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トップ>Hakumonちゅうおう【2010年夏季号】>【連載企画】ボランティアと私-何かを求めてー 手話通訳

Hakumonちゅうおう一覧

連載企画 ボランティアと私-何かを求めてー

手話通訳

渡辺 伶さん/文学部3年

卒業式で初の手話通訳

 3月25日に行われた多摩キャンパスでの卒業式。会場の第1体育館3階アリーナを埋めた大勢の卒業生、父兄らに向かって、渡辺さんは他の仲間ととともに、永井和之総長・学長の式辞、続く久野修慈理事長の祝辞を手話通訳した。卒業式で手話が行われたのは、これが初めてだった。

 2年生だった前年の冬、所属しているノートテイク・ボランティアの大学担当者からメールで、「卒業式で手話通訳をしてみませんか?」という募集案内が送られてきた。渡辺さんは手話を習い始めてから、1年も経っていないので、「指文字がうまく扱えず、ゆっくりでも読み取ることができないことが多々あった」ため、参加するかどうかちょっと躊躇した。でも、「手話通訳の世界をもっと覗いてみたい、体験してみたい」と積極的に考え、参加することを決めた。

「情報保障」学ぶ合宿に

渡辺伶さん

 卒業式での手話通訳参加が決まった時、渡辺さんは加入している『ボランティア・サークルほのぼの』の先輩から、「関東聴覚障害学生懇談会(通称、関懇)」の合宿に参加しないか」と誘われた。東京・代々木のオリンピックセンターで行われる「情報保障」(身体的なハンディキャップで情報収集することができない人に対し、代替手段を用いて情報を提供すること)について学ぶ2泊3日の合宿である。

 合宿の参加者の3分の2が聴覚障害者、3分の1が健常者で、ゲームなどを使って聴覚障害の学生と交わりながら情報保障を学ぶ。まだ手話初心者の渡辺さんは、「障害者の学生の手話は早くて読み取れず、自分も伝えたいことをうまく手話にあらわすことができず、とても辛く、悔しい思いをした」。

 しかし、コミュニケーションがうまくとれない環境の中での2泊3日の合宿で、学んだことも大きかった。「もっと勉強してコミュニケーションがとれるようになりたい。卒業式での手話通訳を頑張りたいという気持になった」という。

 手話通訳は大切な情報保障のひとつだが、聴覚障害者の誰もが手話ができるとは限らないため、司会者が話をする時、司会者の隣では手話、参加者全員が見える位置にはパソコンテイクというように、2種類の方法で情報を伝えることを知った。電気をつけたり消したりして、「前を向いて下さい」という合図を送るなど、渡辺さんは色々な方法を使って情報を伝えることを学び、情報保障の大切さを実感した。

猛特訓で手話通訳学ぶ

 合宿後、卒業式の手話通訳の練習が始まった。手話通訳するのは卒業式での挨拶なので、日常会話とは違う硬い表現が多く、毎日、学校で、そして家に帰ってからも猛特訓をして、必要な技術を学んだ。

 いよいよ卒業式の当日、サークルの仲間から「間違えてもいいから堂々と頑張ってきなよ」と応援されて、本番に臨んだ。結果はまずまずで、「あまり緊張せずにやりとげることができました」と渡辺さんは振り返る。

 中学生の時、夏休みに地元の町主催のボランティアに参加した経験があり、大学に入る以前からボランティアに興味があった渡辺さんは、2年生になってボランティア・サークル『ほのぼの』に入会した。4月の新歓時に会員募集のポスターを見たのがきっかけだった。「新しく何かを始めたい。手話って面白そうだな」と思ったからだという。現在は『ほのぼの』の委員長を務めている。

卒業式で手話通訳する渡辺さん

 『ほのぼの』は、中大に在学する障害者がよりよい大学生活を送れるように支援していこうというサークルだ。以前は、点字朗読中心の活動をしていたが、現在は聴覚障害者2名がサークルに所属しているため、手話やノートテイクなどの活動を中心に行っている。

 週1回勉強会を開き、先輩からビデオを見ながら日常会話の手話を学ぶ。勉強会のほかには、休み時間や空いた時間にサークル室に集まり、先輩に分からない手話を教えてもらったりして、障害者の学生も一緒になって会話を楽しんでいるという。

 「手話が分からない時は、紙に書いて伝えたりしています。障害のある学生と日常的に接していくことによって、いつのまにか障害という壁を感じなくなりました」。渡辺さんは、障害者であろうと健常者であろうと、共に支え合うことには変わりがないことに気付いたのだ。

卒業後は教師を目指す

 卒業式での手話通訳を体験して、情報保障に強い関心をもった渡辺さんは、「僕たちが当たり前に見えていることが、障害者にとっては当たり前でないことが多々あることが分かった。だからこそ、自分が当たり前に思うことは、本当に当たり前なのかを考えてから行動したいと思うようになった」という。

 「聴覚障害者を偏見的な目で見て欲しくない。『障害は個性だ』『手話は外国語だ』という考え方もあるようですが、障害者はこうだと決めつけないで、色々な視点で見て欲しいです」という渡辺さんは、卒業後は学生生活の体験を生かして、周囲に気配り、心配りできるような教師を目指している。

学生記者 橋本あずさ(法学部3年)