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トップ>Hakumonちゅうおう【2010年125周年記念号】>【ニュースPlus】「海の紛争と国際裁判」をテーマに柳井俊二・国際海洋法裁判所判事が講演

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【ニュースPlus】

「海の紛争と国際裁判」をテーマに
柳井俊二・国際海洋法裁判所判事が講演

 元法学部教授で、現在、国際海洋法裁判所の判事を務められている柳井俊二先生の講演会(法学部主催)が7月13日、多摩キャンパス8号館の教室で行われた。講演テーマは「海の紛争と国際裁判」で、会場となった大教室は将来、国際機関で仕事することを目指す学生をはじめ、国際法に関心のある多くの学生で埋まった。

講演する柳井俊二先生

 柳井先生は東大法学部卒後、外務省に入省、条約局長、総合外交政策局長、外務審議官などを歴任後、外務次官に就任、その後、駐米大使を務められた。退官後は本学法学部・法科大学院教授(2002~2007年)として教鞭に立たれ2005年からは国際海洋法裁判所判事の職にある。

 講演は、海の領域国連海洋法条約と紛争解決手続き国際司法裁判所(ICJ)、国際海洋法裁判所(ITLOS)、仲裁裁判所の共通点と相違点―などについて、スクリーンを使って、柳井先生の豊富な体験と事例を交えながら、進められた。

 まず海の領域について、「私が学生だった頃は内水、領海(3海里)、そして公海の3種類しかなかった」と柳井先生。昔、領海の幅は「大砲で管理できる範囲」として国際慣習法上3海里に定められたという。

 それが1958年にジュネーブ国連海洋法条約が採択され、内水、領海、接続水域、大陸棚(原則水深200m まで)、公海に海の領域が成文化された。その際、領海の幅を広げる動きが強くなったものの、具体的な幅が合意できなかったため「漁業紛争などが多発するようになった」。さらに1982年の国連海洋法条約で、内水―領海(12海里)―接続水域(領海から12海里まで)―国際海峡―群島水域―排他的経済水域(基線から200海里)―大陸棚―公海となり、海の領域に対する国家の管轄権が広がった。その外側の深海底とその資源は、「人類の共同の財産」として国際的に管理されることになった。

 その結果、海洋資源や船舶航行などをめぐる「海の国際紛争が多くなり、今日に至っている」と柳井先生は解説した。

 紛争が起き、当事者間の交渉や調停で解決されなかった場合に付託されるのが、国際海洋法裁判所(ITLOS)、国際司法裁判所(ICJ)、仲裁裁判所だ。裁判所への付託は、原則として紛争当事者間の合意が基本になる。

柳井先生の講演会場は学生で埋まった

 3つの裁判所は、法的に拘束する判決・判断をだすことができることでは共通しているが、相違点もある。

 例えばICJとITLOSは任期9年の裁判官で構成される常設の司法機関であるのに対し仲裁裁判所は、仲裁人の選任について紛争当事国間の合意を必要とするので、紛争当事国の意向が反映されやすいという長所はあるが、裁判の開始までに時間がかかる。また、仲裁人への謝礼が必要になる。「ICJ、ITLOSは任期が長いので比較的裁判の一貫性が保たれやすい」と柳井先生。

 ICJとITLOSの主な違いは、ICJは付託される国際紛争について限定はなく、国際連合の主要な司法機関であるのに対し、ITLOSは国連海洋法条約の下で設立された司法機関ではあるが、国連とは独立した司法機関となっている。

 柳井先生が務められているITLOSは、まったく国籍の違う21人の判事で構成されているという。「なにより文化が違うことがおもしろいです。宗教もさまざまです。よくみんなでお茶を飲んだり、いっしょに食事をしたりします。しかし、いざ裁判となると全員裁判官の顔になります」と柳井先生は自らの体験を交えて、国際色豊かなITLOSを紹介した。

 講演では、最後に質問の時間がとられ、柳井先生は学生からの北方領土や東シナ海の資源問題などの質問に、丁寧に答えられていた。

(学生記者 豊福三晃=文学部2年)