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トップ>Hakumonちゅうおう【2010年春季号】>【表紙の人】目指すは「リーグ優勝、大学日本一」学生最速キロの剛速球を武器に

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表紙の人

目指すは「リーグ優勝、大学日本一」学生最速キロの剛速球を武器に

澤村 拓一投手/硬式野球部(商学部4年)

澤村 拓一投手

 2月10日からの宮崎キャンプを前に、硬式野球部員全員が頭を坊主刈りにした。高橋善正監督からの指示だった。これまでも坊主刈りにしたことはある。しかし、今度はいつもとは部員の気持ちの入れ方が違った。

 「東都大学リーグ1部で優勝し、明治神宮大会で大学日本一になる」―。中央大学が創立125周年を迎えた今年、高橋監督がこう宣言しているからだ。選手全員が「目標を決めたことに対し、形(坊主頭)に表さないと気持ちが入らない」という思いで結束した。

 「戦国東都」といわれるなか、硬式野球部は平成16年(2004)秋に25年ぶりに1部優勝(通算24回目)してから、久しく優勝から遠ざかっている。大学の創立125周年を祝うためにも、「リーグ1部優勝、大学日本一」を熱望する大学関係者はじめ卒業生、ファンらの期待は大きい。

「勝つことが全て」と自覚

 その目標成就に向けて注目されるのが、エース右腕の澤村拓一投手(商学部4年)だ。昨年秋のリーグ戦で、神宮球場での大学生最速となる「156キロ」をマーク。昨年11月22日に行われた26歳以下のプロ野球選抜と大学日本代表との試合にも出場した大学1、2位を争う投手で、プロ野球からも熱視線が集まるチームの大黒柱だ。

 「リーグ戦はもちろん優勝を目指します。個人としては、あのときこうしておけばよかった、という後悔を残さないようにしていけば、勝てると思っているので、そういう気持ちでラスト1年取り組みたい」

 澤村投手は、4月6日からはじまる春季リーグ戦へ向けた意気込みを力強く語った。エースとしての自覚に揺るぎはなく、不安やプレッシャーを感じている様子は少しもない。「勝つことが全て」と自らに言い聞かせてもいる。プロ野球も注目していて、今年秋のドラフト会議では上位指名が確実視されているだけに、すでにプロ意識が芽生えている。

 澤村投手は小学校2年生から野球を始めた。友達と一緒に、地元の野球チームに入った。それまではサッカー少年だった。6年生からはピッチャーを始め、中学校では野球部に入って、本格的に野球に取り組んだ。中学校卒業後は佐野日大高校(栃木)に進んだ。高校では3番手、4番手のピッチャーで、最後の夏は外野手で、背番号は「9」だった。

筋トレで入学時より14キロ体重増

 高校時代は甲子園の出場経験はなく、直球のスピードには非凡さはあったものの特別に目立った選手ではなかった。中大には、夏に志願者を集めて行われるセレクションを経て、スポーツ推薦で入った。

真剣な表情の中にちょっぴり笑顔も

 才能が一気に開花したのは、中央大学に入ってからで、1年生の春(2部)には10試合に登板して4勝をあげ、早くも主戦格に名を成した。「春から投げてもらうからそのつもりでいてくれ」と言われ、高校の野球部を引退したあとも練習を続けた成果が出た。

 2年生の春(2部)までの3シーズンで、通算7勝2敗を記録。その春2部優勝した中大は6季ぶりに1部昇格を決め、その立役者の一人になった。08年秋から09年秋まで1部での3シーズンの通算成績は10勝(登板25試合)。いまや押しも押されもせぬ不動のエースだ。

 「大学の3年間が一番のびた」と強調。その理由は「考え方が変わったから」という。中大に入ってからは、「下(半身)を強くすること」に徹し、2時間のウェイトトレーニングを週に2、3度行うことを自らに課している。練習が終わり、ほかの選手が寮に帰ったあとも黙々と自主トレに励んでいる。

 そのかいあって身長183センチで、入学当初75キロだった体重が、現在は89キロまでに増えた。「体が大きくなったのに比例して球速もあがってきた」。すでに十分にがっちりしているように見えるが、澤村投手自身は「まだ細い。もっと太くしないといけない」とさらにパワーアップを目指している。

 ただ、それだけではない。「トレーニングの中で一番やった気になるのが、体力トレーニングで、多くの選手が『体力作り=練習』だと思っていると思う。でも実際は他の選手と最も差がつけられるのは、〝考え方〟の部分です。〝考え方〟のレベルが上がれば他の選手を突き放すことができます」と強調する。目標にしてきたプロ野球が手に届くところにきているだけに、もう野球のことしか頭にない。

高橋善正監督は「親よりもでかい」

「3点以内に抑える」とエースの自覚

 大学に入ってから澤村投手に最も影響を与えたのが、中大OBの投手でプロ野球の巨人などで活躍した高橋善正監督だ。「一番でかい。親よりもでかい」と言うほど高橋監督の存在は大きい。「高橋監督という指導者に出会えたことはもちろん、高橋善正という人に出会えたことに縁を感じる。今の自分がいるのは監督の下で野球をやれているから」という。

 「監督の言葉の裏に愛情を感じる。自分のためを思って言ってくれているんだ、とすごく思う」と高橋監督に対する信頼は絶大だ。「監督からはピッチングフォームについてはほとんど言われない」という。ただ、課題とするコースの投げ分けなど投球の幅や投球術については指導を受ける。

 「速球は武器になるが、投手にとって最も大切なのはコントロール」というのが、高橋監督の持論で、頭を使って打者の心理を読むことの大切さを教えられている。

 野球に関することだけでなく、高橋監督からは人間としての礼儀、所作はじめ、「日常の小さなことから大切にする考え方を学んだ」という。「物事をはっきり、ストレートに言うところが好きです。こう思ったらこうだ、というところが自分と似ていると思う」と監督の人柄にも魅力を感じているようだ。「ただ(自分は)Yesマンではない。目上の人に何を言われても、自分の意見ははっきり言います。譲れない一線はある」と強調する。

毎試合ベンチ入りで、連投辞さず

 澤村投手は、年が明け、春のリーグ戦に向けたキャンプインを前に、決意を固めた。エースとして連投も辞さないことを覚悟したのだ。

 高橋監督は、昨秋までは初戦に先発したエースは、2戦目はベンチ入りさせていない。ベンチ入りさせればついつい頼りたくなってしまい、3戦までもつれた場合には3連投になりかねないエースの疲労と故障を気遣うからだ。

 澤村投手の決意からは、「リーグ優勝、大学日本一」に向けた強い意思が伝わってくる。春のリーグ戦の開幕はもうすぐ。澤村投手の活躍と中大の勝利を見に、神宮球場に応援に行くのがますます楽しみになってきた。

学生記者 野崎みゆき(法学部3年)