トップ>Hakumonちゅうおう【2010年冬季号】>【表紙の人】中央大学 源流、記憶そして未来へバーチャルリアリティ&寸劇に出演
吉岡 拓麻さん/商学部3年
アカデミックガウンと学位帽がよく似合う。舞台では、何回が衣裳を着換えたが、最後に身にまとったのがこのガウンだった。大役を無事に務め終え、スタッフ一同と記念写真に収まる吉岡拓麻さん(商学部3年)の顔にほっとした表情が浮かんだ。
演技を終え、ほっとした表情の吉岡さん演技を終え、ほっとした表情の吉岡さん
吉岡さんが演じたのは、『中央大学 源流、記憶 そして未来へ』と題した約30分のバーチャルリアリティ&寸劇。11月13日に、クレセントホール(9号館)で行われた中央大学創立125周年記念式典で、列席した約1600人の前で披露された。
寸劇を演じたのは、吉岡さんを含む3人で、ほか二人は、落語家の柳家さん喬さん(中大附属高等学校卒)とミュージカル女優の宮ヶ原千絵さん(総合政策学部4期生)と舞台経験が豊富なプロ。吉岡さんだけがズブの素人だった。舞台に立つのははじめてで、「小学校の学芸会でも、表に出るのが嫌で、裏方にまわった」というほど芝居に無縁だったのが、なぜ晴れの舞台に初挑戦することになったのか―。
仕掛け人は、ゼミの先生だった。
「登場人物が3人で、寸劇をやるんだけど、やってくれない?」
本番の半年前、聴講生として受講しているFLP「地域・公共マネジメント」プログラムの黒田絵美子・総合政策学部教授から、突然、声をかけられた。劇作家でもある黒田教授は、バーチャルリアリティ&寸劇の台本・演出を手掛けていたのだ。
「はい。わかりました」。吉岡さんは、その場で即答した。「自分が協力できることなら、ぜひ協力したいと思った」という。黒田教授は、吉岡さんが断るはずがないと確信していたのだろう。後日渡された台本には、しっかりと配役に「吉岡」の名前が刷られてあった。
柳家さん喬師匠から演技指導を受ける吉岡さん
吉岡さんが黒田ゼミと縁ができたのは、2年生のとき。「黒田ゼミがパルテノン多摩で行った音楽祭をお手伝いしたことがきっかけ」だった。「面白そうだな」という気持ちで手伝いに参加し、実践的に活動する黒田ゼミに関心を持った。その後、黒田ゼミの聴講生として、毎回の講義に出席し、熱心に勉強に励んだという。「普通では出来ない、様々な経験をさせてもらえる」と、吉岡さんは黒田ゼミの魅力を語る。
寸劇の出演を引き受け、本格的に稽古をした期間は2ヶ月間。大学で稽古するときもあったが、主に黒田教授と懇意の住職がいる『雲光院』(東京都江東区)の本堂で稽古は行われた。1日に4~5時間の猛稽古を17回(日)こなした。うち10回が本堂での稽古だった。
稽古場で黒田教授(右端)から指導を受ける3人の出演者
黒田教授と面識のある柳家さん喬師匠に演技指導を受け、多くのことを学び、感じとったという。なかでも苦労したのがアドリブで演技すること。寸劇のなかで宮ヶ原さんと一緒に、関東大震災に見舞われて怯えるシーンがあるが、「感情で動くということがどういうことなのか分からず、難しかった」と稽古中の苦労を口にした。
住職からは、姿勢や歩き方を正された。「住職の立ち居振る舞い、挨拶の仕方、そのどれもがものすごく綺麗だった。それで、住職のようにしたいと思い、意識して稽古した」。練習の様子を映したビデオを見ては、猫背にならないように心がけ、「見た目の印象を気にするようになった」という。
11月13日の式典当日、クレセントホールを埋めた満員の観客を見ても動じなかった。「間違えたら申し訳ないなと思いましたが、平常心で頑張ろうと思いました」と腹は据わっていた。本番でも稽古通りの演技ができた。終了後、「無事に終わってよかったと思った」と話した時の安堵の表情が印象的だった。
今までは積極的に人前へ出て行くタイプではなかったという吉岡さんは、「今思えば、よく引き受けたなあと思います」と照れ笑いしながら話した。今回の寸劇には、出演したさん喬師匠、宮ヶ原さん、それに黒田教授はじめVR,衣装、照明担当者など多くのプロが携わった。「仕事を間近で見る機会が多く、そのたびにプロの仕事の早さや質の高さに驚いた。その凄さを見られたことが一番勉強になった」と語る吉岡さんの言葉からは、新しい世界を肌で感じ、未知への挑戦をやり遂げた結果得られた力強さが感じられた。
宮ヶ原さん(左)と舞台稽古
本番前日に通し稽古を行った
駿河台校舎閉校祭のシーンの稽古
(学生記者 三島薫=経済学部1年)