が中国側から突然キャンセルされたことや、横浜でのAPEC(アジア太平洋経済協力)首脳会議で日中の首脳会談が20分間しか行われなかったことについても、「『中国が日本をバカにしている』という報道は間違い」で、「『大国の意思を示す』という声が中国の中で強まっているからで、つまり中国国内の問題に因がある」と指摘した。
また、ロシアのメドベージェフ大統領が初めて北方領土を訪問した問題についても、プーチン首相の影響下から抜け出したいという大統領の意向があったからで、「ロシアの国内問題だ」と語った。
日本は産業構造改革が必要
日本の未来と大学生」をテーマにした講演会
田原氏は、民主党政権が抱える課題にも切り込んだ。「長い期間、野党で、与党に『ダメ、ダメ』と反対をしていればよかった民主党は、政権をとる準備をしてこなかった」と指摘。例として、事業仕分けで(無駄な予算を)7兆円減らすと言っていたのに、政権をとったら実際には、「7000億円しか削減できていない」ことを挙げた。
沖縄・普天間の米軍基地移設問題に関する鳩山由紀夫首相(当時)の対応について「首相の自覚がない」と嘆いた田原氏は、現在の菅政権も官房長官や閣僚らが重要な問題をトップに伝えていないと批判した。加えて、「これは民主党政権だけでなく、日本の多くの民間企業にも見られる問題だ」と指摘した。
そして話題は「日本の未来」に及んだ。田原氏は、1990年に国際競争力が世界トップだった日本は現在27位で、先進国の中で最下位であることを紹介し、「これは産業構造が当時から変わっていないからだ」と述べた。そのうえで、アラブ首長国連邦での原子力発電所建設の受注先が日本メーカーを抑え韓国企業に決定したことや、将来性のある水ビジネスでも日本の参入がほぼ無い現状を指摘し、「みんなで力を合わせて、構造改革をしなきゃダメだ」と強調した。
答えのない問題を考える
一時間ほどの講演のあと、質疑応答が行われた。このなかで、「学生は未来のために今何をするべきですか」という質問に対し田原氏は、「今の学生に必要なのは、社会の様々な問題に関心を持ち、答えのない問題を考えることだろう。そうすることで先行きの見えない不透明な現代は、明るい未来へと切り開かれていくだろう」と語った。
この他、会場からは、「もっとテレビに出演し、議論を見せて欲しい」という応援メッセージも飛び出し、会場からは大きな拍手が沸き起こった。
(学生記者 橋本奈緒美=理工学研究科博士後期3年)